第4話
……だけど、それから半年たった今、私の幸福は、大きく揺らぎつつあった。妹のアリエットが、私とヘイデールの間に、やけに割り込んでくるようになったのだ。
ヘイデールを家に招いた時は、婚約者の私を差し置いて彼の隣に座り、あろうことか、デートにまでついてくることも多々あった。ヘイデールも最初は困惑していたが、いつの間にか、人の心を掴むのが上手いアリエットにほだされ、まるで本物の妹に接するように、アリエットを可愛がるようになった。
……私は、ゾッとした。
アリエットが、私が大切にしている『もの』を何でも欲しがるのは身に染みて知っていたが、その対象は、いわゆる『物』だけだと思っていた。
でも、もしかして、大切な『物』だけではなく大切な『者』も、アリエットの執着の対象になるのだとしたら……
冗談じゃないわ。
他のものは、すべてあげてもいい。でも、ヘイデールだけは――私の、愛する人だけは、絶対に渡さない。決意と覚悟を固めた私は、ある日の夜、アリエットの私室へと赴いた。ドアを二回ノックし、やや厳しい声で言う。
「アリエット、私よ。入ってもいい?」
ちなみにアリエットの部屋は、もともと私の部屋だった。
日当たりが良く、居心地も良い、大好きな部屋だったが、アリエットが父や母の前で、『姉さんの部屋の方がいい』としつこく駄々をこねるので、譲ってあげたのだ。元は自室だった場所のドアをノックし、入室の許可を取っている自分の間抜けさに、ちょっとだけ自嘲的な笑みが浮かんだ。
ほんの少しの間をおいて、部屋の中から「もちろんよ姉さん、入って」と、明るい声が聞こえてくる。緊張気味の私とは違い、アリエットはすこぶるご機嫌のようだ。
私は昂った気持ちを鎮めるため、一度、二度、深呼吸をする。
まるで、決闘直前の剣士のような気分だ。
妹と話すだけなのに何を大げさなと思うかもしれないが、あまり気が強い方じゃない私にとって、アリエットに『私とヘイデールの間に入ろうとするのはやめて』と抗議するのは、大変な勇気がいることなのである。……結局、気持ちを落ち着かせるのに、三回も深呼吸をしてから、私はドアを開け、入室した。
アリエットは、かつて私のものだったベッドに腰かけ、にこやかにこちらを眺めている。私が緊張で乾いた喉をかすかに鳴らすのとほとんど同時に、妹は口を開いた。
「姉さんが私の部屋を訪ねてくれるなんて久しぶりね。最近、なんだか私のことを避けてるみたいだったから、とても嬉しいわ」
そう言って微笑むアリエットの顔は、本当に嬉しそうだった。
『最近』どころか、ここ数年の私は、かなり意識的にアリエットのことを避けているので、彼女の自室でこうして向き合うのは、たぶん一年ぶり以上だろう。
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