三十一話 うちの嫁について コラナムール視点
私の名前はコラナムール。帝国の皇妃です。この度は私の義理の息子、セルミアーネの嫁であるラルフシーヌについて話をしようと思いますわ。
セルミアーネは私の侍女であり、親友であったフェリアーネの忘れ形見です。フェリアーネは私の侍女であるときに夫である皇帝陛下に見初められ、陛下の愛妾になり、そしてセルミアーネを産んだのです。フェリアーネが産んだのであれば私の息子も同然、と生まれた当時から思っていましたから、フェリアーネが亡くなってからはセルミアーネに何度も養子になり、皇子になるように言ってました。
ですが、セルミアーネは私に義理立てしていたフェリアーネの意向もあり、頑なに皇子になる事を拒んでいました。私も他ならぬフェリアーネの遺言では無理強いできません。寂しい思いをしながら彼が騎士として生きる事を認めざるを得ませんでした。
ところが、私の子であり皇太子であるカインブリーが突然体調を崩し、見る見るうちに重態となってしまったのです。私も皇帝陛下も驚き、帝国でも最高の医者を呼び、神殿に出向いて医療の神、長寿の神に魔力を奉納しつつ祈りを捧げましたが、カインブリーは一向に回復せず、それどころか明日をも知れぬような状態になってしまいました。
私と皇帝陛下の子供は三人、男の子ばかりがいたのですが、まず二番目の子が早世。長男が十六歳で戦死。既にカインブリーしか残っていませんでした。そのカインブリーが死んでしまうような事があれば帝室の皇統が絶えてしまいます。帝国は建国以来数百年、ずっと皇統が繋がってきました。これがここで絶え、傍系に皇統を移さざる得なくなるというのは大問題なのです。
だが、幸いにも私達にはセルミアーネが遺されていました。これぞ神の配剤。私達はセルミアーネを私達の養子として皇族に迎え入れる事を「決めました」。打診ではありません。決定です。この期に及んでは彼の意向は無視せざるを得ません。私達は勅書でセルミアーネを呼び出し、その事情を手紙にしたためました。強制的に召喚し、有無を言わさず式典で彼を皇子として次期皇太子として承認してしまいます。
正直な話、これまで身分を偽っていたために何の実績も無いセルミアーネを次期皇太子にする事には、特に傍系皇族たる二公爵家からの強い反発が予想されました。セルミアーネが皇帝陛下の血を引くことは疑問の余地がありませんが、何しろ母親が子爵家出身のフェリアーネです。初代皇帝から引く血の濃さで言ったら公爵家の子女の方が多い可能性すらあります。ですから事前に二公爵家と協議したら反対意見が出る危険性がありました。そのため電撃的にセルミアーネの承認式を行ってしまい、有無を言わさず貴族にも承認させる必要があったのです。
ところが、実際に承認式を強行して見ると、非常に意外な事に全く反対の声が上がらなかったのです。特に二公爵家が全く沈黙していました。私も皇帝陛下もちょっと拍子抜けしたほどです。なぜこれほどあっさりセルミアーネが貴族界に受け入れられたのでしょう。それはセルミアーネの妃がカリエンテ侯爵家の末娘、ラルフシーヌだったからでした。
侯爵家としては五番目の格という高位貴族であるカリエンテ侯爵家。皇帝陛下の即位時に弟宮を推していたという確執があって皇帝陛下に遠ざけられていたとはいえ、帝国の頂点に位置する貴顕の一つです。この間代替わりした前侯爵は皇帝陛下の不興を買っているという事もあり、貴族界での勢いは無いものの、その事で皇帝陛下に不満を持つ貴族たちの中心と見做される事も多い方でした。実際には皇帝陛下に敵意を見せる事などまったく無い温厚な方なのですが。ですが、二公爵家の内、皇帝陛下と意見を異にする事が多いエベルツハイ公爵家が皇帝陛下が重用するマルロールド公爵に対抗するためにカリエンテ侯爵家から嫁を取ったこともあり、カリエンテ侯爵家は反皇帝陛下勢力の中心と見做される家だったのです。
ところが今回、セルミアーネが次期皇太子と発表されると同時に、次期皇太子妃として発表されたラルフシーヌはそのカリエンテ侯爵令嬢です。いえ、実は一年も前に結婚しているので令嬢ではありませんが。これは事情を知らない者からしたら、皇帝陛下が反皇帝勢力を懐柔するためにその旗頭であるカリエンテ侯爵家から次期皇太子の嫁を取ったように見えます。そのため、セルミアーネの次期皇太子就任は反皇帝勢力から非常に好意的に受け取られたのです。皇帝陛下は剛直な方で、自分に反対する者は切り捨てる姿勢の方でしたが、その姿勢を転換されつつあると見做されて、これも好意的に受け取られました。
実はカリエンテ侯爵家はラルフシーヌの兄姉が物凄く多いのです。なんと十人もいます。その内特に重要なのは高位貴族ばかりに嫁いだ姉達で、最も重要なのはエベルツハイ公爵家に嫁いだ一番上の姉君でした。このラルフシーヌとは二十歳も歳の離れた姉君はラルフシーヌを非常に可愛がっていました。彼女は現公爵とは実は珍しい恋愛結婚で、結婚時に大揉めに揉めたために結婚が大分遅かったのです。そういう事情もあり、エベルツハイ公爵夫妻は貴族界ではやや格を落としていて、ライバルであるマルロールド公爵家の後塵を拝していました。そのエベルツハイ公爵夫人が可愛がっている末妹ですから、エベルツハイ公爵家は無条件でラルフシーヌを、当然その夫のセルミアーネを後援してくれる事になりました。
これが公爵家が一致して、もしくはそれぞれに自分の息子を皇太子候補に立てて両家ともセルミアーネの立太子に反対したとすると、皇帝陛下も私も難しい調整を迫られたと思います。特に、皇帝陛下といまいち反りが合わないことが多かったエベルツハイ公爵家からの支持はかなり大きいのです。因みにマルロールド公爵は皇帝陛下の側近ですし、夫人も社交界で私に近いので、マルロールド公爵家が私と皇帝陛下の強い意向に逆らう事はおそらく有り得ません。これでセルミアーネは両公爵家から支持を得たと考えても良いでしょう。
ラルフシーヌとセルミアーネの結婚には実は皇帝陛下も私もまったく関わっていません。内緒で結婚されてしまい、もしも身分低い者との結婚だった場合、セルミアーネを皇族に戻せなくなると皇帝陛下が焦っていた事があります。結婚直後に一度呼び出して会ったことがあるのですが、これが侯爵令嬢とは思えない天真爛漫な女性で、私を前にボリボリと茶菓子をかじっていたのを思い出します。そうです。身分高い者と会話をしながら物を食べるというのは非マナー行為です。それで彼女は全く作法を知らないことが分かりました。何でも領地で育ち、全く貴族教育を受けていないばかりか狩人として森を飛び回って生活していた、と話していましたね。
セルミアーネとの慣れ初めは偶然ラルフシーヌのお披露目の時に騎士だったセルミアーネがエスコート役の騎士に付いた事です。それで一目ぼれしたセルミアーネが猛烈に侯爵家にアピールしてラルフシーヌを勝ち取ったという事です。良くもまぁ騎士の求婚などをカリエンテ侯爵家が受け入れたものです。後に前侯爵夫人に伺ったところ、どうも熱心に求婚のために侯爵邸に通うセルミアーネ本人を、一族女性が気に入ったらしいのです。そのためか、ラルフシーヌの姉君たちはセルミアーネを激推しで、その夫も巻き込まれてセルミアーネを支持する様になっていました。結果的にはセルミアーネを選んだことはカリエンテ侯爵家の運命を激変させることになります。
ラルフシーヌは貴族女性としても滅多に見ない程美しい女性でした。銀色の長い髪は光を纏うようであり、麗しい相貌が微笑むと周囲の空気が柔らかく変わり、金色の瞳が細められるだけで周囲の人間の背筋が伸びるような、生まれながらのある種の威厳を持っていました。正直な話、容貌だけなら今すぐ皇太子妃、いえ、皇妃にしても全く問題は無いでしょう。
問題はそれ以外です。彼女は田舎育ちで教育を受けていませんでしたし、社交の経験がまるでありませんでした。セルミアーネの話では貴族的なモノに拒否反応すら持っていたようで、以前の家では庶民服で生活し、セルミアーネの受勲などの機会で社交に出ると、その後数日は機嫌が悪い有様だったそうです。そんな彼女に社交が日常の皇族生活がこなせるのでしょうか。
しかし、離宮入りしたラルフシーヌは流石にカリエンテ侯爵家が威信に懸けて教育したのでしょう。辛うじて及第点というレベルまでお作法が良くなっていました。勿論、皇太子妃としては不足でしたので、私も社交の度にフォローして教育しなければなりませんでしたが。社交に対する意欲はあり、お披露目期間中に社交を何度もハシゴする状態になっていてもけして投げずに真剣についてきます。物凄く精神力が強いようです。正直、皇妃など毎日毎日我慢我慢の連続ですから、精神力の強さは重要です。
そして彼女は人の話を良く聞く娘でした。社交で出来るだけ多くの者と話をしたがり、その人の話を身じろぎもせず聞きます。そして真剣に受け答えして丁重にお礼を言います。これはやろうと思っても中々出来る事ではありません。社交が重なると疲れや慣れから適当な受け答えをしてしまうものなのです。ラルフシーヌが貴族婦人からその多少の無作法さに目をつぶって好感を持って受け入れられたのも、この真剣に話を聞く姿勢があったからこそだと思います。彼女はそうやって聞いた要望や希望を私やセルミアーネにちゃんと検討した上で上げて対処を求めてきます。物凄く面倒見の良い娘なのだな、と私は感心致しました。
ただ、欠点が無い訳ではありません。これは彼女が皇太子妃になってからですが、彼女の事をマルロールド公爵夫人が激しく怒らせてしまった事があります。マルロールド公爵夫人といえば貴族女性の中でも最重要人物で、私でも粗略に扱えない人物です。その彼女と激しく対立する事はラルフシーヌの今後のためにも良くありません。マルロールド公爵夫人からとりなしを頼まれた事もあり、私はラルフシーヌを内宮に呼んで和解を求めました。
ところがラルフシーヌはこの件に関しては全く聞く耳を持ちませんでした。私がかなり強い口調で和解しなさいと説得しても、私の目をじっと見据えたまま一切譲りません。その金色の瞳に混じる赤い光を見ていると私でさえ臆してしまいそうになる迫力に満ち溢れています。結局私は彼女の説得に失敗し、マルロールド公爵夫人は夫共々完全降伏を余儀なくされたようです。この事は私の面目を潰す行為であり、皇妃と皇太子妃の対立になり兼ねない行為でした。困るのはラルフシーヌは分かっていないのではなく、そんな事は百も承知で私の要請を跳ねのけた事です。彼女は対立を一切恐れ無いのです。敵対するものは妥協無く打ち倒すというのが行動原理として染みついているのでしょう。貴族界の調和と協調の象徴たる皇妃になるにはその激し過ぎる気性はやや問題があると言わざるを得ませんでした。
もう一つ問題なのは、ラルフシーヌとセルミアーネに子供がいない事でした。
ラルフシーヌは皇太子妃になった時、セルミアーネと結婚して丁度二年だったそうです。しかし子供がまだいませんでした。私は少し嫌な予感が致しました。それというのも私と皇帝陛下には子供が三人しか出来なかったからです。
長男は結婚してすぐに出来ました。そのため見過ごされ易いのですが、二人目はそれから四年後、三男は更に五年後に生まれています。かなり歳が離れていますがこれは意図したのでは無く、自然と離れてしまったのです。皇太子妃、皇妃の最大の仕事は次代の皇族を増やすことですから、私としてはもっと産みたかったのです。しかし、なかなか妊娠出来無かったのでした。私は神頼みを始め、懸命に妊娠のための努力をしたのですが、三男のカインブリーの後は遂に子供が出来ませんでした。
皇族は代々あまり子供が多く生まれない傾向があるようなのです。皇帝陛下の御兄弟は一人で歳の離れた弟宮がいました(現在は既に亡くなられています)。先帝には二人弟がいて、それが現在の二公爵家です。そもそも公爵家が代を重ねて侯爵家に降りる訳ですが、帝国数百年の歴史で侯爵家がたったの十二家です(断絶して廃された家もあるようですが)。それくらい代々皇族というのは子供が少ないのです。
セルミアーネは楽観しているようですが、私は心配で仕方がありません。私は離宮の侍女長に付けた私の侍女だったエーレウラを呼び出して皇太子夫妻の様子について尋ねました。するとエーレウラは「どうやら離宮入りしてから夫婦生活を行っていない」と証言しました。
私は激怒してラルフシーヌを呼び出して彼女を叱りました。彼女も理解したらしくこの件に関しては私に頭を下げるばかりでした。ただ、私も経験があるので「早く子供を産みなさい」と言われるのは辛い事だろうと思って、セルミアーネに愛妾を娶らせる事を勧めたのですが、ラルフシーヌはこれには激しく嫌がりました。理由は良く分かりませんでしたが、ラルフシーヌが深くセルミアーネを愛している事は良く分かったので、私はその意味では安堵しました。
因みに、私がラルフシーヌに愛妾を勧めた事について、セルミアーネが非常に怒って私に強い調子で「そんな事を言われるようなら私は皇太子を辞める!」と叫ばれたので、私は以降その事について口に出しませんでした。私は皇帝陛下が愛妾を何人娶ろうと気にならなかったので、この問題について鈍感になっていたのかも知れません。皇帝陛下の愛妾はフェリアーネを含めて三人いたのですが、フェリアーネ以外には子が出来ず、しかももう亡くなっています。
ラルフシーヌは皇太子妃になる頃には作法も見違えるほど改善され、社交にも慣れました。そのため私はカインブリーの死を悼む時間を持てたのです。ラルフシーヌには感謝しています。彼女は私に非常に同情してくれて、一緒に涙を流してカインブリーの死を悼んでくれました。心細いこの時期に親身になってくれるラルフシーヌがいてくれて私は本当に助かったのです。この頃には私は彼女を我が娘と思って接していました。
ある日、セルミアーネが面会を求めて来て、とんでもない事を言い出しました。ラルフシーヌを害獣、しかも神獣化した熊の討伐に伴いたいというのです。私は驚き呆れ、セルミアーネを諭しましたが、どうやらラルフシーヌは狩人時代に熊を好んで狩っていて、キンググリズリーを狩る事を熱望していたらしいのです。皇太子妃としての生活でストレスをため込んでいる事も示唆され、結局は私も渋々認めざるを得ませんでした。後日ラルフシーヌから話を聞くと大興奮で話をしてくれましたが、やはり身の危険があるとしか思えない、とんでもない状況だったらしいので、私は今後何が会っても同様な事は許可しない決意を固めましたよ。
それからしばらく経った頃、私の元にエーレウラがやって来て、妙な事を言いました。何でも先日フォルエバーという国から使節が来て、ラルフシーヌが接待したのですが、その時にラルフシーヌがフォルエバーの言葉で話したというのです。驚いた私はラルフシーヌを呼んで事情を聞きました。
ラルフシーヌが別に隠さずに言うには、幼い頃に過ごしたカリエンテ侯爵領に隣接していた小国がフォルエバーであり、そこで商売をする関係からフォルエバーの言葉を覚えたのだそうです。・・・商売をしていたのですか?どうも彼女の話はあまりにも突飛で分かり難いのですが、どうやらフォルエバーの使節の帝国共通語があまりにも不自由で、カリエンテ侯爵領の現在の事情を知りたがったラルフシーヌは、フォルエバーの使節が話し易い彼らの言葉を使ったのだという事でした。ラルフシーヌは田舎育ちで庶民の生活に理解もあるためか、帝国中央の貴族文化こそ至高と考える事が全く無かったのです。そのため、普通の帝国貴族であれば蔑視すべき異国の習俗や言葉に対して偏見が無く、彼らの言葉を使う事に抵抗が無かったのでしょう。
私は内心頭を抱えました。ラルフシーヌはあまり重大に捉えていないようでしたが、これは恐らく小さからぬ問題になります。
帝国は帝都から段々領域を広げて行く中で様々な国、民族を飲みこんで行きました。その過程で多くの言語を話す国民が増えて行ってしまい、相互理解が難しくなったため、帝国が定めたのが「帝国公用語」です。現在、帝国ではほぼ全ての国民が帝国公用語を話しています。しかしながらこの帝国公用語を話すようになると旧来の言語は忘れ去られてしまうようになり、民族固有の文化が消えてしまう傾向があります。それを嫌った民族が帝国の西端に幾つも残り帝国からの併合を拒んでいるのです。
西方諸国は現在ではほとんど帝国に臣従しており、貧しい国が多く、軍事的脅威も少ないために放置しても問題無いと見做されています。ですが東方の法主国が西方諸国と手を結んで東西から帝国を挟み撃ちにしようと企んだ事が過去にはあり、事情がどう転ぶか分からないため、出来れば西方諸国も併合してしまいたいと考える帝国の者もいました。
西方諸国の中にも併合を望む者は多くいるらしいのです。過去に西方で帝国が併合した国は現在ではすっかり帝国化し(カリエンテ侯爵領もその一つです)、非常に豊かになっています。それを見れば全能神のご加護が届くようになる帝国への併合が大きな利益をもたらすことは分かるでしょう。しかしながらやはりネックは帝国へ併合されると固有の言語、文化、民族が消滅してしまう事です。民族の文化に拘るからこそ帝国に加わわらなかった西方諸国にとって、文化が消滅してしまう危険は無視出来無いのでしょう。
そんな彼らにとって「自分たちの言語を使いこなす帝国の次期皇妃」はどのように映るでしょう。これはもう自分たちの文化を尊重してくれる希望の星に映るに違いありません。ラルフシーヌなら自分たちの文化を強制的に帝国化するような事はしない(今までだって帝国はそんな事はしていませんが)と考えるでしょう。帝国へ併合される事への心理的な障害が低くなることは間違いありません。
実際、フォルエバーは半年後には併合して欲しいと申し出てきました。夜会では皇帝陛下や私をそっちのけでラルフシーヌに跪拝して庇護を頼んでいました。当然でしょう。彼らは次期皇妃がラルフシーヌだからこそ併合を申し出てきたのですから。これはかなり後の話ですが、ラルフシーヌは併合した諸国で帝国公用語を教えると共に、諸国の言葉を保存するための学校をも造らせ、文化が消えてしまわないように配慮をしていました。それは私であれば考えもしなかった政策で「彼らの文化には当地では合理的な物もあります。消えてしまったら勿体ない」というラルフシーヌの言葉がいまいち理解出来ませんでした。しかしながらおかげで帝国の統治はスムーズに受け入れられ、西方の民は素直に皇帝と全能神を崇めつつ自分たちの文化を守れるようになったのです。
ただ、問題は西方の国はフォルエバーだけでは無く、他の国はやはり固有の言語を持ち、固有の文化を有している事でした。帝国に臣従しているそういう国からも同じ様な扱いを期待される事は間違い無く、それにはやはり帝国の次期皇妃が彼らの言葉を喋れる必要があるでしょう。その事を危惧した皇帝陛下は、珍しく直々にラルフシーヌに命じられました。他の国の言語も習得する様に、と。フォルエバーの言葉だけ話せて他の言葉を話せないとなると、他の国の者への心証がよくありませんからね。しかしながら短期間で多言語を習得しろという無茶振りです。私はラルフシーヌに負担を掛け過ぎると思い、セルミアーネも難色を示したため、皇帝陛下が直々に命じる事になったのでした。ラルフシーヌは真っ青な顔をしていましたが、昼夜無く必死で勉強して覚えたようで、ちゃんとエブテンスの使者が来た時にはその言葉で応対していて、周囲の者は驚嘆しましたね。
結局、西方諸国の者は感激して、帝国への心証は非常に良化。それどころか「ラルフシーヌ様が皇妃になられる前に」とすぐさま併合を申し出てくる国もありました。ラルフシーヌが皇妃になる時に帝国国民としてお祝いしたいからと。そこまでラルフシーヌを慕うようになるとは、言語というのはやはり大きいのでしょう。私は帝国皇妃として自分の不明を恥じると共に、ラルフシーヌに少し嫉妬したほどです。
これで言語の重要性に目覚めたラルフシーヌはこの後、法主国を含む東方の言葉の習得にも取り組み、ある程度は習得したようでした。その事はこの後、結構重大な意味合いを持ってくるのですが、それはまだ少し後のお話です。
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