猫の手MarkⅡ

ポンポン帝国

猫の手MarkⅡ

 無機質な音だけが工場内で響き渡っている。ここで作られているのは『猫の手MarkⅡ』だ。一つ目の試作機は人工AIの不良により一部の愛好家を除き、廃棄されている。そして今、その悲しみを乗り越えて出来上がりつつあるのがこの『猫の手MarkⅡ』なのだ。


 そもそも、『猫の手』なんていらない程、今の世の中は機械化が一般化されているのだが、それも慣れてしまうと人間というものは業が深い。さまざまな趣向をこらし、さまざまなニーズに応える製品が求められるのだ。今回のこのコンセプト自体も少々ふざけた形となっており、『猫様の手を一度でいいから借りてみたい』なんていう変態どもの要望により今、製造が実現している。


 え? それなら本物の猫に手伝ってもらえばいいじゃないかって? そんなの秒で却下されたよ。本物の猫様の手を借りるなんて恐れ多いんだと。むしろ機械ですら、『借りていいの!? 猫様だよ!? ダメだって!!』なんて意味のわからない論議が日々行われているようだ。


 そんなふざけたコンセプトでありながら、性能は最先端である。新型の自己成長型AIを搭載し、本物の猫の毛と遜色ない毛ざわり。肉球も一度触ればやみつき間違いなしの一品だ。そして猫の手を借りるといっても猫様のやる事だ。手伝ってくれない事も多々ある。元になっているのは僕の猫『タマ様』だ。


 タマ様は可愛い。それはもうホントに。肉球なんて完璧と言われているこのMarkⅡなんて目じゃない程だ。ずっとクンカクンカしていたいが、タマ様は気高いのですぐに離れてしまうんだ。悲しい。


 なので誠に遺憾ながら最近はテスターとして『猫の手MarkⅡ』の肉球の接触実験を日々顔で受けている。嫌々だからね? これ間違わないでね? そして使用していた結果、癖になっちゃ、ごほん、やみつきになってしまっている。あれ、変わってない? ちなみに試作機はここが甘かった。タマ様を全然再現出来ていない。あのAI程度では不可能だったのだ。それでも一部の愛好家が手放せなく程度には性能がよかったといえる。あの程度で満足してるようじゃ一流とは呼べないけどな。


 ちなみにこれはすでに私以外のテスターにも存在しており、既に返却期限が過ぎているのだが、一本も返却されていない。後日、我が社の回収班に突撃させる予定である。








 そして、発売日。完全受注生産品である為、予約は既に一年待ち状態である。一つ一つ、私の愛猫であるタマ様を表紙にしてあり、外見だけでご飯は三杯はいけてしまう代物である。そして手にした人々の表情は幸せそのもの。ちなみに私のテスター機はタマ様に無事壊されてしまった。猫の手を借りる暇もない程に木っ端みじんに。ふふ、嫉妬してしまったんだ。マジ可愛い。


 そして製品の購入後、多くの感想をもらったが、そのほとんどがどうやら猫の手を借りる前に飼い猫に壊されてしまったようだ。どこか幸せそうな雰囲気が滲みこまれている感想には予想外にだったが、購入者が喜んだのなら製造した側としては嬉しい結果だ。あ、私も喜んでるから予想外じゃないか。


 いなみに猫を飼っていない購入者も猫のご機嫌伺いが下手な為、ほとんど手伝ってもらう事は出来なかったらしい。今度はAIが優秀すぎたのだ。


 そしてこの結果から猫の手を借りる事は実質不可能な事が判明した為、『猫の手MarkⅢ』はおそらく作られないだろう。だが、私としては、今後もこの研究を追及していこうと思う。同志も相当数いるし、研究資金は潤沢している。


 最終的には、『再生型猫の手』を開発したいと思う。そうすればタマ様が嫉妬して構ってくれるじゃないか。その時が、猫を飼っている飼い主の一番の至福タイムなのだから。そして再生させる事でそれが何度も再現できる。それが猫の手を借りる上で最上の結果になる事を私は確信している。


 さぁ、構想を練る時間は終わりだ。研究を続けようじゃないか。それでは次の製品が出来るまで暫くだが、さらばだ。

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