第11話
何故そんなことを?
私がそう思うのとほとんど同時に、ヘイデールがもの凄い声で叫んだ。
「レオノーラ! なんてことをするんだ!」
本当に、凄い叫びだった。
声が波となって私の体を叩き、思わずびくりと体が竦む。
そんな、身を竦ませた私を押しのけるようにしてアリエットのそばにしゃがみ込んだヘイデールは、これ以上ないほど愛情深い仕草で彼女を抱き起こした。
「大丈夫かい、アリー? あぁ……こんな、石畳に引っ張り倒されて、痛かっただろう……? すぐ医者を呼ぼう! ……いや、きみを馬車に乗せて、全速力で近くの診療所に連れて行った方が早いかな?」
アリエットは、いつの間にか涙を流しており、鼻をすすりながら、返答する。
「ううん、大丈夫。ちょっと倒れただけだから、大した怪我はしてないわ」
大した怪我も何も、自分から倒れたのだ。軽い打撲すらしていないだろう。
それにしても、痛くもなんともないのに、よくもこれだけ上手に嘘泣きができるものだ。私が、呆れと感心が混ざったような顔で見下ろしていると、アリエットはこちらを見上げ、いかにも同情を引きそうな声で哀訴する。
「ごめんなさい姉さん、私、また何か、姉さんの癇に障ることをしちゃったのね。謝るから、これ以上酷いことしないで。姉さんにぶたれると口の中が切れちゃうから、しばらくの間は、まともに食事ができなくなるもの。もうあんな思いをするのは嫌よ……」
ちょっ、待ちなさいよ。
その言い方だと、私が何かにつけて癇癪を起こして、あなたに暴力を振るってるみたいじゃない。
思ってもいなかったアリエットの言葉に、私は軽いパニックになった。
とにかく、これ以上ヘイデールにデタラメを吹き込まれてはたまらない。
私はアリエットを黙らせようと思い、ペラペラとあることないこと喋り続けている妹の唇を、手で塞ごうとした。
突然、体に強い衝撃。
地面に尻もちをついた私は、一瞬何が起こったのか分からず、茫然としていた。十秒ほど経って、やっと現状を理解する。……なんと、ヘイデールが、あの、優しいヘイデールが、アリエットを守るように抱きかかえ、私を突き飛ばしたのだ。
ヘイデールは、信じられないものを見るような目を私に向け、言う。
「レオノーラ……今、何をしようとしたんだ? アリーを殴ろうとしたのか? 地面に引き倒しただけでは飽き足らずに!」
「ちがっ、私はただ、この子を黙らせようと思って……」
「だから、殴って黙らせようとしたんだろう!? 信じられない……誰よりも思いやりのある女性だと信じていたきみが、こんな野蛮なことをするなんて……!」
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