カッコウが鳴く

 高校の頃の話。

 ある日、教室の自分の席で、私は何気なく頭の中で歌を歌っていました。

(静かな湖畔の森の陰から♪ もう起きちゃいかがとカッコウが鳴く♪)

 何故そんな歌を歌っていたのかを憶えてはいませんが、とにかく何気なく歌っていたのです。

 頭の中で歌っていたのですから当然、誰にも聞こえるはずはありません。

 そのタイミングで、教室前方の扉からクラスメイトの女学生達が入ってきました。

「カッコウ♪ カッコウ♪ カッコカッコカッコウ♪」

 突然、その女生徒の一人が声に出して、私がも黙考していた歌の続きを歌い出しました。

 クラスの中で彼女に集まる注目。

 しかし歌った当人がキョトン。

 一緒に入ってきた友人が「何で突然、歌い始めたの」と訊きましたが、彼女は「突然、歌いたくなったの」とだけしか答えません。自分でも驚いているみたいです。

 ここで「その歌は自分が頭で歌ってたんだ」と申し出れば面白い方向に話が転がったかもしれませんが、私はこの不測の事態に皆と一緒にポカーンとしていました。

 特に『静かな湖畔』が流行っていたわけではないけど、私が突然歌いたくなった様に、彼女も続きを歌いたくなったムードがこの教室には何となく漂っていたのかもしれません。


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