もっと熱々カップルになってる
「なあ翆」
「なんだ?」
休み時間、何やら真剣な面持ちの仁に話しかけられた。
道明はトイレに行っているので彼だけなのだが……果たしてどんな用なのかと翆は気になる。
ちなみにいつも傍に居る沙希亜は舞と来夏に囲まれて楽しそうに会話していた。
「……えっと」
「……………」
あまりにも重々しい空気、仁は意を決するように口を開いた。
「……やっぱり彼女が出来るって凄いのか? 毎日凄いことしてるのか!?」
「……そんなことだろうと思ったよ!!」
真剣な顔をしていたから何を思い詰めているのかと思いきや、彼にとっては重要なことかもしれないが翆にとっては心底どうでも良いことだった。
まあつい最近までお互いに彼女は居らず、誰かと体を重ねる行為も当然したことはなかった。
「……毎日じゃない」
ボソッと翆は呟いた。
仁の様子から適当にでも答えないと引いてくれないと思ったからだ。
「毎日じゃない……ということはほぼ毎日ということか!?」
「……………」
ほぼ毎日、その言葉に翆は否定しきれなかった。
そもそも彼女たちはサキュバスなので体力は普通の人間よりも遥かに多く、ほぼ毎日体を重ねたところで疲れないのは当たり前だ。
しかもそれは翆も同じであり、サキュバスとの行為によって増強された体力はもはや人の域を出ているのだから。
「お前……どんだけ羨ましい生活してんだよ!」
「……悪いな。俺も自分でそう思ってる」
「ちくしょう!!」
不貞腐れたように仁は自分の席に戻って行った。
ちょうど道明がトイレから戻りどうしたのかと聞いてきたが……まあ彼にも仁を通してどんな話をしたかは伝わるだろう。
「ま、なんとなく分かるけどな」
「そうか?」
「あぁ。あいつ心から祝福してるけど、本当に彼女が居るのを羨ましそうにしてるからなぁ」
「……………」
これでもしも、彼女の姉ともそういう関係だと知られたら本気で殺されるんじゃないかと怖くなる。
一応沙希亜と凛音、二人との取り決めで付き合っている相手は沙希亜だけで通すことにしている。
それに対して沙希亜は少し申し訳なさそうにしていたが、凛音がそれで良いからと納得しており翆としてもその意見を採用した。
『別に気に病む必要はないよ? 私は翆君と一緒に居れるだけで良いし、これからの未来を君と歩くことは決まってる。だから良いんだよ♪』
そう言われると翆としても受け止めるしかない。
彼女たちはあまりにも優しすぎる。
サキュバスは言ってしまえば人よりも上位存在ではあるのだろう、それでも彼女たちは決して翆に対して傲慢な姿は見せずどこまでも対等にあろうとしてくれるのだ。
「……? ♪♪」
遠くの席に居た沙希亜と目が合った。
彼女はヒラヒラと手を振って笑みを浮かべ、それに気付いた舞と来夏もニヤニヤしながら手を振って来た。
すると、舞が突然沙希亜の背後に回ってその豊満な胸に手を当てたではないか。
「っ!?」
沙希亜は困惑した様子だが、舞はどこか感動したようにその大きな膨らみに指を沈めていく。
普通の人ならば恥ずかしがって振り解いたりするはずなのに、やっぱり沙希亜はサキュバスだからか触られたくらいでは動じない余裕が見える。
「……おい道明」
「なんだ」
「鼻血出てるぞ」
道明の鼻からつーっと赤いモノが滴っていたのでティッシュを渡した。
まあ確かにあの光景は男子高校生からすれば刺激の強いものだろうし、沙希亜のように色気をこれでもかと纏う女性なのだから気持ちは分からないでもない。
そんなこんなで時間は流れて昼休みのことだ。
「……小清水さんさ。めっちゃ柔らかいんだけど」
「そう? 胸って基本的に柔らかいものでしょ?」
「……全然動じないんだもんね。大人だね小清水さん」
舞がその時の感触を思い出そうとするかのように手をワキワキと動かしていた。
沙希亜はやっぱり不快そうにはしておらず、そんなものでしょうとあくまで他人事のように口にしているが……その柔らかさは今翆がこれでもかと味わっている。
「二人は近づくとすぐに引っ付くよね」
「本当よ。ねえ翆気付いてる? アンタは今学校中の男子からお尋ね者みたいなものなのよ?」
「……まあ分かってる」
それが沙希亜を射止めた男としての宿命だ。
「翆君に何かするようなら私は黙ってないわ」
優し気な表情から一転し、視線を鋭くした沙希亜は他者を震え上がらせるような怖さを纏っていた。
舞と来夏すらも沙希亜に怖がる素振りを見せる中、翆はというとそこまで想われていることが嬉しくてついつい沙希亜の方へ顔を近づけた。
「あ、甘えたいの?」
ちょこんと頷いた。
ちょうど舞たちがそこに居るので視線はある程度遮られている。それを分かっているのか沙希亜は翆の顔を胸に抱き寄せた。
「……あ~♪」
「ふふっ、本当に可愛いなぁ翆君は」
ぷよぷよとした至高の枕、ジッとしているだけに幸せになり眠くなる感覚がある。
優しく頭を撫でられていると、本当に沙希亜の女性としての包容力をこれでもかと思い知らされる。
「アンタたちのラブラブっぷりは凄まじいわほんと」
「うんうん。なんというか、別れたりする気配が全く感じられないもんね」
「別れないさ」
「別れないわ」
翆と沙希亜は同時に言葉を返し、息ピッタリだと二人に笑われた。
家でも学校でもそこまで過ごし方に変化はなく、翆と沙希亜はその間に挟まる男なんて考えられないと言わんばかりの熱々なカップルだった。
沙希亜の彼氏として認められないといった目を向けてくる男子は居るが、沙希亜自身が翆のことをこれでもかと求めているので誰も何も言えなかった。
そして、ついに翆がサキュバスの故郷へ向かう日がやってくるのだった。
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