第2話 ただ狐?を拾っただけ

 意外と、狐? は抵抗することなく私に抱えられた。

 もしかすると、もう抵抗する力も残っていなかったのかも知れない。


「だいじょうふだから、うごかないで。ん、しょ、うぅ、いがいとおもい」


 狐? は、私の腕の中で体を強張らせ、特に身動きを取らない。

 ゆっくり狐? を抱き上げた私は、すぐに森から出て、家まで急いだ。



  ・



「あ~、あめきちゃった」


 半分ほど歩いた所で 小雨だか、確かに雨が降り始めた。

 かあさんの天気予想はやっぱすごい。


 ふと、寒いのか狐? が腕の中で、小さく身を寄せる。


「だいじょうふ、もうすぐだから」


 濡れちゃうと可哀想、だよね、早く帰らなきゃ。

 少し足の速さを上げて、雨の中、ボロボロのソレを抱え、子どもながらの精一杯で家に帰った。



  ・



「はぁ、はぁ、はぁ~」


 うぅ、腕が痛い、疲れたぁ~。

 やっとのおもいで家に着き、自分のベッドに狐? を寝かせる。


 のど、かわいたなぁ。

 ん~、このこもお水いるかなぁ?

 弱りきった狐? をみながら、子どもながら頭を回す。


「ちょっと、まっててね」


 台所にある水瓶の水を、自分の湯呑みにいれる。

あのこのは、ん、このお皿にしよう。

 お皿にも水をに入れて、ベッドまでもどる。


 お皿に入った水を、狐? の目の前に置いてみる。

 狐? はゆっくりと顔を近付け、少し警戒するように匂いを嗅いだが、やがてペロペロと水を飲み始めた。


「わぁ、おみずのんだ。すごい」


 次はぁ…、あぁ、そうだ、体を拭かなきゃいけない。

 また、台所へ走り、今度は桶に水を入れて、部屋まで運ぶ。


「んぅ、しょっ」


 いつもより多めに水を入れた桶は、狐? よりも重かった。

 部屋に戻り、私はいつものように服を脱いで、体を水で濡らした布で拭く。

 冷たいけど、拭かなきゃ臭くなるんだって、かあさんがとうさんに怒ってた。


「このこも拭かなきゃ、だよね」


 狐? の方を向くと、さっきまでずっとこちらをみつめていたのに、何故か目を逸らしている。


「?」


 濡らした布を片手に持ち、ゆっくり狐? に触れる。

 一瞬、体をびくつかせるが、優しく撫でると、ゆっくり目を閉じてる。

 そんな狐? の体を、私はゆっくり、痛くないように優しく拭く。


「きれいになった、かな?」


 汚れは取れたのか、布がとても汚れ血もついていた。

 代わりに狐?の毛が濡れていて、本当に綺麗になったのかがよくわからない。

 乾いた布でもう一度拭いてやるが、張り付いた毛は、しばらく元には戻らないようだ。


「ん~、まぁ、だいじょうふだよね」


 血とかの汚れが取れて満足したし、ん、多分大丈夫、だよね。

 放っておく事にした。


 グゥ~~………

 酷いことを思ったせいか、珍しく盛大にお腹がなる。

 あぁ、そういえばもう昼過ぎ、すっかり忘れていたが、いつもなら既にご飯を食べ終わっている時間だ。


 「ごはん、ん~、ほしにくと、くだもの、あとは、ん、これだけでいいかな」


 ん? あのこは何を食べるんだろ?

 ん~、クーやマー(馬の名前)みたいに干し草や大豆とか?

 ん、これを食べてくれなかったら馬屋から持ってこよう。


「ほら、たべていいよ」


 狐? の前に干し肉を置いてみる。

 すると狐ようなソレは、躊躇なく干し肉に食いつく。

 食いつく、が、余程力がでないのか、硬い肉を噛み切れないでいる。


「あ~、これじゃなくて、こっちのくだものはたべれる?」


 狐? から干し肉を取り上げ、ももを皮をむいた状態で置く。

 狐? は、今度はゆっくりとももにかじりつくと、美味しかったのか一心不乱に柔らかいももを噛みすすり始めた。


「ん、よかった」


 私もお腹が空いてるため、狐? の横て干し肉を食べ始める。

 すると、ももをかじっていた狐? が、私を、正確には私の食べている干し肉をじっとみつめていた。


「やっぱり、このこもおにくたべたいのかな?」


 でも、噛みきれないだろうしどうやって食べさせようかな。

 あぁ、私が噛んであげればいいのか。

 小さく干し肉を噛みちぎると、硬い肉を口の中で噛み砕き、柔らかくする。

 それを口から出すと、手にのせて狐? に差し出してみた。


「これならやわらかいけど、どう?」


 狐? は、柔らかくした肉をじっとみつめていたが、ゆっくりとそれに口をつけた。


「よし、ちゃんとたべれてる」


 それからは、持っている干し肉がなくなるまで、噛んで柔らかくしたそれを食べさせ続けた。

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