第5話

 私は短く「そうね、久しぶりね」と言ってから、言葉を続ける。


「アリエット、今日は大事な話をしようと思って来たの。だから、真剣に聞いてちょうだい」

「あら、私、姉さんの話はいつも真剣に聞いてるわ。ふざけたことなんて一度もないわよ」

「そう、なら安心ね。……単刀直入に言うわね。私とヘイデールの間に割り込もうとするのを、もうやめてほしいのよ」


 本当に、単刀直入に言いたいことを言うことができ、私は心の中で、小さくガッツポーズをとった。


 ……自分でも情けないと思うけど、アリエットの大きな瞳で真っすぐ見つめられると、私いつも、言いたいことが言えなくなっちゃってたのよね。やっぱり今回は、大好きなヘイデールに関することだから、いつもよりずっと勇気が湧いてくるんだわ。


 思えば、こんなふうに、アリエットに面と向かって文句を言うのは初めてのことだ。案外、アリエットが私のものをなんでも欲しがり続けたのは、私が毅然とした態度を示さなかったのも悪かったのかもしれない。


 姉として、言うべきことをハッキリ言えば、厄介者だと思っていた妹とも、これからは仲良く付き合っていけるかも……


 私はしばし、希望的な未来を夢想した。

 だが、そんな私の幻想を打ち砕くように、アリエットは平然と言う。


「何言ってるの、姉さん。私、姉さんとヘイデールさんの間に割り込もうとなんて、してないわよ?」

「えっ、で、でも、私とヘイデールのデートについてきたり、ベタベタと彼に甘えたり、その、してるじゃない……」


 あまりにも平然としたアリエットの態度に気圧され、弱気な私の語気は、どんどん小さくなっていく。口ごもる私を見て、アリエットはくすくすと微笑むと、自身の隣をポンポンと手でたたき、「立ち話もなんだから、座ってよ姉さん」と言った。


 しかし、私は座らなかった。

 アリエットの指示に一つでも従うと、このまま丸め込まれてしまうような気がしたからだ。


 無言で立ち尽くしたままの私を見て、アリエットは微笑を浮かべたまま小さく息を吐くと、立ち上がった。


「うふふ、姉さんが立ち話をしたいっていうなら、私もそれにつきあうわ」


 立ち上がったアリエットに見下ろされ、私は、意地を張って座らなかったのは失敗だったかもと思った。


 アリエットは、まだ15歳なのに発育がよく、身長が168cmもある。

 対する私は、成人女性の平均よりも小さく、151cm。


 男性でも、17cm身長差があると、かなり威圧感を感じるものらしいが、女性の場合はもっとである。……いや、女性全般ではなく、私の気が小さいだけかな。とにかく、私はアリエットの長身の迫力に押されてしまい、黙ったまま、一歩後ずさった。

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