第6話
アリエットはまるで、縮こまった私を慰めるように、優しい声で言う。
「姉さん、何か勘違いしてるわよ。私はただ、いずれ姉さんと結婚するヘイデールさんと、お近づきになりたかっただけよ。だって、私の義兄になる人なんだから、仲良くしておかないと、色々困るでしょう?」
「それは、まあ、そうだけど……」
「私、姉さんのことが大好きなのよ? その大好きな姉さんが嫌がるようなこと、するはずないじゃない」
今まで散々、私が嫌がるようなことをしてきたくせに……
そう言いかけて、寸でのところで私は言葉を飲み込み、考えた。
もしかして、本当にアリエットの言う通りなのだろうか?
アリエットは私のことが大好きで、それ故に、私の使っているものに関心を持ち、純粋に欲しいと思っただけで、私に対する悪意など欠片もなく、実際は、地味な存在である私が、皆の人気者である華やかなアリエットに、矮小な被害妄想を持ち、勝手にいらだちを募らせただけなのだろうか?
そんなこと、あるはずがない!
……とは、必ずしも言い切れなかった。
可愛くてスタイルも良く、どんなことでも器用にこなすアリエットのことを、ほんの少しだが、妬ましいと思ったことは、ある。
私がアリエットより勝っているところと言ったら、地味な作業をコツコツやり続けることのできる、忍耐力くらいだろう。
何人もボーイフレンドがいるアリエットと違い、私はヘイデールと出会うまで、男の人の手すら握ったことがない。
だから、生まれて初めて男の人に――ヘイデールに愛されている今、彼を他の女性に取られやしないかと、神経質になっているのかもしれない。そう考えると、ずかずかと妹の部屋に抗議にやって来た自分の行動が、急にみっともなく、恥ずかしいものに思えてきた。
……そうよ、いくらアリエットでも、私からヘイデールを奪ったりするわけないじゃない。ぬいぐるみや服じゃあるまいし。私は恥ずかしさを誤魔化すように顔を伏せ、弱々しく言葉を紡いでいく。
「ご、ごめんなさいアリエット。私、どうかしてたわ。あなたとヘイデールが随分仲良くしてるから、少し不安になっちゃって……」
そんな私を、アリエットは抱きしめた。
体格差が大きいので、まるで包み込まれるようである。
アリエットは私の耳元で、甘く囁く。
「いいのよ、姉さん。私たち、姉妹じゃない。それよりも、姉さんが正直に気持ちを打ち明けてくれたことが嬉しいわ」
優しい言葉だったが、なんだか、言葉の裏に、奇妙な熱がこもっているような気がして、それが、私の心を妙に不安にさせた。私の華奢な体を包むアリエットの腕をそっと押しのけ、離れると、「本当にごめんね」と言い、私は逃げるように部屋を出た。
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