第19話

 思いのたけを全て言葉にしているうちに感情が昂り、最後の方は叫びに近い声になってしまった。でも、これならきっと、アリエットにも私の思いが伝わるはず。


 アリエットはいつの間にか、両手で顔を覆うようにしていた。

 その、手の隙間から、かすかに咽び泣くような声が聞こえる。


 ……まさか、泣いてるの?


 そう思い、声をかけようとした瞬間、アリエットは大笑いを始めた。どうやら、泣き声に聞こえたのは、含み笑いを必死に我慢していただけだったようだ。


「ぷっ、くくっ、あーっはっはっはっはっ! 姉さんったら、本当に純粋で、可愛いのね! 『私、あなたに何かした?』ですって? 何もしてないわよ! それどころか、姉さんは誰よりも私を可愛がってくれたわ、父さんや母さんよりもね! だから私、姉さんのこと、大好きよ。この前も言ったでしょ?」


 そこでアリエットは立ち上がった。

 笑いすぎて上気した頬が妙に艶めかしく、そして、不気味だった。


 アリエットが立ち上がったことで、身長差はたやすく逆転し、アリエットは私を見下ろしながら、熱い吐息を漏らす。


「私、姉さんのことがだぁい好きなの。だから、『姉さんが好きなもの』は、私も好きなのよ。ほら、よくあるでしょう? 仲の良い友達が気に入ってるものを、自分もいつのまにか好きになったりすることって。あれと同じよ、お・な・じ」


 見下ろされても、私は目を背けず、下からアリエットをしっかり見上げ、言う。


「確かにそういうことはあるかもしれないけど、だからって、普通は嘘をついたり、陰謀めいたことをおこなってまで、その人の大切なものを奪ったりしないわ。大好きな相手のものなら、なおさらよ」


 私は正しいことを言ってるつもりだが、アリエットは少しも悪びれず、つらつらと言葉を綴る。


「そうね、普通はね。……でもね、私、普通じゃないのよ。姉さんが幸せそうにして、大切にしてるものを見ると、どうしてもそれが欲しくなるの。似たようなまがいものじゃあ駄目。姉さんが直接触れて、愛情を注いで、執着してるものが、どうしても欲しいの。それなのに姉さんったら……」


 アリエットはそこで一度言葉を切り、魂まで吐き出すかのようなため息を漏らし、言葉を続ける。


「最近は、なんでもかんでも私に取られちゃうから、洋服やアクセサリーみたいな『物』に、全然執着しなくなっちゃったでしょ? だから私、『姉さんが大切にしてるもの』が全然手に入らなくって、それはもう退屈してたの。……だから姉さんが、父さんと母さんにヘイデールさんを紹介するために家に連れてきたときは、最っ高に嬉しかったわ」

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