一章 夜半の逢瀬③
「おい、清宗! 何が起き……」
父は
「金色の瞳……!? もしや、
父が築地の外に向かって叫べば、荒々しい足音と共に、初めて見る男達が門からやって来る。男達は父と沙夜達の間を
武器の
「……はぁ……。俺相手にこれだけか」
どこか
……あれ? 清宗という人に触られるのは
それが何故なのか、沙夜には全く分からなかった。
「おのれ、妖め……。我が
父は玖遠を
「……ふ……はははっ……」
父の言葉を冷やかすように、玖遠は
「どの口が言っている?」
玖遠が右手の指を鳴らした
「ひぃぃっ……!」
武器を構えている男達は表情を
「どうやら、築地には妖
地を
「……この娘が気に入った。俺が
「へっ?」
布の
「なっ……!? おい、待てっ!? その娘は……!」
青白い火の玉に照らされている父の表情が
「くそっ……! ──おい、沙夜っ! お前は、わしのものだ! 全ての妖を根絶やしにしてでも、必ずお前を連れ
父が沙夜を指差しながら吐いた言葉に、
どこからか
自分の身体が空に浮いているのだと自覚した沙夜は驚きのあまり、玖遠の身体へとしがみついてしまう。
「ひゃっ……!?」
「おっと、落ちたら危ないから、暴れないでね」
玖遠の言葉に沙夜はこくこくと
月明かりが照らすのは、
それだけでなく、いつもは限られた空しか見られなかったが、今だけは目に映る広々とした星空が自分と玖遠のみが味わえる特別なもののように感じられた。
「っ、すごい……」
想像していたよりも外の世界は広く、そして美しいと思えた。
「地上と気温が
「だ、
しかし、空中に浮いている仕組みが分からず、玖遠の方へと何となく視線を向ければ、彼は金色の目をどこか困ったように細めていた。
沙夜はもう、玖遠が人間ではないと分かっていた。
「……ええっと、玖遠様は……妖、なのですか?」
妖の見た目は獣だったり、形容しがたい外見だったりと様々な姿形をしていると聞いている。だが、目の前の玖遠は瞳の色と人間業とは思えないことをやってのける以外は、
「……そうだよ。人間のような見た目をしているけれど、これでも
玖遠は何かをぐっと飲み込み、それから
「い、いえっ、そんな……。確かに驚いてはいますが、玖遠様は私を助けて下さいました。なので、その……ありがとうございます。助けて下さって」
すると彼はふわりと
「……もしかすると『妖』というだけで怯えられるかもしれないと思っていたから、
気が楽になったのか、玖遠の口調はいつもと同じように明るいものへと変わった。彼とこうやって顔を合わせても何も変わっていないことに気付いた沙夜は改めて
やがて、彼は実家の
「……沙夜。俺は君が助けを呼ぶ声を聞いて、思わず
それまでとは一変して、玖遠は険しい表情で問いかけてくる。沙夜が清宗に何をされそうになったのか、察しているのかもしれない。
「わ、たしは……」
すぐに答えない沙夜の様子を
「沙夜はどうしたい? 心のままに、言ってみるといい。俺は君の言葉で聞きたいんだ」
「いいえ……。私は……あの場所に、戻りたくはありません」
震えそうになった身体を沙夜は
「たとえ、一人で生きていける
「……」
助けてもらっても結局、自分は父から
それでも
……これ以上、心を
意思を持つことが許されないならば、それは人形と同じで、「沙夜」という存在はいらないのではないだろうか。そう思ってしまえば、心さえも消えてしまいそうだった。
「──沙夜」
耳に残る低く
「君が二度とあの屋敷に戻りたくはないというならば……。この
「……?」
沙夜がどういう意味だと言わんばかりに首を
「俺ならば、君が生きる上で不便なことがないように、住む場所だけでなく食事も衣服も提供出来るよ。
玖遠からの突然の申し出に沙夜は目を丸くした。何か裏があるのではと
「ただし、一つだけ条件がある。……俺の、妻となることだ」
「えっ……」
妻、という言葉に沙夜は思わず固まった。
「こう見えて、俺は妖達の頭領を務めていてね。自分で言うのも何だが、立場はあるし、そこらの
「……」
「それに俺が管理している土地には人間が入れないように結界が張ってあるから、君を
玖遠の表情を見る限り、
……私が玖遠様の……妖の妻に……?
しかし
頭を
……この方を……信じていいのかしら……。
顔には出さないものの、不安と疑心が混ざり合い、沙夜は
妖の世界に身を
……一体、どうすれば……。
沙夜は玖遠へと視線を向けた。彼の
ふと思い出したのは、彼と共に過ごした穏やかな時間だった。お
……私は……玖遠様を信じたい。
かつて玄と約束したことが
だが、実家で沙夜がどんな
決心した沙夜は背筋を
「……玖遠様。ご
沙夜は白く細い手をそっと玖遠の手に重ねた。玖遠はどこか安堵するような穏やかな表情を
「ああ、任せてくれ。俺が
月明かりが
「こ、これは……?」
沙夜が首を傾げれば、玖遠は小さく
「ただ、君への
「なるほど……」
妖達の間では普通の仕草なのだろうか。少しだけ、くすぐったい
「それじゃあ、まずは君に俺の
「妖力を纏う、とは一体どのようなことですか……?」
「ん? ……ああ、そうか。人間達の間ではあまり知られていないことだったね。……妖が夫婦となる際にはお互いの妖力を纏わせて、周囲に自分の夫や妻だと示して
妖の結婚の儀式はあっさりとしているものらしい。やはり、人間と妖とでは習慣や文化が
「それと俺の妖力を纏っている間は妖術による
玖遠の説明を聞きつつ、沙夜は何度か頷く。正直、妖力がどのようなものなのか、よく分からないが、とりあえず玖遠の妖力を受けてみることにした。
「少しずつ俺の妖力を纏わせていくけれど、痛みはないから気を楽にしているといい」
「は、はい」
玖遠は沙夜の両手をそっと
「っ……」
「沙夜っ?」
……何だか、頭が……ぼんやりして……。
「……沙夜!? 妖力を流し過ぎたかっ?」
「だい、じょ……」
だが、
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