第17話
しかし、どんなに考えても、思い当たる節はない。
我ながら良いお姉ちゃんだった――とまで主張する気はないが、一度だってアリエットをいじめたことなどないし、アリエットが『私が大切にしているもの』をやたらと欲しがるようになるまでは、人並み以上に可愛がっていたはずだ。
でも、私のことを、想像を絶するほど憎んでいなければ、好きでもない『姉の婚約者』を略奪しようとは思わないわよね。……よし、決めたわ。家に帰ったら、もう一度、真剣にアリエットと話をしてみよう。
真正面からちゃんと向き合えば、アリエットも馬鹿なことをやめてくれるかもしれない。……駄目だったなら、引っぱたいてでもやめさせてみせるわ。
ついさっきまで憔悴しきっていた私だが、ジェランドさんと話したことで随分と活力が戻り、勇気も湧いてきた。誰か一人でも、親身になって悩みを聞いてくれる人がいるというのは、人間にとって大変重要なことのようだ。私はすっくと立ち上がり、ジェランドさんに頭を下げた。
「あの、ジェランドさん。心配してここまで来てもらったことも、そうですけど、私のつまらない話を聞いてくれて、本当にありがとうございました。なんだか私、凄く元気が出てきました。これから家に戻って、アリエットと話をしてみようと思います」
自分に対する決意表明の意味も込め、語気を強めてそう言い切ったが、ジェランドさんはどこか心配そうな様子だ。ほんの少しの沈黙の後、彼は軽く息を吐き、頷いた。
「……そうですね。アリエット様と話をしてみるのも、まったく意味のないことではないかもしれません。では、ご自宅までお送りいたしましょう」
ジェランドさんの言った、『まったく意味のないことではないかもしれません』というハッキリしない言葉が、なんとなく私を不安にさせたが、それでも、彼が家まで送ってくれるのは、嬉しいことだった。
単純に、暗い夜道を一人で歩かずにすむから――というだけではなく、ジェランドさんと話していると、不思議と心が落ち着き、楽しいのだ。
ぼんやりとした街灯に照らされた道を、私とジェランドさんは、たわいもないことを話しながら帰った。それは、色々なことがありすぎた今日一日の中で、最も安らいだ時間だった。
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我が家の門前にて、ジェランドさんは丁寧に別れの挨拶を述べ、帰って行った。売り言葉に買い言葉の勢いでヘイデールのそばを離れたことを、ヘイデールのお父様に叱られなければいいけど……
さて、いつまでもジェランドさんの心配をしているわけにもいかない。私は私で、これからアリエットと、取っ組み合いになってもいい覚悟で話をしなければならないのだ。
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