第27話
私は慌てて、頭を下げる。
「あの、ジェランドさん、ごめんなさい。私、ジェランドさんの立場も考えずに、厚かましくあれこれ相談して、助言を求めるなんて……」
「レオノーラ様、頭をお上げください。……実を言うと私は、なんとかあなたとコンタクトを取り、今申し上げたのと同じことを進言できないかと、ずっと悩んでいたのです」
「えっ?」
私は頭を上げ、ぽかんと口を開けたまま固まってしまう。
えっと、それってつまり、ジェランドさんは私が相談する前から、ヘイデールとの婚約を破棄した方がいいって、私に言うつもりだったってこと?
頭の整理が追い付かず、私はしばらく、何も言えずにいた。
代わりに、ジェランドさんが口を開く。
「……私はヘイデール様専属の執事ですから、基本的に、ヘイデール様がおいでになるところには、私も同行します。ですから、知っているのです。アリエット様とヘイデール様が、どれだけ逢瀬を重ねられているかを」
「…………」
「ヘイデール様は、もはやアリエット様の操り人形も同然です。レオノーラ様が、ヘイデール様に対する愛情を失ったのは、ある意味では良いことなのかもしれません。これ以上あの二人と関わっていては、あなたはひたすら悩み、思い煩い、憂鬱な気持ちで日々を過ごさなければならなかったでしょうから」
操り人形……
凄い言葉だ。
そこで私は、ずっと気になっていた疑問を、尋ねてみることにした。
「ジェランドさん。ヘイデールは、どうしてあんなに、アリエットの言うことを信じこんでしまうんでしょう。……ううん、おかしいのはそれだけじゃない。身もふたもない言い方をすれば、『婚約者の妹』にすぎないアリエットに呼びつけられて、従者みたいに飛んで来たり、やたらと怪我の心配をしたり、ちょっと普通じゃないと思うんです」
いかにアリエットが人の気を引くのが上手いとはいえ、ヘイデールの態度はいくらなんでも異常だ。ヘイデールのことを良く知っている執事のジェランドさんなら、この疑問に対する答えを持ち合わせているような気がする。
ジェランドさんは小さくため息を漏らし、答える。
「ヘイデール様は、アリエット様に、今は亡き妹――アニス様の面影を重ねていらっしゃるのです」
アニス……
その名前、知っている。
ヘイデールの、体の弱い妹の名前だ。
ヘイデールは、彼女へのプレゼントを買いに、私の働いている雑貨店を訪れたのだから、アニスはある意味では、私とヘイデールの運命をつなぐきっかけになった少女とも言えるだろう。
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