第9話 開拓村の小さな家
「召喚……だと……」
俺の言葉を聞いてルリジオンは一瞬目を見開いたように感じた。
といっても彼の表情は暗くてよく見えないので見間違いかも知れない。
「ええ、ご存じですか?」
「……いや、知らねぇな。召喚魔法ってのがあるのは知ってるが」
「そうですか。もし知っていたら帰り方とか知らないかなと思ったんですけどね」
俺は一つ溜息をつくと、召喚されてから今までのことを詳しく説明するために口を開きかけた。
だがそれは俺のお腹からなった盛大な音と、力の抜ける様な感覚に邪魔されてしまう。
「す、すみません。なんせ今日は何も食べて無くて」
「おぅ、こっちも気がつかなくてすまねぇな。それじゃあ飯でも食いながら話してくれればいい」
「ご飯、いただけるんですか?」
「俺は神官だぜ? 弱ってる人を見捨てたりしたら罰が当らぁ。ついてきな」
ルリジオンはそう言うと踵を返し歩き出す。
俺はその背中を追いながら、やっと塀の中の景色に目を向ける余裕が出来た。
「ここって村……なんですよね?」
街灯もない村の中。
建物も見える範囲では五つ程度しかない上に半分はボロボロで廃墟以下。
残りの半分も人の気配は殆ど感じない。
「たぶんな」
「たぶんって……ルリジオンはこの村の人なんですよね?」
「違ぇよ。俺は旅神官だっつったろ」
その旅神官というのが何か知らないんだけど。
まぁ、名前から大体予想は付くけども。
「ここはな、開拓民が作った開拓村……だったらしい」
「らしい?」
「おうよ。俺がこの村にたどり着いた時にはもう……って、その話も後でしてやる」
辺りをキョロキョロ見ながら歩いていたせいで気がつかなかったが、どうやらルリジオンの家らしき建物に着いたようだ。
彼は扉を三度ほどノックしてから開く。
ノックをするということは中に誰かいるのだろう。
ゆっくりと開く扉の隙間から中の灯りが漏れる。
と同時に中から出迎えの声が聞こえた。
「おかえりルリ。どうだった? 魔物だった?」
その声は少女の声で。
「おう、ただいま。腹ぺこの客人を連れてきたから夕飯の残りでも出してやってくれ」
「きゃくじん?」
不思議そうな声と共にひょっこりと扉の隙間から飛び出してきたのは可愛らしい女の子の顔だった。
歳はたぶん小学校高学年か中学生くらいだろうか。
金髪のふわふわな髪と青い瞳が特徴的で、近い将来はかなりの美人さんになりそうな雰囲気がある。
好奇心に満ちた大きめの目は、初めて見る俺の顔と珍しい服装を行ったり来たりして。
「こいつはリリエール。まぁ俺の同居人だ」
「お子さんですか? 全然似てないけど」
「馬鹿野郎。俺はまだ独身だってーの」
ですよね。
目の前の男の顔は、家の中からの光でやっと細かく見える様になったが、リリエールとは似ても似つかない。
そもそも髪の色は濃いめのブラウンだし、瞳も同じだ。
顔のパーツも、愛らしい表情を浮かべているリリエールとは一つも似ている部分が見当たらない。
「とにかくさっさと家の中に入れ。話は飯食いながらだ」
ルリジオンはそう言いながらリリエールを家の中に押し戻しながら入っていった。
「あ、はい」
俺は慌ててその後に続いて中に入ると後ろ手で扉を閉める。
そしてずんずんと奥へ向かって歩いて行くルリジオンの後を小走りで追った。
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