第3話
自宅の隣の郵便局に立ち寄り、
「パパ。」
と呼びかけると、父は郵便局の奥から顔を出した。他の職員さん達が帰った後も、黙々と仕事をするのが、子供のころから見慣れた父の姿である。
「ほら、ご飯前やけど、食べへんか?」
と、帰宅途中で買った和菓子屋の袋を見せる。
「まんじゅうか?」
父は嬉しそうに笑う。
「今日は、もなかやで。」
父は、コーヒー好きで、和菓子であろうが、コーヒーを飲む。
「なあ、パパ。さっさと、白旗あげえな。生きてる人と亡くなった人、どっちが大事なん?」
父は黙ってもなかを食べている。
「遺品整理やて構えんと、模様替えでええやんか。」
「だいたい、何のために、はやばやとそういうことをするんかわからん……」
父はもなかを食べながら、まだ抵抗する。
「そやなあ。でも、お母ちゃんに機嫌ようしてもらうのが、一番大事やで。パパ、今まで、何やかんや言うても、おばあちゃんが一番大事やったやろ。」
「そんなことはない……」
「うちと、二人だけやのに、無理せんでええて。お母ちゃんかて、しゃあないて思うてた。とりわけ、おばあちゃんが歳とらはってからは……せやけど、もう、パパは、親がおらんようになったんやで。強がり言うてる場合やないで。」
「お前、どっちの味方や?やっぱり、お母ちゃんの肩をもつんかいな?」
私は、父に、子供みたいにすねるなと言いたいのをぐっと我慢する。
「うちは、家のなかが楽しいほうがええ。うちらが楽しい暮らす。その方が、おばあちゃんの供養になるで。どうしても大事なもんは、パパの部屋にしもうたらええやん。」
「気い遣わせてすまんなあ。」
「なあ、パパ。うちな、色々と思い出してたんやけど、おばあちゃんとお母ちゃん、よう喧嘩してはったけど、ほんまに仲が悪かったわけやないと思うわ。」
「どういうことや?」
「お母ちゃんが怒った時て、おばあちゃんがうちらの教育やら進路のことに口出しした時や。ほら一番上の美和姉ちゃんの時はひどかったやろ。」
「確かに。おばあちゃんは、跡取り娘やから、しっかりせえて、美和には厳しかったな。」
「美和姉ちゃんが就職して家から出るのも反対したし、長男の人を好きになって結婚するて言うた時も、おばあちゃん、鬼のように怒ったし……」
「そうやったな。お前が郵便局の仕事するて言うてくれて、何とかおさまった。すまんかったなあ。」
「あのな、うちな、パパにあやまってもらおうとか思てへんから。それより、前に進まへんか。」
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