一〇〇円玉

 子供だった頃の昭和の時代。

 大勢の友達と普段は行かない、初めての街へ遊びに行った時の話。

 友達と街を歩いていた私は、ふと通りかかったある店先に出ていた一つの店頭電話が気になりました。

 電話には下の方に蓋が閉まった釣銭口があるのですが、何故か突然、ここがひどく気になったのです。

(ここに一〇〇円玉がある!)

 中が見えない釣銭口に私はそんな思いを抱いたのです。

「一〇〇円玉がある気がする」という憶測ではなく「一〇〇円玉がなくてはおかしい!」という確信。

 立ち止まった私の周りに友達が戻ってきました。

 私がその確信を皆に伝えると、そんな馬鹿なと笑われました。

 そのはずです。この頃の公衆電話や店頭電話は一〇円玉しか使えません。希に一〇〇円玉を使える電話もありましたがそれはお釣りが出なかったのです。

 つまり、もし、ここに釣銭の硬貨が残っていたとしてもそれは連続投入していた余りの一〇円玉のはず。一〇〇円玉があるはずはない。

 私は友達が見ている前で釣銭口に指を突っ込みました。

 そこにあったのは……、一〇〇円玉。

 皆が見ている前でのこの不思議な出来事は、しばらく語り草になりました。

 でも一〇〇円玉を投入した客が電話をかける寸前に思い直して、一〇〇円玉を取り忘れて去ったという可能性はありますね、

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