お菓子と小さな幸せ
「もう、沙良ちゃん! また、私のお菓子を勝手に食べたでしょ」
「ギクっ」
私は空になったお菓子の袋を持って問い詰める。沙良ちゃんは数歩後ずさって大きく顔を逸らした。教室の窓から入り込む風と顔を逸らす勢いが相まって、沙良ちゃんのおさげが小さく揺れる。
「今『ギクっ』って言ったよね。隠しても無駄なんだからっ!」
「わぁー。ごめんごめん。あたしが悪かった。許して」
私は一歩、前へ歩み出る。沙良ちゃんはすぐに観念したようで、バンッと両手を顔の前で合わせた。いつもならはぐらかすはずなのに、今日はどうしたのだろう。
「沙良ちゃん、どうしたの。すぐに謝ったりして」
「そりゃあ、謝るわよ。あたしが悪かったんだから」
「そうだけど、いつもの沙良ちゃんならこんなにすぐ謝らないよね」
「京子って、時々失礼なこと言うよね」
沙良ちゃんが、顔の前で合わせていた両手を離す。申し訳なさそうに眉を寄せているところを見るに、本当に謝罪の気持ちがあるのかもしれない。
私は空になったお菓子の袋を鞄にしまった。本来は学校へのお菓子の持ち込みは禁止になっている。教室のゴミ箱には捨てられない。
沙良ちゃんと出会う前の私だったら、お菓子は絶対持ってこなかった。沙良ちゃんと一緒に食べたいという気持ちがあって、毎日持って来るようになった。こんな風に変わってしまった自分で良いのだろうか。きっと、沙良ちゃんと出会って変われた私も含めて全てが私。最近、少しずつだけど自分に自信が持てるようにもなってきた。
私は沙良ちゃんに向かって微笑んだ。
「沙良ちゃん。一緒にお菓子買いに行きたい。それで、一緒に食べたい」
「どうしたの? 京子からそんなこと言うなんて珍しい」
「えっと、何だか急に一緒に食べたくなったの。ダメ……かな?」
私は不安そうな顔で沙良ちゃんを見た。沙良ちゃんは一瞬キョトンとしたが、すぐにいつもの豪快な笑いにシフトチェンジした。
「やだ〜、京子のその顔可愛すぎ。良いよ、行こ行こ! 私がお菓子食べちゃったんだし、何でも好きなの買ったげる」
「ふふ。ありがとう」
ああ。私はこんなに幸せで良いのだろうか。沙良ちゃんの笑顔を見ると、たまにそんなことを考えてしまう。でも、沙良ちゃんの笑顔がどんな不安も消してくれる。幸せで良いと思わせてくれる。
私達は鞄を持って、誰もいない教室を出た。目指すはコンビニのお菓子コーナー。何を買うのか話し合う時間が、私達にとって小さな幸せになると良いな。
おまけ
「沙良ちゃん、今日はどうしてすぐに謝ってくれたの」
「聞きたい? いやぁ、京子ならちょっと真剣な顔して謝ったらすぐに許してくれると思ってね」
「も〜、沙良ちゃんっ!(←許してしまったので何も言えない人)」
逆接の告白 咲谷 紫音 @shionnsakuya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます