良い夢を見たら朝の目覚めは気持ちが良い
「はあいお兄さん♪ 良いモノをお持ちねぇ?」
「……………」
翆はおかしいと瞼を擦った。
沙希亜だけでなく、凛音とも本格的に関係を持ち新たな関係に進んだことは覚えている。明確に、ハッキリと、絶対に忘れることがないだろう記憶が翆には刻まれたのだ。
つまり、その記憶があるということは彼は間違いなく彼女たちの傍に居るはずなのにこの暗闇の空間がどこなのか分からない。
「……あなたは?」
おまけに、目の前に現れたこれまた途轍もない色気を放つ女性のことも当然翆に心当たりはなかった。
沙希亜と似たような髪色と優し気な顔立ちでありながら挑発してくるような笑み、ボンテージ服のような際どい衣装に身を包み豊かな胸元を張りのある尻を見せつけている。
「ふふ、まあ取って食おうとは思ってないから安心して? 私はあなたが大切に想っている彼女たちと同じ存在よ」
バサッと翼が広がり、お尻の方から尻尾が現れた。
とはいえ翆はそうではないかと思っていたのだ。人では再現しようのない美貌とあまりにもエッチな雰囲気を漂わせる在り方、そして男の欲望を煮詰めたそのスタイルは普通に人間ではあり得ないからだ。
「サキュバス……?」
「その通り。私の名前はルージュ、よろしくね?」
「……あ、なんかそれっぽい名前だ」
沙希亜と凛音、そして璃々夢も漢字を使っているからか日本人のような名前だったのだが、それに比べてルージュというのは明らかに外国の名前っぽい気がした。
「君の名前も教えてほしいわ」
「あ、翆です。咲場翆と言います」
「翆ね。よろしく♪」
こうして翆はルージュと名乗るサキュバスと出会った。
さて、そうなってくると彼が気になるのはここは何処だとという疑問だ。
「ここは夢の世界、私が作り出した世界なの。だから君の体は今も彼女たちの傍にあるわ。だから安心して大丈夫」
「なるほど……」
夢の世界、それにしては辺りが真っ暗で夢の無い世界だった。
辺りを見回す翆を微笑ましそうに見つめているルージュがパチンと指を鳴らした。
すると辺りに光が差し込み、まるでどこかの部屋のような場所に翆は導かれるのだった。
「それっぽい部屋でしょ? 夢だからこそこういったことも可能なの」
「……なんか、人間には出来ない芸当ですよね」
「当たり前でしょう。これもある意味魔法みたいなものなんだから」
改めて人間には出来ないサキュバスの力を思い知った感覚だ。
相変わらず翆は周りを見ていたが、優しくを手をルージュに握られ彼は部屋の奥へと連れて行かれた。
一つの扉を潜るとそこにあったのはキングサイズのベッドだった。
「ベッド……ってまさか!?」
「その通り~♪ さあ翆、私とするわよ」
「……な、なんで……?」
いきなりすると言われてもビックリするのは当たり前だ。
相手がサキュバスなので逃げられるわけがないのも分かっており、更に翆の体はルージュの色気に反応していることも隠せていない。
しかし、彼には既に心に決めた相手が居るのだ。
なので彼女たち以外の人と体を重ねることは浮気に該当すると思っており、そんな彼女たちを裏切ることはしたくなかった。
「あぁそういうことね。大丈夫よ、一応寝る前に彼女たちには許可を取ってるから」
「……うん?」
おやっと、翆は首を傾げた。
ルージュは流石に説明不足だと思ったのか、一から推してくれるのだった。
「さっき自己紹介したばかりだけど私の名前はルージュ、サキュバスの幸せ制度遵守部の会長なのよ」
「会長?」
ルージュは頷いた。
「サキュバスの幸せ制度についてはある程度聞いてるわよね? 翆の体液はちゃんとこちらに送られてとても美味しかった……コホン! あなたが心からあの彼女たちのことを考えていること、無理やりではないことも分かっている。でもね、君の体液が送られてきたのと同じタイミングで別の男性のが送られてきたんだけど……」
ルージュは少し深刻そうな顔を浮かべながらこう言葉を続けるのだった。
「そちらはどうも無理やりというか、意志を封じられて出されたみたい。言い方は悪いけれど出すだけのタンクにされたってことよ」
「っ……」
それは一体どんな状態なのか、少しだけ翆にも理解できた。
サキュバスにとって精気を吸い取る対象が男であり、つまりタンクというのはただそれだけの存在にされたということだろう。
ある意味サキュバスとしての究極の姿に思える気がしないでもないが、男の側からすれば確かに御免被りたいなと翆は思った。
「そういうこともあってね。ちょうど同じタイミングだったけれどあなたたちがお互いに愛し合っているのは良く分かってる。それでもちゃんと確認の意味も込めてこうして私が派遣されたってわけ」
「そうだったんですか……あれ、でもそれって俺たちの様子を見てもらえば分かるんじゃないですか? 別にしなくても……」
「しないと分からないわ。サキュバスだもの」
「でも……」
「サキュバスだもの」
しなくていいんだろ、とはあまりの迫力に言えなかった。
翆としても彼女が目的を果たさない限りここから出られないことは理解出来たので彼女の提案に頷いた。
ちなみに、このことは本当にルージュの言った通りで沙希亜たちは了承済みだ。
「ま、夢の中だからノーカンみたいなものよ。外の体には全く影響はないし、ただただ気持ち良い夢を見るのと同じだからね」
「……分かりました」
それから翆は文字通り気持ちの良い夢を見ることになった。
サキュバスが見せる夢は確かに夢ではあるが、感覚はしっかりと残っており現実と何も変わらない世界でもあった。
それから一時間ほどが経過した時、ベッドの上に横になった翆とそんな彼の上に覆い被さるようにルージュが居た。
「……ねえ翆、私とどこか遠くに行かない? それこそ誰の目も届かないところに行って二人で暮らしましょうよ。私の体、悪くなかったでしょ?」
「ごめんなさい」
「むぅ……まあでも、なるほどね」
納得したように彼女は笑った。
そのまま起き上がるかと思ったが、彼女は隣に寝転がるようにして翆に身を寄せるのだった。
「俺、いつまでここに居るんですかね?」
「大丈夫よ。自然と眠ればあっちで目を覚ますから」
「なら安心しました」
ちゃんと帰れることが分かり翆は安心してホッと息を吐いた。
ルージュはそんな翆の表情に苦笑し、空中に書類のようなものを実体化させて何かを書き込んでいく。
「咲場翆。あなたはしっかりと彼女たちを想い、同時にサキュバスをちゃんと愛することが出来る心を持っていることを確認しました。備考欄には二人で共有させるには勿体ない、是非とも色んなサキュバスと関係を持つことを推奨するとでも書いておくわね」
「やめてください……」
「くすっ、冗談よ」
ルージュが手を振るとその書類は消えていった。
すると今翆がルージュと一緒に居る部屋が崩れ始めた。それはどうやらあちらに戻る合図らしい。
「それじゃあ翆、また縁があったら会いましょうか」
「あ、はい。今日はありがとうございました……って、なんか変なやり取りだなこれって」
「ふふっ、また少ししたら会うことになりそうだけど……またお願いしてみようかしらね」
「え?」
「何でもないわ。それじゃあね♪」
こうして翆は夢から醒めるのだった。
ハッとするように目を開けると、目の前に広がったのは見覚えのない天井と下半身から伝わるくすぐったさだ。
「……え!?」
「あら、おはよう翆君」
「おはよう翆君」
二人が二つのソレを使ってサンドイッチしていた。
まさかの目覚めに翆は唖然としたが、確かにあんな夢を見ていたのなら現実にこういった形で作用してもおかしくはないなと苦笑した。
「今スマホで確認が取れたって来ていたわ。お疲れ様」
「誰が来たの?」
「ルージュって人」
「あぁルージュさんが」
「あの人は凄く良い人だよ。優しいしね」
確かに優しかったし色々と気を遣ってくれた人ではあった。
サキュバスにも色んな人が居るんだなと思いつつ、翆は朝っぱらから二人の柔らかい部分にシュートを決めた。
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