第10話
やはり、アリエットがヘイデールを呼び出したのか。
私は、愉快そうに微笑んでいるアリエットを一瞥してから、ヘイデールに問い返す。
「相談したいことって? アリエットが、私の婚約者であるあなたに、何を相談するっていうの?」
ふつふつと湧き上がる怒りと不信感で、自然と詰問するような言い方になってしまう。
だが、ヘイデールにとっては私の怒りよりも、アリエットの気持ちの方が大切らしく、アリエットの方に視線を向けると、まるでお姫様に伺いを立てる従者のように「相談のこと、レオノーラに話してもいいかい?」と尋ねた。
アリエットはとうとう、ヘイデールに抱きつくほどに体を寄せ、甘ったるい猫撫で声で言う。
「どうしようかしら。姉さん、なんだか怒ってるみたいだし、『相談のこと』を話したら、もっと怒らせちゃって、私、家に帰ってから姉さんにいじめられるかもしれないわ」
「そうか、それは困るね。ふふ、それじゃ『相談のこと』は、二人だけの秘密にしておこうか」
二人だけの秘密って……
完全に私だけを蚊帳の外に置いた、ヘイデールとアリエットのやり取りに、いつもなら声を荒げることもできない気の弱い私も、思いっきり頭に血が上ってしまった。
怒りなのか、悔しさなのか、悲しみなのか、嫉妬なのか、よくわからない負の感情が心の中で混ざり合い、昂り、目にはうっすらと涙がにじむ。
気がつけば私は、アリエットににじり寄り、ピッタリとくっついたままのヘイデールから、彼女を引きはがそうとしていた。私は生まれてから一度も、取っ組み合いなんかしたことがなかったので、自分が、こんな実力行使的な行動に出たことに、自分自身でも驚いていた。
「ヘイデールから離れなさい、アリエット……! さっきからベタベタベタベタ……あなた、ちょっとおかしいんじゃないの……!?」
「ちょっ、姉さん、そんな、引っ張らないでよ、危ない……っ!」
私に引っ張られたことで、アリエットの体は大きくよろめいた。
そのままバランスを崩した彼女は、ベンチから落ちて、地面に倒れ込んでしまう。これには、私の方がビックリである。引っ張ったと言っても、私の細腕では、体格で上回るアリエットを地面に引き倒すなんて、できるはずがない。
「痛い……酷いわ姉さん……どうしてこんなこと……」
アリエットは悲痛な声を漏らすが、何かおかしい。
私は訝しみ、弱々しく倒れ伏したままのアリエットを見やる。
するとアリエットは、ヘイデールには見えない角度で、私だけに見えるように微笑み、ぺろりと舌を出した。それで、悟った。わざとだ。アリエットは自分から、わざと倒れ込んだのだ。
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