第14話 居眠り姫よねぇ
「うーむ。やはり、まずは校内の部活を攻めるべきか」
モネは自室で新聞部で作る学校新聞の題材を考えていた。部内全員で意見を出し合う事になっており、既に交友関係が幅広いモネは方向性を決める意見を出そうかと思っている。
「うーん。ん?」
机に置かれている時計を見ると既に時間は昼を回っていた。
姉の書道教室は終わったハズ。今頃は昼食を作ってくれていると予測し、手伝いに部屋を出る。
「モーカーちゃーん。昼食は素麺と見た!」
そう行って台所に顔を出すが調理する姉の姿がない。
「やややい! さては小学生のガキんちょ共がゴネて長引かせてるなぁ!」
モカちゃんの昼食とおっぱいはあたしのモンだ!
と、モネは姉を捜して書道教室に使っている居間へ向かう。
「――邪魔をしたのか!?」
蔵の方でそんな声が聞こえてモネはそっちに足を運ぶ。そこには祖父が姉の着物に掴みかかって肩まで
「! うぉい! 何やってんのさ! スケベ祖父ちゃん!」
「モネ!」
モネの登場に祖父は声を上げ、姉は首の痕を隠すように着物を直す。
「何があったのかは知らないけどさ、掴みかかる事はないじゃん! か弱い乙女だよ! あたし達は!」
「モネ……」
「何も知らん奴が口を挟むでない。そのうるさい口は外にでも遊びに行っておれ!」
「じゃあ、お小遣いを所望する! 3万くらい頂戴! 死ぬほど豪遊してくるから!」
「この戯けが」
「戯けですよ。あたしは純正の戯け。だから戯けは和風美人の姉を外に自慢するために一緒にショッピングモールへ戯けに行きます」
そう言ってモネは強引に姉の手を引くとその場から連れ出す。
「待て、モカ! 話は終わっとらんぞ!」
「残念ながらこの通信はシスターズ専用の回線を使用しておりますぅ~。会話が出来るのは手を繋いでるあたし達だけなので~」
「モネ……貴様!」
べー、と舌を出すモネは姉を強引に屋敷から連れ出した。
「モネ」
逃げるように外へ早足に手を引く妹にモカは声をかける。
「何があったのか知らないけどさ。あたしはずっとモカちゃんの味方だからね」
その言葉にモカは微笑む。
「モネ、私の事を想ってくれるのは嬉しいわ。でも、お祖父様へのあの言葉は良くない。謝りに戻りましょう」
「えー。モカちゃん、絶対悪くないでしょ! お祖父ちゃんって蔵の事になると過剰に反応するし、それ以外は寡黙でカッコいいのにさ」
蔵には決して近づくなと言われているので、言いがかりでもつけられたのだとモネは察する。
「それでも……お祖父様のおかげで今の私達があるのだから……ね?」
「~~~わかった。でもあたしはお祖父ちゃんに負けた訳じゃないよ! モカちゃんの笑顔に負けただけだからね! あとお昼ご飯に!」
と、屋敷へ戻る姉の後ろをモネが続く。
萌歌と百音の蒼井姉妹は、小さい頃に両親を亡くし、祖父の元へ引き取られる形で四季彩市に来たのであった。
「おはようございます、白亜さん。カーテンを開けますね」
一人のナースがある病室に入る。
そこには呼吸器に繋がれて規則的な心電図だけが響く個室だった。
そのベッドに眠るのは伸びきった白髪が特徴の美少女。年齢は高校生くらいである。
「……今日も反応は無しか」
ナースは軽く嘆息を吐いて、埃が貯まらない様に部屋を掃除する。
彼女はとある資産家の娘であり、何度も意識の覚醒と昏睡を繰り返す病気にかかっていた。
資産家からは多額の支援を受け取っており、彼女の介護を一心に引き受けている。しかし、何よりも眼を引くのが――
「うーん。本当かなぁ」
彼女は特異体質で、眠っている間は歳を取らないらしい。髪も伸びるのを停止し、呼吸だけをしていると言う稀有な事例だ。
三年前に一度目を覚ました時は世間を大いに盛り上げた。
多くの記者が押し寄せ、一言言葉を受け取ろうとするも、病院側はそれを頑なに拒否。病室から彼女が窓の外に手を振っている写真が掲載された事で世間は知った。
しかし、その日に眠ると再び昏睡に陥り、今に至る。
「あーあ。三年前の日……損したぁ。丁度非番だったんだよなぁ」
この病室に入れるのは、彼女の身内と担当のナースのみ。チェックは朝昼夜の三回で、前の目覚めは昼間に代わりに担当したナース長が対面した。
「動いてる様は凄く可愛かったらしいし……ホント、眠り姫よねぇ」
ナースは少女の伸びきった白髪を触る。彼女は少女を担当してから若干のレズっ気に目覚めていた。
「おっと……危ない危ない」
身内と緊急時以外は触るのも厳禁である。毎日、美少女成分を補給する為にも……この役割を外される訳には行かない!
「機器も問題なし。掃除も終わった」
ナースはチェックリストを片手に部屋を後にする。
「――――」
思わずナースは部屋に戻る。すると、身体を起こして微睡みに目をぼーっとさせる少女がベッドに居た。
「は、白亜さん!?」
その日、四季彩病院に激震が走る。
3年ぶり、その前は20年ぶりに目を覚ました少女――
「……誰かしら?」
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