猫に店番を任せたんだってね。なーに、やっちまったな!
つばきとよたろう
第1話
店頭で猫がのん気に昼寝している。萎びた店だった。店先にごちゃごちゃと商品を陳列していたが、何の店だかよく分からなかった。お菓子もあるし、日用品もある。食料品、雑貨店と言ったところか。あまり流行っていないのだろう。お客は一人も居なかった。店番も誰もしていない。
猫じゃ、店番にはならないだろう。人の姿は見えなかった。こっそり盗んでも分からないはずだ。何かめぼしい物は無いか、品物を物色していると、そこに別の猫を見つけて驚いた。猫は一匹では無かった。二匹居た。
陳列台の隅に体を伏せ、動かないでいるから見落としていた。白黒のぶち猫で、こちらを警戒するふうに、大きく目を見開いている。それでも、猫は猫だ。何の役にも立たない。犬なら番犬にもなるが、猫ならそうもいかないだろう。
気を取り直し、煩雑に置かれた商品に近づこうとしたとき、急に何かが動いた。ミカン箱の上に、ひょいっとしなやかな仕草で虎猫が飛び乗った。こちらを意識する気色も無く、気まぐれに現れたのだった。ところが、その虎猫を切っ掛けに、次々にどこからともなく猫が姿を現して来る。棚の上に、ざるに盛られた野菜の影から、お菓子の袋と袋の透き間から、首だけ伸ばして、こちらを窺った。床にも寝転んでいる。あの棚にも、この棚にも猫が忍び寄って来たように、音も立てずに現れた。それでいて、隠れん坊をしていたのがバレてしまったと言うように、頓狂な表情を浮かべた顔を見せる。
その中には、頭の上にミカンを一つ載せ、そのミカンを積み上げたざるの山と同化していたと言う格好だった。他にも野菜を頭に載せていたり、葉っぱの帽子を被っていたりと、それぞれが工夫して姿を隠していたらしい。それがぞろぞろと姿を見せ、いつの間にか店中が猫だらけになっていた。そのどの猫もこちらをじっと見詰めている。あの猫も、この猫もただこっちをじっと窺うように見ているのだ。その光景に次第に恐怖を感じて、店を逃げだしてしまった。
「見ているぞ! 見ているぞ!」
猫たちは、そう言って居るように思えたのだ。
猫に店番を任せたんだってね。なーに、やっちまったな! つばきとよたろう @tubaki10
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