第3話 ただの狐じゃなかっただけ

 ご飯を食べさせ終わると、狐? は落ち着かない様子で私をみてくる。

 ゆっくりて頭に手をのばせば、一瞬身を固くするが、私は構わず頭を撫でる。

 優しく撫でていると、やはり狐? は、目を閉じて身を任せてくる。


「ん、かわいい」


 ゆっくり体に手を滑らせれば、尻尾をゆらりと上げて、また下ろす。

 それが面白くて、私はゆっくりベッドに上がる。


「だいじょうふだよ」


 驚いたのかまた身を縮めてしまった狐? に声をかけると、ベッドに座った私は、狐?を抱えて自分の膝にのせる。

 そして、今度は優しく抱き寄せながら、狐? をゆっくりと撫でる。


 あぁ、そういえばかあさん達にはなんて説明しよう。

 怒られちゃう、かな?

 とうさんがマー(馬の名前)を連れて帰ってきた時かあさん怒ってたからなぁ。

 ん、内緒にしよう。バレないようにお世話しなきゃ。


 「ふわぁ、んゅ、ねむたい」


 いつもよりたくさん動いたせいか、堪らない睡魔に襲われる。


 「ん、よるごはんまでなら、ねてもいいよね?」


 そう独り言を呟くと、寝転がり狐? もろとも布団に入る。

 狐? は、何が起こったか分からないというように、落ち着きなく辺りを見回したが、布団の中で優しく撫でてやると、やがて落ち着き、私に身を寄た。

 ん、やっぱりかわいいな、つれてきてよかった。


 「ゆっくりやすんでね」


 お腹周りの温かさに誘われ、私の意識は瞬く間に微睡んでしまった。



  ・



 んん、少し息苦しい。

 体が、重い?

 まだ重い瞼をうっすらと開く。

 辺りはまだもう暗くなっており夜のようだ。

 もう雨はあがっているらしい。

 窓から差し込む月明かりに照らされ、ソレがみえる。


「? だぁれ?」


 胸元には、私より少し大きく、狐色の獣耳が生えた頭が押し付けられており、私の体はしっかりと両腕で包み込まれ固定されていた。


 ?! えぇっと、本当にだれ? 狐の耳、あと、尻尾もある! えっ、あ、えぇ、もしかして、獣人じゅうじん族? 


 〟獣人じゅうじん族〝知られている多種族の中でも、最も有名で、また数が多い。

 多種族交流がある国では、基本に一定数以上の獣人が目撃され、もはや知らない人の方が少ない多種族だ。


 でも、何で此処に?

 かあさんが、この国は多種族の交流をしてない、むしろ多種族に良い顔をする人は少ないから、多種族はこの国には近付かないって言ってたのに。


「ил、ΣθЪ、φБЛ」


「ぇ?」


 考え込んでいると、獣人が目を開けてこちらをみあげていた。

 何か言っているのかもしれないが、言葉が分からない。


「えっと、じゅうじんさん?」


 ゆっくり声を掛けると、あの狐?と同じ眼で、不安そうに私をみつめている。

 あぁ、この獣人はあのこなんだ。

 今更かもしれないが、しかし、まさか拾った生き物がこの国では珍しい獣人とは、思い至らなかったのだ。


 ん、元が分かれば怖くない。

 不安そうにみつめながらも私の体離そうとしない獣人を、私も優しく抱き締め返してみる。


「!」


「ん、だいじょうふだよ」


 きって、私の言葉も伝わっていないだろう。

 それなのに、このこはゆっくりと、私を抱き締めていた腕に力をこめる。


「やっぱりひろってきてよかった」


 ただの野狐ならまだしも、私と同じ人類種を見捨てていたら、罪悪感は比ではないだろうから。

 それに、こんなに可愛い、本当、拾ってよかった。


「θлБ」


 ふと、獣人がこちらを見上げ、声をあげる。

 ん~と、なんだろ? 撫でて欲しいのかな?

 私は、抱き締めていた腕をゆっくり緩め、狐の耳が生えた頭を優しく撫でる。

 すると、獣人は私に身を寄せて、ゆっくり目を閉じる。


 そして気づいた。

 あっ、このこ、裸だ。

 当たり前だ、狐の姿の時は何も身に付けていなかったのだから。

 ん~、暖かいから大丈夫だとは思うけど、裸で歩く訳には行かないよね。

 やっぱり隠しとかなきゃ。

 それに、このこの体、傷だらけだ。

 何かに切り裂かれたような傷に、大きな打撲傷、そして全身についた沢山のかすり傷。

 いっぱい、いっぱい、痛かったんだろうな。


「ごめんね」


 一言謝って、一番近くにあった肩の打撲傷を、優しく指で撫でる。

 傷を撫でられた獣人は、私の背中にまわした手で、ぎゅっと服を握り、自分の頭を私の胸元に擦り付ける。


 あぁ、このこ、私が拾わなきゃ死んでたのかな?

 傷だらけで、あんな所に独りで、冷たくなっていたのかもしれない。

 急に、このこの死が鮮明にみえてしまって。

 いやだな。

 死んでしまうなら私が欲しい。

 傷付いているなら私が助けたい。

 そんな、自分の中の独善的な想いに気づいてしまったから。


  〟わたしが〝たすけなきゃ


 だから私は、


「ねぇ、わたしのモノになって」



 始まりの言葉をこのこにあげたんだ。

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