これからの人類のあらまし
「コノタビハトウシセツヲゴケンガクイタダキ、マコトニアリガトウゴザイマシタ。マタノオコシヲオマチシテオリマス」
出発しようとする私達に、キツネたちが手を振る。
ここ最近すっかり存在を忘れていたけれど、そういやいたわこんな奴らも。そんな感じで物思いにふけていると
「めい!おまたせ」
少し息を弾ませてシキが私の元へと駆け寄ってきた。
本当にかわいいなぁ……思わず誘拐して幸せな家庭を築きたくなる。
……てかちょっと待って
「シキ……その服」
「はるがこれしかつくれないって……」
「ちょっと待っててあの淫乱AIスクラップにしてやるから」
「もう……べつにぼくはきにしていないから、はやくしゅっぱつしようよ」
「いや、でもセーラー服て!!!!ちょっと!!すごく似合ってる……すごく似合っているのだけど……!!」
少し前
「人類復興にあたり、まずアナタたちにやってもらうことを説明しましょウ」
「センセーさっきから説明ばっかでぶっちゃけ飽きましたー」
「1000年前、ワタシ達の組織は世界中に散らばり、タツヤの指揮の元各地でリプロダクト計画の研究、および施設の開発が進められていましタ。そしてそれらの施設の中でも各地の主要都市の地下に存在していたもの……中心的な施設は今もなお生き残っていまス。そこでこちらをご覧くださイ」
私のボケを華麗にスルーし、ハルはモニターにある画面を映し出した。
そこに示されていたのはこの世界の世界地図と……画面の中に光るマークが7つ。
どうしてだろう、つい最近これと同じものを……いや、同じ光景を見たような
「……!?これって」
「気づいたようですネ。世界に現れた7つの光の柱……アナタの記憶から分析シ、地図に示したのがこちらになりまス。そしてこの工場……ここも元は工場などでは無かったのですガ、偶然かそれともなんらかの理由があるのカ……ここを含めたこれら7つの施設はいずれも我々の組織が設立シ、運営を行なっていたものでしタ」
「マジか……」
いや、マジかとしか言いようが無い。
「ちなみにシキ……あんたこれ」
「ぼくもさっききいた。おどろきだよね」
そのわりにあんまり驚いているように見えないけどね。流石だね。
「まぁびっくりしたし、言いたいことは分かったけどそれで私達にどうしろって?」
「主な依頼内容は現地の調査でス。これら6つの地点とは現在連絡が取れませン。したがってアナタたちには現地に直接乗り込んでいただキ、各施設の状況ト、
「なるほど……概ね理解した。それでハル、一応聞いておくけどさ、あんたは本当に人類の復興なんてできると思ってる?それも私達になんて任せちゃって」
「計算上はほぼ不可能でス。今回のこともそうでしたガ、ただでさえ無謀なプロジェクトにも関わらずあまりにも障害となる要素が多すぎまス。……ですガ、ワタシはタツヤによって作られたAIでス。できル、できないに関わらずワタシが稼働している限りは彼に与えられた使命を果たしまス。それがワタシというAIの存在意義ですかラ」
「……そう」
ハルも覚悟の上らしい。だったら私からはもう言えることはないかな。
「依頼の遂行に当たリ、ワタシはアナタたちを全面的にバックアップいたしまス。現時点ではこの工場を用いた装備品の品質向上ぐらいしか行うことができませんガ、アナタたちが他の施設の探索、開放を行えば通信施設や交通網が発展シ、人類復興へ近づくことができるでしょウ」
「了解。じゃあ早速なんだけど私の方は装備品の交換と整備を。シキは……」
私はシキの方をチラッと見る。
「なんか服でも見繕ってあげて。新しい旅立ちだっていうのに、ボロボロの服じゃあ締まらないでしょ」
シキが着ている服は、あの休眠ポッドから脱出した当時のまま……具体的にはあの患者が着る手術衣の様な服のままであった。ここまで怒涛のスケジュールだったし、文明的なものがこの世界には存在していなかったため、ずっとこの服装だった。でもようやく一息つけるようだし、いつまでもあの服でいられるのもかわいそうだろう……それにシキの新しい服が見たい。なんなら私が見立ててあげたい。
「承知しましタ。シキ様のお召し物はワタシが見立てましょウ。メイさんはキツネに案内させますのでお好きなパーツを選んでいじくり回していてくださイ。サ、シキ様はこちらへどうゾ」
ハルに誘導されるまま、シキは別室へと消えていった。
「何かあいつ私にだけ辛辣じゃねえ?……ま、いっか。私もやることやりますかね」
メイと離れたシキは、ハルの誘導を受け、別室へと移動している。
「はる」
「……ハイ」
「めいとぼくをひきはなしてまでなにをはなしたかったのか、きいてもいいかな?」
「やはりアナタには隠し事ができませんネ。……データベースの確認作業をしている間に少々気になるデータを発見いたしましタ。分析の結果、それはアナタの出自に関するものであると考えられまス」
「……っ!!」
「しかシ、私の権限では完全に読み解くことはできませんでしタ。恐らくあれを解析できるのはあの計画においてワタシよりも上位の存在……すなわチ」
小此木タツヤ
かの存在はこの工場内に入ってからしばしば耳にした。その誰もが口にするのは
天才、の一言。
強烈な存在感を放ちながら、同時に多くの謎に包まれている。リプロダクト計画を語るのならば、彼の存在を無視することはできないだろう……しかし
「かれはいまどうしているの?」
「申し訳ありませんがタツヤは現在行方不明でス。彼はコールドスリープの直前、己に関する全ての記録を抹消したものと思われまス。したがって彼がこの1000年後の世界に来ているかどうかも不明となっていまス……たダ」
「?」
「ワタシ個人の意見といたしましてハ、彼はこの世界のどこかに存在しているのではないかと思われまス。もシ、コールドスリープに参加せず、あの世界で死ぬようでしたラ、わざわざ自身の記録を抹消する意味がありませン。何よリ……彼に生み出されたものとしテ、あっさりと死ぬような男にワタシは思えないのでス」
「……ふふっ」
「……?どうかいたしましたカ?シキ様」
「あぁ……ごめんね、つい。はるはたつやさんのことがだいすきなんだね」
「いくらシキ様のお言葉でも怒りますヨ?……そんな悪い子は脱ぎ脱ぎしましょうネ〜〜」
今までハルの声が響いているだけの部屋の天井から、突如として複数の腕が現れる。
「は……はる!?なにを……っ!?」
「メイさんからの命令ですのデ。シキ様、お覚悟ヲ」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
地獄の着せ替えが始まる。
その後のシキは口を開く元気も湧かないほど憔悴しきった姿でメイの前に現れたという。
*
「あれはひどいじけんだった……」
「あはは……元気出してよシキ。服はめっちゃ似合ってるよ」
「これでいいのかぼくにはわからないんだけど……そうなのかな?うん、ありがとう」
「ふへへ……おっと、じゃあそろそろ出発しようか?シキ、忘れ物は無い?」
「だいじょうぶ。めいは?」
思えばこの工場についてからはまあひどかった。
初っ端から謎の地下空間に廃棄され
見知らぬおじさんとスカイダイビング
シキと合流しようとしたら私の偽物に殺されかけてるし
勝ったと思ったらまた地下に突き落とされ
偽物との第二ラウンドが始まり
やっとの思いで地上に戻ったら連戦に次ぐ連戦
最後はこの工場全体の戦力と戦争を行う始末
……よくもまあ生きてこれたな私。
残り6つの光の跡地もきっとこんな感じなんだろうなあ。今までずっと何も無い大地を歩くか空をぼーっと見上げることしかやることが無かったのに……ずいぶんと忙しくなってしまったものだ。けれど
「忘れ物はなし!!……さ、行こうか」
そう、忘れ物は無い。
これからも私は多くのものを抱え
この道をどこまでも歩いていく。
第一章 生まれ落ちる機械 完
第二章 へと続く
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