メンバー紹介
二人の足音だけが響く。
あの人の召使い的なこの人は、「サタ」という名前で、自称あの人のお世話係らしい。確かにしっかりしてそうな雰囲気を身にまとっている。
そして、あの人のことは「ボス」と読んでいて、名前は教えてくれない。みんな、「ボス」と呼ぶらしい。
それだけ言って、会話はなくなった。
「えーと、ここがお前の部屋だ。家具一式は揃えてある」
「こ、ここが僕の部屋ですか…?」
アンティーク調の綺麗なベットに綺麗な机。本棚やノートパソコンまでもある。何だか女の子っぽい気もするが。
「全部ボスのご意向だ。文句を言うな」
気だるげにそう言われて、はやくこの仕事を終わらせたいという感じだ。
「いえ、文句だなんて……」
「ならばいい。次行くぞ」
「あっ、はい」
サタさんが少しヒールの高い革靴をコツコツ鳴らしながら、早足で歩いていく。僕よりも十五センチほど背の高い彼に早足で歩かれると、僕はしばしば駆け足にならなければならない。
案内されてわかったが、ここはオフィスというよりシェアハウスみたいな感じだ。僕を含め7人。人間関係構築が苦手分野な僕が、ここで上手くできるのだろうか。
「ここがリビング兼オフィスだ」
と紹介されたドアの先から騒ぎ声が聞こえる。
「よっしゃ、またわいの勝ちや!!」
「いっつもアムの勝ちでつまらんわぁ」
「お前が弱すぎんだよ」
「おい、お前らうるさいぞ」
ドアを開けると二人の人がゲームをしていた。あと菓子を食べながらゴロゴロしている人も。
「あっ、サタさーん!アム倒してくださいよぉ、いっつもあいつの一人勝ちでむかつくんですわぁ」
綺麗な長身の女性がゲームをやめて話しかけてきた。肩につくぐらいの長さの髪は、光をも味方にして艶めいていて、毛先が柔らかいピンク色に染まっている。顔立ちはアンニュイな感じで、つい、その美しさに目を奪われてしまう。
「そんなことはどうでもいい。新人の……」
とサタさんが言いかけたところで
「ん?何やこのちっこいのは?」
ともうひとりの人も話しかけてきた。
「……新人の紹介に来た。リアって言うんだ。仲良くしてやれ」
サタさんが、ライオンの群れに肉を差し出すみたいに、背後に隠れていた僕の背中を押した。
「あーあの、ボスが気に入っちゃったってゆう人間の子やろ?わいはアムって言うんや。よろしゅうたのむわぁ」
「よろしくお願いします……」
初対面で、頭を撫でられた。関西弁、短髪の橙色の髪の毛とつり上がった細い目。すごく狐にそっくりだ。お笑いといなり寿司好きそう、偏見。
「にしても可愛えのぅ。うちとどっちが可愛えやろかぁ」
あの綺麗な女性が僕の顔を覗き込んできた。目を逸らしても、その美しいオーラがここまで届く。心臓が高鳴る。
「まぁ、うちの可愛さに勝てる人なんていーひんけんど」
僕に聞こえるくらいの声量でそう言ってから、その女性がニヤッと悪そうに笑った。
「なにやってんだよ、キュー」
さっきまでゴロゴロしてたあの人までも起き上がって、僕の元へと集まってきた。そして、あの女性の肩に腕を回して、体重をかけている。たぶん、「キュー」は彼女の名前だろう。
「ふーん、これが例の新人か。俺はルゼだ。よろしく」
と僕の顔を覗き見て、握手を求められた。僕がすんなりと握手をすると、ルゼさんはまた戻ってゴロゴロし始めた。瞬く間にルゼさんとの挨拶が終わった。きっと彼は僕のことに興味がない。
「まぁ、頑張れ。俺は仕事があるからこれで」
サタさーん、僕をひとりにしないでくださいっ!こんなところでやっていける自信がありませんっ!
って心で叫んでも無駄だけど、去っていくサタさんを無意味に目で追った。冷徹な態度のサタさんだが、いなくなるとなると、縋るものを失うように心寂しいものがあった。
「……せっかくやし、ゲームでもしよか?」
その空気を読んでなのか、僕の心情を読んでなのか、アムさんが僕を救ってくれた。さっきまでやっていただろうと思われるレーシングゲームに僕も参加することになった。
「おぉ、キューより断然上手いな」
ポテチを食べながら隣でルゼさんが見ている。
「まぁ、勝つのはわいやけどな」
アムさんがぶっちぎり一位でゴール。その後、遅れて二位で僕がゴールした。まあ、弱いコンピュータには勝てる。
「惜しかったな、ポテチでも食うか?」
「あっ、ありがたくいただきます」
ルゼさん、案外優しい人なのかもしれない。のり塩とは好みが合う。なんて思ったが、その後に棚から、コンソメパンチとピザポテトまで出してきたから、たぶん、ポテチならなんでもいいんだと思った。
「キュー、そこ右。違うって、アイテムは今じゃない」
そんなルゼさんだが、キューさんには、いや、キューさんとポテチには興味があるようで、ずっとキューさんのプレイに指示を出している。
「やっかましいわぁ、そこのポテチ星人」
イラついた様子のキューさんがポロッと不満を口にした。
「は?今なんつった?俺のこと馬鹿にしてんの?」
それを聞き逃すはずもないルゼさんがここぞとばかりに、キューさんの右頬を横からつねってる。ゲーム中なのに。もろ、好きな子に意地悪するみたいな自己顕示欲だと思った。
「はぁ?うちの顔をその油まみれの手で触るなんて、ええ根性してはりますなぁ」
キューさんがせせら笑い、コントローラーそっちのけで、ルゼさんの胸ぐらを掴んだ。キューさん、強っ。え、修羅場?
アムさんを一瞥すると、それを気にも止めないで、一着でゴールして、したり顔をしている。それから、僕の視線に気づいて、目が合うと、不思議そうな顔をされた。
「リア、CPUに負けてるで」
「あっ」
まあ、キューさんには勝った。
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