第一章 危うきこと神獣の尾を踏むが如し②
明鈴の生まれ育ったこの世界は桃仙の女神が
ここまでは誰でも知っていることだ。だが
それは
成人の儀式のあと、
ゲームのシナリオだと、桃仙の乙女が見つかったすぐ後に
そもそも崩御の発布自体は桃仙の乙女が見つかった後だったが、時系列でいうと見つかる数日前にもう皇帝は崩御していた。たった数日の差にどうしてあと少し早く現れなかったのだとプレイしながら思ったものだ。せめて崩御してから数年
「初っぱなから重い展開なのよね、大牙皇子ルートって」
だからあまり好きになれなかったのだ。ちょっとでも
もし本当にゲーム世界であるならば、皇帝が崩御されていたという知らせがあるはず。崩御が明らかになれば、さすがにゲーム世界への転生を認めるしかないだろう。ゲームのシナリオ通りに現実も進んでいるということだから。でも、そんな悲しい現実を受け止めないで済みますようにと、皇帝の無事を毎晩月に
「ずっと隠されていたことだが、実は皇帝陛下が崩御された」
父の言葉に
成人の
明鈴も同じく言葉を
やはりここは乙女ゲームの世界であり、シナリオも確実に進んでいることが証明されてしまったのだ。まったく嬉しくないし、絶望に泣いてしまいそうである。
「これから、この国はどうなるのですか」
母が
「第一皇子である大牙様は十八歳になられているし、そのまま帝位に就かれることに問題はないが、急なことゆえ城内は
父の言葉に無言でうなずくことしか出来なかった。
自室に引きあげ大きなため息をつく。つきすぎて逆にはぁはぁしている
認めざるを得ないとはいえ、気持ち的には認めたくないのだ。だって乙女ゲームに転生したとして、
止まることのないため息をつきながら、ゲームでの明鈴の立ち位置を
それに加えて祖母は卯国王族、つまり兎の神獣の加護を受けていたため、明鈴は寅国に生誕しながらも兎の
でも、と顔を上げた。
前世での
「全力で処刑ルートを回避するわ!」
明鈴は立ち上がり、
一晩考えを練った明鈴は、処刑ルート回避のための策を実行することにした。シナリオが進んでいる以上は行動あるのみだ。
「兄様、お話よろしいでしょうか」
「かしこまって、どうした?」
兄の佑順が扉を開けて顔を出した。明鈴が前世の
佑順は
「兄様、如紅希様を
「……は?」
「ですから如紅希様を──」
「いやいやいや聞こえてるから。そうじゃなくて、急に何言い出したのお前」
「兄様は女性に大変人気があると聞いたので、誘惑も出来るかなと思ったのです」
佑順は明鈴の前で他の女性の話は
「明鈴に言われて
寅国は皇帝と、建国からの名家当主である太師十二人の合議制で
「兄様なら太師の娘も
明鈴は言うだけ言ってみようの精神だったので、すぐにこの案は諦めた。
「お前、真顔で冗談言うような奴だったっけ。諦めてくれたならいいけどさ」
確かに記憶が
「仕方ありません。では、如紅希様と関係を持って欲しいのです」
「はぁ? 待て待て待て! 余計におかしなことになってきたぞ。いや認めん。
佑順は
「ご、ごめんなさい。そういう意味ではないのです」
「じゃあどういう意味だ?」
「ええと、如紅希様とお知り合いになりたくて。でも私では今のところ
紅希の我が儘な性格は
「つまり明鈴のために如紅希様に近づけと? お前な、俺をなんだと思ってるんだよ」
佑順の意見はもっともだが、
「これには深い、深ーい理由があるのです。どうしても如紅希様にお目にかかりたいのです。
「……悪いことは言わない、やめとけ」
佑順がため息交じりに言う。
「私も本音を言えばやめたいのですが、どうしても彼女と仲良くならねばならないのです」
「なんで?」
思わず返事に詰まる。佑順の疑問はもっともだが、転生やら
下手に話してしまうとシナリオが大きく変わって明鈴の手に負えなくなる可能性がある。自分の行動は
「ええと
明鈴は思わず佑順に
「うわ、鼻水垂らして泣くな。子どもかよ」
「にいさま、おねがいじまず。わだじのいのぢがががっでるんでず」
「もう仕方ないな。会わせてあげればいいんだろ。誘惑しなくていいならやってやるよ」
「にいさまぁ!」
明鈴が
ゲームで見てきた佑順はチャラいモテ男という印象だったけれど、明鈴として見ると優しい兄だなと思う。そんな姿を見られるのは妹の特権だろう。
処刑ルート回避のために考えた作戦、それは悪役妃こと如紅希を
そしてこの作戦が成功すれば、明鈴だけでなく紅希の処刑も防げるという一石二鳥、もしくは三鳥くらいの得がある。紅希の処刑は自業自得な部分はあるけれど、今はまだ処刑されるようなことはしていないし、紅希が妃にならなければヒロインがいじめられることもない。みんなが死なずに嫌な思いもしないならば、そっちの方がいいに決まっている。
ゲームだと紅希は街で
紅希の初恋フラグを折り、かつ正妃にならないように導くために紅希と仲良くならなければならない。そのために佑順に泣きついて協力を
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