それは冗談か、それとも……
「女子と合同体育っていいもんだなぁ」
「だな。見放題じゃねえか」
「お前ら……」
午後の授業を締めくくる最後は体育だった。
仁が口にしたように今回は合同体育ではあるのだが、男子と女子が混ざっているわけではない。体育館の中央にネットを通し、男子と女性で別れてバレーをやっているのだ。
仁と道明は目の保養だと言わんばかりに女子たちを見ており、そんな二人を翆は呆れたように見つめていた。とはいえ、二人だけでなく他の何人かの男子も女子たちの方に目を向けていた。
「小清水さん!」
「任せて!」
その声が聞こえた瞬間、翆は自然と視線を吸い寄せられた。
クラスメイトが上げたトスを受け、沙希亜が大きく飛び上がった。サキュバスの身体能力を遺憾なく発揮するように強烈なアタックを相手コートに叩き込んだ。
「ナイス小清水さん!」
「小清水さんやるぅ!」
同じチームの舞と来夏が沙希亜とハイタッチをした。
ちなみに、今沙希亜がアタックを決めた瞬間男子の方からは大きなどよめきがあった。それはあまりにも強烈な一撃に対してではなく、彼女がジャンプをしたことで揺れたその巨大な胸に対してだ。
「……ったく」
教室で宣言したように翆は沙希亜と付き合うことになった。となると自分の恋人の胸をあまり見てほしくない気持ちはある。まあ高校生離れ……ある意味雑誌で見るグラビアアイドルよりも大きな胸が揺れていたら男子高校生として目を向けるのは仕方がない。
「……あ、ふふっ♪」
っと、どうやらジッと見ていたことに沙希亜が気付いたらしい。
翆の方に体を向け、とても綺麗な微笑みを浮かべてピースをした。舞と来夏も翆に気付いてクスッと笑みを浮かべたが、当然沙希亜の笑みが向く先の翆に対して視線が突き刺さる。
「これもある意味彼女を持った宿命ってやつ――」
そこまで呟いた時、びゅんと音を立てて顔のすぐ隣をボールが通り抜けた。
いきなりのことでビックリした翆は反射的にそちらに視線を向けた。するとクラス一のイケメンと言われている男がニヤニヤと翆を見ていた。
「よぉ咲場、出て来いよ」
「……………」
どうやら翆を御所望のようだ。
思えば彼は教室でも翆を睨んでいたし、近いうちに絡まれる可能性を少しは考えていたのだ。彼の名前は
「ほら、とっとと来いよ」
「言われなくても分かってるよ」
あくまで授業の一環とはいえ、彼から向けられる敵意は凄まじい。立ち上がってコートに向かう翆に仁と道明が並んだ。
「俺たちも相手するぜ一輝」
「だな。友として俺たち行かねばなるまい」
「お前ら……ははっ、サンキューな」
翆が沙希亜と付き合うことに嫉妬しまくっていた二人だが、こうして翆が絡まれた時は友として助けてくれる。いつだって彼らはそうだった。翆は付いてきてくれる二人に感謝をしてコートに立った。
「てめえは小清水さんに釣り合わねえ」
「……まさかそういうことを言われる立場になるとは思わなかったな」
クラスのアイドル的な存在と付き合い、そんな彼女と釣り合わないと言われる立場が来るとは翆も考えたことがなかった。別に沙希亜に対してかっこいいところを見せたいなどと思ったわけではないが、守ると決めて付き合うことにもなった彼女とのことを赤の他人にここまで言われるのは我慢ならなかった。
「行くぜ一輝」
「ぶっ潰してやる」
睨み合う翆と一輝だったが、サーブを打つために一輝がボールを上げた。
身構える翆、しかし一輝がサーブを打つことはなかった。何故なら物凄い速さでボールが彼の顔面に直撃したからだ。
「そげぶっ!?」
間抜けな悲鳴を上げて一輝は倒れた。
当然周りはシーンとして何が起きたのかと視線を巡らせる。翆を含めて全員の視線が向いた先に居たのが腕を振りぬいた沙希亜だった。
「ごめんなさい、手が滑ったわ」
無表情でそう言った沙希亜に何人かの男子が悲鳴を上げた。
結局、一輝は今の一撃で動かなくなりそのままだ。翆と仁、道明は戦うべき相手が居なくなったのでまたコートの外に出た。
「……なあ翆」
「やっぱり小清水さんって怖えんだな」
「あぁ……」
あの一撃、物凄く痛いんだろうなと翆は少しだけ一輝に同情した。
そんなハプニングはあったが体育が終わって放課後になり、終礼を終えて翆は沙希亜と共に教室を出た。教室を出た瞬間、また沙希亜が翆の腕を抱いた。
「っ……」
「ふふ、こうすると凄く落ち着くのよ♪」
腕を抱かれて落ち着くと可愛らしい笑顔で言われれば翆としても離れてくれなんて言えない。相変わらず多くの目が集まる中を翆は沙希亜と共に歩いて行く。
(……まあ、こうされるとめっちゃ気持ち良いんだよなぁ)
腕に感じるとてつもない柔らかさ、クセになりそうなその感触に翆はいつも負けてしまうのである。
沙希亜は確かにとてつもないほどの美人だが、同時に高校生離れしたスタイルの持ち主というのも伝わっている。なのでその夢の詰まった膨らみを独り占めしているというのも、翆にたくさんの視線が集まる理由だろうか。
「そう言えば沙希亜、体育の時は……」
「あぁあれ? だってムカついたんだもの仕方ないわ」
ツンと唇を尖らせて沙希亜はそう言った。
翆としては疲れないので助かったようなものだが、一輝に対して行動で色々と示したかったのも事実だ。まあこれからいくらでも機会はあるだろうし、その時にまた翆は自分の沙希亜に抱く想いをぶつけることを決めた。
「……ふふっ、それにしても週末が楽しみだわ」
「泊まりに行くのが?」
「えぇ。期待しててね翆君。姉さんは後日で良いって言ったけど、私がまずは翆君に捧げるから」
「っ!?」
それはつまり、今まで行っていなかった本番をするということだ。
沙希亜からそう言われると当然そのことを明確に想像してしまう。こんなにも美しくエッチな沙希亜と体の関係を結ぶ、それはサキュバスである彼女のことを考えると遅すぎる気がしないでもないが……色んな意味で興奮するのも確かだ。
「……でもさ」
「どうしたの?」
実を言うとちょっと怖くはある。
翆の抱くサキュバスの印象は淫魔であり、すなわち空になるまで搾り取られミイラにでもなるのではないかと割と本気で考えている。
「俺、干からびたりしない?」
「しないわよ流石に。私、そこまで貪欲じゃないつもりだけど?」
しないわよ、ということはつまり出来るということなのだろうか。
「まあでも、翆君が頑なに本番を拒んで私を焦らしたりしたら……うふふ♪」
舌をペロッと出し、彼女は艶めかしい表情を浮かべて翆を見つめた。そうならないように我慢はしないでほしい、思う存分私に身を任せてと暗に言葉が直接脳に伝わってくる感覚を翆は味わった。
「年貢の納め時よ翆君! 大人しく私に食べられなさいな♪」
「……くぅ!」
怖いはずなのに沙希亜の姿があまりにも妖艶すぎるのだ。彼女の言葉一つで色々と元気にされてしまうのに、こんなことを言われてしまってはただの人間である翆に抗う術はない。
「ちなみに」
「うん?」
「今まで本番はせずに翆君をスッキリさせていたけれどその間私もそうだし姉さんも昂ってたのよ? その分は思いっきりしてしまうことになるかもしれないけれどまあ許してちょうだい」
ブルっと背中が震えた。
辺りに人が居ないのを確認したのか、沙希亜のスカートから尻尾が出てきて翆の腕に絡む。顔を赤くした沙希亜はこんなことを最後に口にするのだった。
「死にはしないけど、天国に行っちゃいそうなくらいには気持ち良くしてあげる。期待しててね私の愛おしい翆君♪」
あ、週末に死ぬかもしれない。
割と翆は本気でそう思った。
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