第18話

 もう夕食の時間は終わっていたが、気合を入れるため、あまりもののパンとシチューを大急ぎで食べ、のしのしとアリエットの部屋に向かう。


 やや強めにノックをすると、「誰? 何か用?」という、アリエットのつまらなそうな声が聞こえてきた。さすがに、いつまでも診療所にいるわけがない。もう、とっくの昔に帰宅していたようだ。


 私は意を決し、勢いよくドアを開けた。


 以前のように、何度も深呼吸をして、心を落ち着かせようとはしなかった。そんなことをしていたら、ジェランドさんと話すうちに燃え上がった勇気の炎が、小さくなってしまいそうだったからだ。


 声もかけずに部屋に入ってきた私を見て、アリエットは少しだけ驚いていたが、すぐにニコニコ笑顔になり、先程のつまらなそうな声は何だったのだろうと思うほど上機嫌に口を開く。


「なんだ、姉さんだったの。おかえりなさい。なかなか家に帰ってこないから、心配してたのよ」


 よくもまあいけしゃあしゃあと……

 私は、ベッドに腰かけたままのアリエットに歩み寄り、見下ろしながら言う。


「誰のせいでなかなか帰ってこなかったと思ってるの」

「そうねえ……ヘイデールさんのせいかしら。あの人ったら、酷いわよね。あ~んなに簡単に私の口車に乗って、か弱い姉さんを突き飛ばした挙句、野蛮だのなんだのとなじってさぁ……ふふっ、ふふふっ……ば~っかじゃないの? 姉さんも見たでしょ、あの感情的な顔、ふふふ、野蛮人はどっちよ、ふふふっ」


 アリエットはベッドに寝転がり、くすくすと笑い続けた。


 今の言葉で、確信した。ジェランドさんの言う通り、アリエットはヘイデール自身には、まったく好意を持っていない。……それどころか、明らかな軽蔑の感情すら見受けられる。


 私は、怒りよりも、純粋に困惑し、首をかしげながらアリエットに問いかけた。


「ねえ、アリエット、教えて。あなた、ヘイデールのことなんて、好きでもなんでもないんでしょう? それなのに、私に嘘をついたり、あんな、はかりごとみたいな真似をして、彼の関心を引いて、いったい何が目的なの?」


 アリエットは横たわったまま、瞳を閉じ、黙っていた。

 私は、さらに畳みかける。


「あなた、昔からそうだったわよね。私の大切にしてるものをなんでも欲しがって、自分のものにするためなら、いやがらせみたいな方法を選択することも躊躇しなかった。……どうして? どうしてそんなことするの? 私への復讐か何かなの? 私、あなたに何かした? もしそうなら、謝るわ。だからもうこんな陰湿なこと、やめてちょうだい!」

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