第11話 ガルレオンの村に到着



「あっ、ジョージさんおはようございます。もう少しで朝食ができますよ」


「ふふふ、おはようございます。顔でも洗ってきてはいかがでしょうか?」


 アイリスさんとエリシアさんに声をかけられた。もう朝か……。


「おはようございます」


 かなり眠っていたのか、二人は既に朝食と出発の準備をしているようだ。そう言えば一昨日は殆んど寝ていなかった。かなり疲れていたのだろう。


 上半身を起こすと、にこにこしたアイリスさんに人差し指で肩を突っつかれた。


「一人ボーチ、えへへへ」


「うっ」


 聞かれてたのか!この人達は目だけでなく耳も良いようだ。



 俺達は朝食をとって、ポッポルに乗り込む。2日目の空の旅が始まった。


 今日も順調で、相変わらず同じ景色が続いて、少しは馴れたけどアイリスさんを後ろから抱き締めてドキドキしてしまうのだった。





 日も落ちかけた頃、眼下には丸いコテージの様な建物がひしめいていて、その上空をポッポルが旋回していた。


「これがガルレオンの村か」


「ええ、今も昔も変わりませんね!」


「お祖母様、人が集まってきましたよ」


「ふふふ、さあ、降りますよ」


 村の中央の広場に、たくさんの村人が集まってきた。


 村の人は皆、褐色の肌に金色のぼさっとした髪で、体の至るところに赤い入れ墨を入れている。アマゾンやアフリカにいそうな部族っぽい露出の多い服装で、皆槍を持っている。


 驚いたの獣耳と尻尾!今まで2次元でしか見たことがなかった物がそこにはあった。


 すっげーッ!凄いよ!漫画やアニメじゃない!現実世界に本当にいたんだ!ケモミミ獣人!


 俺は滅茶苦茶感動した。



 ポッポルが村の中央の広場に降り立つとガルレオンの人達に囲まれた。

 そんなのは気にしないといった様子でエリシアさんとアイリスさんはポッポルから地上に飛び降りる。

 俺も後に続いて降りた。


 ガルレオンの人たちは筋肉ムキムキで良い体をしている。

 そして俺達に槍を向けている。


「何だこいつらッ!?」

「おい!耳も尻尾も付いていないぞッ!」

「まさか人族かッ!?」


 ガルレオンの人達から警戒と殺気を向けられている。でも大丈夫!こっちにはこの人がいるならねッ!

 俺はエリシアさんをチラリと見る。


「ふふふ」


 エリシアさんは普段と変わらない。優しい笑顔を浮かべている。きっとガルレオンの人達もこの笑顔に癒やされていることだろう!


 ガルレオンの言葉はエリシアさん達が使う言葉とは違う。

 ガルレオン語なのか?だが、どんな言葉も俺には分かる。リザさんのおかげである。


「人族、初めて見たぞッ!」

「人族は危険だ!ここが知られるのもまずいッ!」

「どうするッ?ヤるかッ!?」


 前衛にいる若い男が今にも攻撃しそうな構えだ。


「ふふふ」


 しかし、エリシアさんは優しく微笑んでいるだけ……。


「俺の槍で一突きだッ!」

「皆殺しだぜッ!」

「俺も加勢するッ!」


 言葉が分かるから分かってしまう。

 俺たちはられそうになっている!


 けれど説明すれば大丈夫なんですよねっ?そう言ってましたよねっ?エリシアさんっ!?


「ふふふ」


 くっそう!失敗した!傷害事件になってエリシアさんを訴えるたときのために、ボイスレコーダーでこの人の発言を録音しておくべきだったッ!


 ほら、早く何か言わないとられちゃうッ!?




 そんなことを考えていたら、前衛の男がエリシアさん目掛けて動いた。


「へらへら笑いやがって。俺が殺ってやるッ!――ガッ!」


「くそッ!」


 ギンッ!


 俺が盾に入るより一瞬早く、アイリスさんがエリシアさんとガルレオンの男の間に入っていた。


 アイリスさんは腰の短剣を抜き、槍の突きの軌道をずらしたようだ。


 推定155センチの華奢で小柄なアイリスさんの短剣と、推定200センチのマッチョなガルレオンの男の槍が交差する。


 男は大きく後ろに下がり間合いを取って警戒した。


「わたしは風族のアイリス・フォリス! こちらは風族族長、エリシア・フォリス様ですッ!風族の族長にこの様な狼藉は許しませんッ!」


 流暢にガルレオンの言葉を話すアイリスさん。

 アイリスさんも短剣を構えた。


 と言うか、エリシアさんは風族の族長だったのかよ。

 けど今はそれはどうでもいい!こんな大勢に喧嘩を売ってどうするんだよアイリスさん!?

 許してもらえないのは俺達の方だ!



 アイリスさんの言葉を聞いて、ガルレオンの人達がざわめき出した。

 エリシアさん達が嘘をついていたとは思えない。100年前に一緒に戦ったという話は間違いなく本当の筈だ。


 それにこんな大勢に攻撃をされたら間違いなく殺される。エリシアさんなんか、さっき殺されそうになっていたし!


 ここは何とか話し合いで解決できないものか……。


 一旦距離を取ったガルレオンの男が動いた。


「みんな騙されるなぁーッ!風族は英雄だぞッ!こんなひょろい奴らな訳がねえ!!」


 男はそう叫びながらアイリスさんに向かって駆け出し槍間合いで止まる。


 誰もが思った筈だ。


 こんな体格差では、あの女の子は直ぐにやられてしまうと。俺もそう思った。


「ガッ!」


 男は再び突きを放つが、逆手に持ったアイリスさんの短剣に弾かれ軌道を反らす。


 アイリスさんは鋭い視線で男を睨む。


 そこから槍の連続攻撃が始まった。


「ガッ!ガッ!ガッ!ガッ!ガッ!」

 ――ギンッ! カンッ! ギギンッ!


 だが、突きは弾くか躱し、槍の横凪ぎは体勢を思い切り低くしたり、軽く後ろに飛んで躱す。


 ガルレオンの男の攻撃は早いし重い。

 だけど、更に素早くアクロバットな動きをするアイリスさんには当たらない。


 ガルレオンの男は怒りと焦りで動きが大振りになっている。


「くっそがッ!!」――ゴゴッ!


 そして、アイリスさんを狙って槍を上段から思い切り地面に叩きつけた。土埃が舞う。


 舞った土埃が風ではれると――、

 男が降り下ろした槍の上にアイリスさんが立っていた。


「はぁー、見た目だけで、大したことないんですね?」


 槍の上に立つアイリスは溜め息をつき、冷たい視線でガルレオンの男を見下ろしながら、とんでもないことを口走る。


 ブチッ


 血管の切れる音が聞こえた。


「糞ガキがぁああああッ!ぶっ殺すッ! ガッ!ガッ!ガッ!ガッ!ガッ!ガッ!」


 キレてる。連続の突きがアイリスさんを襲った。


 だが、アイリスさんは逆手に持った短剣で全て弾く。


「避けてるだけじゃ俺は倒せねーぞッ!オラッ!!」


「我に眠る風の精霊よ その力を解き放て」


 アイリスさんは槍を弾き、躱し、男を強い視線で睨みながら何かぶつぶつと言っている。


 そして、短剣を持っていない左手のひらを男に向けた。


「暴風 せんッ!」


 アイリスさんの掌から白い風の玉が高速で飛び出し男の腹にぶつかった。


「グガッ!」


 白い玉がぶつかった瞬間、男は物凄いスピードで横に2、3回転して地面に叩きつけられた。


「ザゴがやられたぞッ!」

「あの女つええええええッ!」

「くっそッ!」


 ガルレオンの男達から驚きの声が上がる。


 俺も驚いた。勝っちゃったよ!アイリスさんッ!





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