あんたを殺す理由
部屋を出た私たちは、ひたすら通路を進み続ける。目指しているのはシキが最初にハルと遭遇したという地点だ。
「ねぇシキ、今のうちに聞いておきたいんだけど……さっきのテレパシー的なアレなんなの?」
私が尋ねたテレパシー的なアレとは先の量産品たちとの戦闘中に発現した、シキの声が私の脳内に直接響き渡る現象のことだ。
「しんやさんにもらったぎがんをいれてから、できるようになった。うまくせつめいできないんだけどこう……えいやっ!……ってめのおくにいしきをしゅうちゅうさせるとこえがとどけられるんだ」
「……今のえいやって掛け声もう一回言ってくれない?」
「むだばなしするだけなら、これからむしするからね」
「あぁ……!!それはやめて!!……ちなみにそれ、私だけ?おじさんとか、ハル相手に使えたりはするの?」
「おじさんにもつかえてたらさっきのさくせんかいぎのときにつかってたかな。はるはつかっているぶひんによるとおもう。たぶんめいと……もしかしたら、りょうさんひんのほうにもつかえるかもね」
「あ、そっかぁ」
なるほど……私と同じ規格の眼球を持っている相手には使える感じかな?
「……それと、あとひとつできるようになったことがある」
「え?なになに?」
すると、シキはその場で一旦立ち止まり、私の方をジッ……と見つめてくる。
あぁ……ジト目もたまんないなぁ……と、思っていると
「……!?何これ!?」
「……っ!!……ふぅ……いまは、いっしゅんが、げんかい……」
今の一瞬、またも私は不可解な現象に見舞われた。
もしかして……これもシキが?
「シキ……あんたこの力も……?」
「ぎがん……だろうね。今からしんやさんにきいたはなしと、ぼくなりにこうさつしたことをめいののうないにおくるから、このままはしりつつがんばってりかいしてね」
「へ……?いや、ちょっ……!?なにこれぇえ!?なんか、直接脳内にいっぱい活字が!?!?」
それから数秒経って
うぅ……文字で酔いそう。何だこの感覚。
脳内に声を届けるシキの能力により、私はここしばらくシキに起きた出来事と、おじさんから伝えられたというこの世界の状況を全て把握した。彼のこの能力をとりあえずはテレパシー(仮)と呼称するけど、中々便利な能力だ。この先戦闘中の連携を取ったり、聞かれたくない会話をするのに重宝すると思われる。でも
「……シキ、私それ嫌いだからしばらく控えてね……」
一言二言であれば美少年によるちょっとしたドラマCDなんだけど、基本この能力で伝えられる内容って業務連絡みたいなものだから単純に情報の暴力なんだよね……。だからこうして少し抵抗してみたけれど
「ごめんねめい、でもあとでいっぱいつかうよていだからがんばってなれてね」
「ジーザス……ッッ!!」
あっさり断られてしまった……。
というか、何だこの世界……いつの間にかずいぶんとSFチックになってるんだけど?
思わずあの先生のニヤケ面が浮かんでしまう……ぶん殴りたい、その笑顔。
まぁとりあえずそれは一旦傍に置いておくとして、だ。
根本的な疑問として、ハルはなぜ私を排除しようとするのだろうか?
別に私彼女に迷惑かけるようなやばいことやらかした記憶は無いんだけどなァ……。それについてもなんかショックだし、更なる疑問としてハルってこの1000年どこにいたんだろう……?って思う。
私はたぶん、この1000年で地球を10周以上はした気がするけれど、後半は何もない地域がほとんどだったし、建物を見つけても大体は風化してた気がしますよ?
たぶんこれもあの光の柱が何かややこしくしているんだろうなぁ……あぁめんどくせ。
「……めい、そろそろつくよ」
「あ、ちょっと考え事してたわ。ごめんごめん……そうね、まずは目の前のことから片付けよう!!」
通路を進むと、突き当たりに閉ざされた扉が見えてきた。恐らくあれが目的地だろう。
「……邪魔ァ!!」
とりあえず右拳で粉砕する。すると
【前方に敵影4体。すぐに砲撃が来るよ】
直後、連続で砲撃が放たれる。
私は咄嗟にシキをそばに抱き寄せた後、両腕をクロスし、砲撃を受け止める。
この攻撃の特徴として体勢が不安定な相手を吹き飛ばしたりするには有効ではあるが、私の身体の強度ならダメージは軽度だし、ましてや来ると分かっているならばそう大した脅威にはならない。
そして私は攻撃が止んだ瞬間を狙い、ロケットパンチを発射する。一体の捕獲に成功し、ワイヤーの収縮でこちらに引き寄せる。それから
「フッ……!!」
顔面に膝を入れ、一瞬意識を奪うことに成功する。
そして私は量産品の左腕を確認する。チェーンソーではなく、手甲からソードが出るタイプだった。そのまま刃を出した状態で左手を固定する。
【5秒後に第二射が来るよ】
まずは一瞬で相手との距離を確認、軽く調整をしてからダウンさせた量産品の足を右手で掴む。
「ラァァァァ!!!!」
そのまま片手で持ち上げた量産品ごと勢いをつけ、そのままロケットパンチを発射する……ッ!!
「「「!?」」」
意表を突かれた量産品たちは右手を構えたまま、一瞬硬直する。その一瞬が仇となり、彼女らに私が放った同胞による遠隔攻撃が見事に直撃した。
損傷具合は一人はモロに左刃が突き刺さり、他二人は吹き飛ばされたってところかな?
すかさず私は吹き飛ばされた2体の元へ向かい、チェーンソーでとどめを刺した。
「……ふぅっ……ま、ざっとこんなところk」
「めい!!うしろ!!」
振り返る暇もなく、咄嗟に私は地面に伏せる。先ほどまで私の頭があった場所を、何かが通過する。獲物を失った物体はそのまま壁に衝突し、強烈な破砕音が室内に響いた。
「……なるほド……やはりアナタはここで確実に抹殺するべきですネ」
冷たさの下に、僅かな熱が込められた声が室内に響く。
私にはもうその声が人間のそれとしか思えなかった。
……ていうか、私の気のせいかもしれないけど……なんか声がさっきより大人びてない?
声のした方向に私は振り返る。そこにいたのは
床に着くほど伸ばされた黒髪
白く透き通るような肌に、豊満な胸部
全身のラインがはっきりと見てとれるボディスーツに身を包む
そこには、先ほどより1回り成熟した姿をしたハルがいた。
「あんた……ハルなの?」
「いかにモ。戦闘用に肉体を再構築しましタ」
くっ……!!こいつ、マジで何でもありか……っ!?
こいつはこの工場の施設を全て掌握しているのだから、使える資源もこちらの比ではないのだろう……。しかし、それはそれとして私には一つ解せない部分がある。
「でもあんたさ、戦闘するのに胸をそこまで盛る必要あんの?無いよね?」
「……なるほド、それは嫉妬ですカ?」
おいおい、こいつ私に喧嘩売ってんのか?……あぁでも私はこいつに喧嘩を売りに来たんだったわ。
「は?違うし?別にあんたほどじゃ無いとはいえ、私もそこそこあるし?」
「その程度でシキを満足させられるとでモ?胸の大きさは母性の大きサ……考えが甘いですネ」
「くっ……シキ!あんたはどっちがいいの!?ちなみに過ぎたるは猶及ばざるが如しって言葉が世の中にはあるよ!!」
「めい……このたたかいがおわったらきみにはなしがあるからね」
シキさん、先ほどからご機嫌斜めな様子。
原因は何だ?……え?私?
じゃあ仕方ない。この問題は後で話し合うとして、今は流れを戻そう。
「……やはリ、アナタがたはワタシを討つつもりなのですネ?一体それがなにを意味するのカ……本当に理解をしているのですカ?」
「あー、そうね。たぶんあんたをここで殺しちゃうと、色々人類にとって困ることが起きちゃうんだろうねぇ……」
「でしたラ」
「でもあくまでそれとこれとは別。私はあんたがムカつくから、気に食わないからここでぶっ殺す。分かりやすくていいでしょ?」
これは、私の嘘偽りない気持ちだ。こいつは例え敵でなかったとしても、私の味方になることは絶対にないという確信がある。それに少し気になることもあるし。
「もはや聞く耳を持たないようですネ……愚かナ。ちなみにシキ、アナタはどうでしょウ?アナタモ……ワタシを殺そうとするのですカ?」
「……はる、ぼくはおこっている。きみは……かのじょたちのむくいをうけるべきだ」
「……残念でス」
その言葉が合図となり、戦闘が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます