下剋上で掴んだ栄光

NOTTI

第1話:夢の実現

2022年春、鶴田健志朗は自分の経営する会社の社長室にいた。


 すると、「コンコン、失礼します」と言って、秘書の川村が入ってきた。


 川村は健志朗が大学時代に共通の友人から紹介してもらったマルチリンガルガールで、大学も日本では有名な大学を卒業しており、一時期「僕にはもったいない人材だ」と思ったほどだった。


 彼女が「社長、会見は11:00からメディアルームとプレスルームを併用する形で実施の方向でよろしいですか?」と言うと、彼は「その方向でよろしくお願いいたします。」と言った。


 実は今日の会見は会社の社運をかけた挑戦についての発表だった。


 彼の会社は社員300名ほどだが、グループ会社や提携子会社、提携個人事業主などを含めると1500人もいる大企業なのだ。


 しかし、会社の経営が悪化し、一時は負債総額が1億円を超える事があり、彼は絶望していた。


 そんなときに提携個人事業主の黒澤がある構想企画書を健志朗に送り、経営管理課や事業推進課、事業企画課など複数の部署の役職者と社長を始めとした社内役員で審査会を実施した結果、彼の案を採用し、弊社が経営権を保持する形で黒澤と合意した。


 11:00になり、会場に入ると100社以上のメディアや記者が集まり、シャッターシャワーが起きていた。


 その後、着席した社長が発表の内容を話すと会場がどよめいた。


 それは、“教育事業及び人材育成事業の拡大”という同業他社からするとかなりリスクを伴う決断だった。


 実は黒澤は教育評論家であり、経済評論家でもあるという異色の肩書きを持ち、彼の人脈のパイプは国内に留まらず、海外にも多数のパイプとなる人脈を持っている人だった。


 2ヶ月前、全社員に“構想案を出して欲しい”というメールを出していた。


 しかし、出された構想案を見てもありきたりなものや既存の事業をリニューアルしたものなど健志朗にとっては物足りなかった。


 実は今回彼がやってみたかったのは“教育事業における新たな教育の形”だったが、マーケティングを進めると自分の想像する以上に難しい事で、プロジェクトチームを立ち上げるにしても示せる実績や数値がなかったことで前途多難なスタートになっていたのだ。


 しかも、情報を集めるにしても現時点ではフリーで動ける社員は30名ほどで、ほとんどが新卒で入ったばかりの新入社員か、異業種から転職していた中途採用の社員しかいないため、このプロジェクトに参加させるにしてもいろいろと教えなくてはいけないことが多く、発表までの2ヶ月間は猫の手も借りたいほど忙しい毎日を送っていた。


 そして、発表の直後から30人の社員に対して課題を課して、最後のメンバーを決めることにした。


 その頃、発案者の黒澤は現場担当者との打ち合わせや教育施設の建設予定地の視察など個人で動ける事を1人でやっていて、毎日社長に報告を上げていた。


 ただ、彼もまた個人事業主であり、社員を雇用していないため、採用されたことは嬉しい反面、自分の足で情報を集めないといけないため、会社の業務の合間にスケジュールを入れるなど親会社に納品するまでは気が抜けない時間を過ごすことになった。


 そんな多忙な日々を過ごしている時のことだった。


 その日は本社との打ち合わせの日で、黒澤が本社に向かっていると、彼の仕事用のスマホが震えた。


相手は本社のプロジェクト・サブマネージャーの楠本で、電話に出てみると「黒澤さん、もう本社向かわれていますか?実は、本社のプロジェクトリーダーの川島が体調を崩して救急搬送されたので、本日の会議はマネージャーの古村と今回のプロジェクトを運営・管理する子会社・鶴田アカデミックソリューションの琴原社長と先に会議をして、その後、本社のプロジェクトチームとのミーティングになります。」という内容だった。


 彼はまさかの事態に開いた口が塞がらず、これから待っている業務内容に戦々恐々していた。


 実は、彼はいくつもの事業などに携わってきたが、今回のような複数企業が合同で行う大規模プロジェクトには参加したことも携わったこともなかったため、彼はまだこのあとに起こる事を知らなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

下剋上で掴んだ栄光 NOTTI @masa_notti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ