サキュバスとの契約

「あはは! 翆君は可愛いなぁ!」

「本当にねぇ。黙っていた沙希亜も悪いんだけど、申し訳ないとは思いつつとっても可愛い男の子だなって思ってしまったわ♪」


 顔を真っ赤にしながら恥ずかしがる翆の前には凛音ともう一人の女性がソファに腰かけていた。

 翆にとって今日初めて会ったばかりの女性であり、彼女こそが沙希亜と凛音の母親となる璃々夢りりむだった。

 腰の位置よりも更に長いサラサラとした黒髪、沙希亜と同じルビーのような瞳と女性にしてはかなりの高身長だ。そして何より、二人を凌駕するほどの特大サイズのバストと溢れ出る色気に翆はたじたじだ。


「ごめんなさいね翆君、私ったら翆君に大切なことを伝えずに……」

「いや、それはもう良いんだ」


 凛音と璃々夢のことは一旦置いておくとして、どうして翆がこうして彼女たちに可愛いなと言われ、沙希亜に謝られたのかは理由があったのだ。

 今日朝にこの家に足を踏み入れてから翆は沙希亜とずっと交わっていた。

 並みの人間ではすぐに力尽きるはずなのだが、沙希亜が垂れ流す淫気に充てられてしまい翆はそれはもう燃え上がった。


『沙希亜……沙希亜!!』

『素敵よ翆君っ! あぁ幸せ……幸せぇ!!』


 それはもう獣のようだった。

 翆は頑張りすぎて記憶が曖昧で、沙希亜も本来ならサキュバスとしてリードするはずが逆に手綱を握られてしまうほどの男を翆に魅せられてしまったのだ。

 そうして全てが終わった時、肌が艶々で幸せなオーラを振り撒く沙希亜と……そんな彼女とは正反対に顔を青くする翆が出来上がったのだ。


『さ、沙希亜……俺……ゴムとかしてねえよ』


 碧にもちゃんと守ることは守ると言ったのに結局守らなかった。

 そのタイミングで凛音が帰ってきて、少し遅れて璃々夢が帰って来たのだ。何かを言おうとした沙希亜と話をするよりも、まず翆は沙希亜を交えて綺麗な土下座を披露したのだ。


『すみませんでした!! 俺は……俺は大切な娘さんに無責任なことをしてしまいました!!』


 まだそうだと決まったわけではないが、もしもを考えた結果の魂の懴悔と土下座だったのである。

 しかし、この謝罪は全く持って無駄なことだと翆は知った。


『あの……翆君? どうして謝るの?』

『だってゴムしていないし子供出来たら……』

『……あ、言ってないわ私ったら。あのね? 大丈夫なの私は』

『……へ?』


 こんなやり取りをした後に翆は沙希亜から聞いたのだ。

 サキュバスは成人を迎えなければどんなに男の精気をその身に宿したとしても子供が作られないことを、そしてサキュバスの成人は人間で言う二十歳であることも全て聞くことが出来た。

 それを聞いた時の翆の安心たるや想像を絶するモノだっただろう、まあそんな慌てた翆を見て凛音と璃々夢が可愛いと言ったことに繋がるわけだ。


「……ふぅ」


 さて、話を戻そう。

 慌てに慌てた翆に対して謝った沙希亜だが、翆はそれはもう良いんだと口にした。


「その……自分が情けなくなった」

「え?」


 目を丸くする沙希亜、そして凛音と璃々夢も同じだった。

 三人の視線を浴びる中、翆は沙希亜の瞳を見つめながらどうして自分が情けないと口にしたのかを説明した。


「無責任に取り返しの付かないことをしてしまったことで、俺はめっちゃ後悔したんだ。沙希亜……凛音さんもそうだ。二人とこれから一緒に居るって誓ったようなものなのに俺はもしかしたらを考えてあんなに取り乱して……沙希亜を、凛音さんの傍に居るって気持ちはこんなにも脆いものなのかって思い知らされた気がした」


 普通なら学生なので慌てるのも仕方がないことだ。

 場合によっては出来ないこともあるのですぐにどうこうの話ではない、薬などもあるので完全に取り返しの付かないわけではないのだ。

 しかし、それでもちゃんと守ることを守らず本能に従うがままに沙希亜と繋がったことで自分を許せなかった。


「……まあその心配は杞憂だったけど、それでも……そう思ったんだ」

「翆君……」

「大丈夫よ翆君、そんなことで情けなくなんか――」


 凛音が慰めの言葉を届けてくれていたその時だった。

 沙希亜と凛音とも全く違う包容力が翆を包み込んだ。


「え?」

「可愛いだけじゃなくてちゃんとした芯も持ってるのね。沙希亜と凛音が惚れたのも分かる気がするわ」


 翆を抱きしめたのは璃々夢だった。

 沙希亜と凛音以上の大きなバスト、それは正に翆にとって未知の領域だ。顔面を柔らかく包み込む感触と、女性としてあまりにも完成された母性が翆の心配と後悔を洗い流していく。


「大丈夫よ。私たちサキュバスには人の常識はある程度通用しないの。それでもそこまで二人のことを想ってくれるあなたを私は認めましょう。あなたはとても素晴らしい男の子、沙希亜と凛音を預けるに値する素晴らしい男の子よ」

「あ……」

「ほら、もっと私の胸で安心なさい。今だけは私を母だと思って、何を言っても大丈夫な甘えられる母のように」


 その言葉は正に甘い囁きだ。

 翆の脳を一瞬で蕩かせるような言葉と母性、彼女の言葉に従うように翆の意識はまるで母に甘えるかのように作り変えられる。


「母さん!」

「ちょっと! 何してんの!!」


 もう溺れちゃえ、そう心の中で誰かが呟いたと同時に翆は正気に戻った。

 沙希亜と凛音が璃々夢を引き離したのである。


「……俺は何を」

「全くもう! 油断も隙も無いんだから!」

「そうよ! 母さんのおバカ!!」


 一体何のやり取りをしているのか翆には分からなかった。

 それから分かったことだが、どうも翆は璃々夢に魅了されていたらしい。璃々夢としても悪戯のつもりだったみたいだが、ここまで沙希亜と凛音が怒るとは思っていなかったのかちょっと落ち込んでいた。


「何よ何よ……私だって若い男の子とイチャイチャしたいもん!」

「もん言うな年増!」

「そうよ年増ババア!」

「あなたたち、吐いた唾は飲み込めないわよ!?」


 あまりにも賑やかな三人家族、翆はある意味気分が落ち着いてきたことでそんなやり取りに苦笑した。

 沙希亜たちも普段の調子を取り戻した翆を見てクスッと笑みを浮かべた。


「それにしても翆君かぁ……本当に可愛いわね」

「その、可愛いってあまり言われたことはないんですが」

「雰囲気よ雰囲気。こう……可愛がりたくなるのよね。沙希亜と凛音が気に入ったからなのか分からないけれど、何か不思議な魅力を感じるわね」

「そう……ですか?」

「っ!?」


 魅力があると言われて嬉しくないはずがなかった。

 顔を赤くして下を向いた翆を見て何故か璃々夢は鼻を抑えた。隣で腕を胸に抱く沙希亜と凛音はやれやれと首を振っていた。


「今日の母さんはうるさいわ」

「本当に。ねえねえ、私の部屋に行かない?」

「あなたたち今日すっごく酷くない?」


 どうやら家族仲はかなり良好のようだ。

 今は三人とも羽と尻尾を隠していない、その部分だけなかったらどこも普通の人間と変わらないという印象だ。

 あまりにも美しすぎて雰囲気が妖艶な美人親子、近所でも有名なんだろうなと翆は思った。


「それで沙希亜、どうだったの?」

「うふふ、翆君の男をこれでもかって刻まれちゃったわぁ……ほら♪」


 そして沙希亜は服を捲り上げた。

 突然のことに翆はビックリしたが、彼女の下っ腹辺りにピンクに輝く何やらかっこいい紋様が光っていた。ぴかぴかと点滅するようなそれは一体何なのかと翆は首を捻る。


「良いなぁ。私も欲しい……早く証が欲しいよ翆君♪」

「えっと……それは?」


 そう翆が聞くと、沙希亜は愛おしそうに紋様を指で撫でて教えてくれた。


「これは私と翆君を繋ぐ契約よ。サキュバスにとって契約とは一生を賭してその人だけに尽くす証なの。もしもこの契約を交わした相手以外と故意に体を交わらせると死んじゃう呪いでもあるわ」

「死!?」

「ふふ、驚くのも無理はないけれど大丈夫。だって翆君以外と関係を持つ気なんて一切ないもの」


 それは正に翆にのみ全てを捧げる覚悟の言葉だった。

 沙希亜はそれからもずっと紋様を見てはふふっと笑みを零し、夜が待ちきれないと言わんばかりに凛音に翆はエッチなボディタッチをされ続けるのだった。




【あとがき】


現代にもしもサキュバスが居たらこうなります。

羨ましいと思った人は挙手!!

ちなみに自分はとても羨ましいと思って翆が憎たらしく思います。

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