サイキック×チェーンソー

 脱出は案外すんなりいった。

 改造が済んだ後、ヤツの言う通り壁伝いに移動していたら本当にそれっぽい場所が見つかった。

 おいおい……おじさんと私のあの決死の脱出劇は一体何だったのさ、思い返したら恥ずかしいわ。

 そんなこんなでようやく地上への復帰を果たした私ではあったが、ここで新たな問題が発生した。


 道がわからない


 正確に言えばシキが今いる場所がわからない、だ。

 地上へ復帰したのは、私たちを地下へと叩き落とされた地点……最初に私とレプリカの戦闘が行われた場所であった。

 辺りを見渡してもやはりシキとあのおじさんの姿はない。

 あれからどれだけの時間が経過したのかは分からないが、近くにいないのは確かであると思われる。特に手がかりも無いため、とりあえず私は順路に沿って通路を直進することにした。



 私は全力でダッシュする。

 以前暇な時に3日間くらい全力疾走をしたことがあった。その時は息が切れることもなく、おそらくこのまま走り回っていても疲労を感じることはないんだろうなあとか思った。サイボーグってすごいね。その時は途中で飽きたからやめたけど。

 そのまま長い通路を私は駆ける。

 何だろう……ここの雰囲気はさっきまでと違って見える。

 先ほどまでは、窓ガラス越しに私の量産品の生産過程が見えるようになっていた。そのせいか工場っぽい感じではあったけれど、この一帯は特にそういったわけでもなくただひたすら殺風景に、白く、何もない廊下が続いているだけだった。


「なーんかここ、あそこに似てるなぁ……」


 あそこ、とは私とシキが運命的な出会いを果たした例の廃墟だ。

 あの施設は恐らく研究所的な感じのところだったと思われるが、もしかしてこの工場内にもかつては研究施設が併設されていたのだろうか?

 ……え?工場って物作るだけじゃないの?とか思ってしまう。

 まぁ研究室っぽいっていうのも私の勝手な感想なので、今は考えるだけ無駄な問題かなこれは。

 そんなことを考えつつ、はたから見たら全力疾走に見えるジョギングに勤しんでいたその時だった。


「……!?」


 目の奥が……熱い

 いや、これは

 脳内にある光景が浮かぶ。


 白い床

 壁一面にモニターが敷き詰められた空間

 背後で情けなく狼狽えるおじさん

 そして

 目の前にはたくさんの私の姿


「これ……は……っ!?」


 私はその時確信した。


 


 何故かはわからないし確証もない。

 けどたぶん……いや確実にそうだ。

 私は目を瞑り、意識を目の奥に集中させる。

 残念ながら私に第六感的なサムシングは存在しないけれど、今シキがどこにいるかくらいは手にとるように分かる。

 なぜかって?それは愛だよ愛。

 時間がない。

 このままでは間に合わないかもしれない。


「さっそく……出番かしら?」


 通路に轟音が響く

 砲撃の逆噴射。

 それは、地下でレプリカが見せた技だった。

 あの時は砲撃を弱めることで、自身の崩れた体勢を立て直していた。

 だから今度は威力と対象を絞らず設定した。

 反動による高速移動を始める。


「見えてきた……!!」


 間もなく量産品が取り囲む入り口のようなものが見えてくる。

 方向転換して、もう1発。

 ヤツらの頭上を超え、部屋の中に入るとそこには今にも量産品に襲われそうなシキの姿があった。


 ィィィィイイイインンンンッッッッ!!!!


 左手のチェーンソーを起動する。

 敵は……4体

 私はまず背後からチェーンソーを横凪に一閃し、1体目を仕留める。

 続いて、私の存在に気づいた1体の首を切断する。

 シキに一番近い個体に砲撃を放ち、壁まで吹き飛ばす。

 背後に殺気を感じたので、とりあえず背後に1発砲撃を放つ。……悲鳴?のようなものが聞こえたのでたぶん当たったのだろう。


「……ふぅ……ひとまず、こんなところかな?」


「……めい……」


「遅れてごめんねシキ。とりあえず30分くらいハグしたいところなんだけど……残念ながらそれは後でね」


「うん、そのきかいはないからだいじょうぶだよ。……とにかく、ぶじでよかった」


「ほんっっっっっっっと大変だったわこのおっさんのせいでねっっっっ!!!!」


 私は後方に思いっきりを投げる。


「いっった!?ちょっ、人にものをなげちゃいけませn……てあれ?これボクの工具だ」


「それ、返す」


「まさか君が持ってたとはね。それにその姿は……あぁ、そうか。君は


「……あんたこれを狙ってたわけ?」


「だとしたらどうするんだ?」


「質問を質問で返さないで。……まぁいいや、あいつら倒したら次はあんたの番だから覚悟してね」


「めい!!くるよ!!」


 シキの警告と共に私は視線と意識を敵に合わせる。

 控えていた量産品が再び私たちに向かってくる。

 まず私は敵の左刃による刺突を回避し、すれ違いざまにチェーンソーで胴体を切断する。

 切断された上半身を右手で掴み、次に向かってくる個体に投げつける。相手が怯んだところに砲撃を放ち、諸共吹き飛ばす。


「なるほド……これガ」


 その時、戦場に私の聞き覚えのない少女の声がした。

 声は入口の方から聞こえてきたようだった。


「そう……あんたが」


 私はその方向にロケットパンチを発射する。

 しかし


「させません」


 金属が衝突する音


「……チッ……」


 私の右手が弾かれる。

 少女の前に、量産品が立ちはだかる。


「……あんたがハル?」


「えエ……こうして直にお会いするのは初めてですネ」


「この工場に足を踏み入れてから、ずっとあんたに会いたかった。待ってて……こいつで今すぐその首ぶった斬ってあげる」


「思っていたよりも野蛮ですネ。……ここは任せまス」


「「「「「「はっ」」」」」」


 取り巻きの量産品に声をかけると、ドアの奥にハルの姿が消えていく。


「逃すかっっっっ!!!!」


「めい、まって」


「あ、はい。待ちます」


 一瞬で静止する我が肉体。

 もはやこの身体はシキに操縦されていると言っても過言ではない……いや流石に過言か?


「あのかずにつっこんだらいくらめいでもむきずじゃすまないよ。……とりあえずいまからぼくがいうとおりにうごいて」


「言う通り……?」


 その時だった。


【敵は六体。まず、先頭の2体が突っ込んでくるから、砲撃で足止めして左右から展開してくる個体に備えて。残る2体はロケットパンチによるほぼ同時の遠距離攻撃を仕掛けてくるよ。片方は僕が潰すから、メイは】


「え!?え!?何これ!?なんか、直接、脳内に!!??」


【……続けるよ。訳は後で話すし、時間が無いからよく聞いて】


 なんかよくわからないままシキとの脳内戦略会議が始まった。

 ……え?え?何この子ちょっと目を離した隙に何か色々変わってない?

 ていうか目って言えばシキ……目、生えてない!?

 これって錯覚?それとも幻覚!?!?

 などと混乱している私だったが、シキの言う通り敵がこちらに向かってきたので


「こんの……ッッッッ!!」


 先ほどの忠告通りすかさず砲撃で足止め。直撃こそしなかったものの、まずは正面の2体を怯ませることに成功する。

 その間に両側から私たちを取り囲もうと2体が接近してくる。


「……ガ……ッ……!?」


 私から見て右前方の敵が吹き飛ばされる。

 どうやらシキが手に持ってる銃でやってくれたみたいだ。

 そして、左の前方からはロケットパンチが、側面からは刃を構えた個体が私に近づいてくる。

 私はまず、側面の敵に向けてロケットパンチの要領で右手を伸ばし、首を掴んでそのままこちらに引き寄せる。ちょうどそこに飛んできた敵のロケットパンチに対し、盾がわりにする。

 引き寄せた顔面に見事クリーンヒット

 怯んだ隙に手元の個体をチェーンソーで切断し、まずは1体を無力化。

 一息つく暇もなく、今度はシキをこちらに抱き寄せる。

 砲音が轟く

 私に支えられつつ、右側面の敵にシキはその手に構えた銃で一撃を加える。

 一旦シキを離し、前方に視線を戻す。

 最初に私が足止めしていた2体が、再び接近してきた。


「2体だけなら……っっ!!」


 左刃を出し、こちらに突っ込んできた個体の攻撃を回転しつつ回避、すれ違いざまに胴体をチェーンソーで切断。残る一体の攻撃は私に届く前に、シキの狙撃により妨害され不発に終わる。その隙に上段からチェーンソーで縦に敵を真っ二つにする。

 まだ休む暇はない。

 そのまま私は直進し、最初にシキに狙撃されてダウンした個体にとどめを刺す。

 背後で砲音がした。

 視線をそちらに移し、体勢を崩した個体を強襲し、その首を切断する。


「ラスト……!!」


 シキの方に向かう個体に対し、ロケットパンチを放つ。

 直撃こそしなかったものの、体勢を崩すこと成功する。

 そして


「ごめんね」


 シキの銃による超至近距離からの一撃が炸裂する。

 最後の個体の頭部が消失した。


「終わった……かな?」


「はぁ……そう……みたい……だね」


「シキ?大丈夫?」


「うん……なんとか」


 息も絶え絶えって感じだ。

 まったく……つい最近目覚めたばかりだと言うのに無茶をする。

 けどおかげで助かった。いくら装備を新調したとは言え、無傷で6体もの敵を同時に撃破するのはなかなか厳しい。それも自身と同等のスペックを持つ場合ならなおさらだ。


「そう……あのねシキ。お互い積もる話もいっぱいあると思う。けど一つだけ言わせて欲しいことがあるの」


「……?なに?」


「その眼とっても素敵だと思う。いつかこんな日が来るのかなと思っていたけど、まさかこんなに早くあなたの顔をちゃんと見ることができるだなんて……私は嬉しい」


「うん……そうだね。このめ、しんやさんがつくってくれたんだ。めいとおそろいだよ」


「しんやさん……?って誰だっけ?」


「あぁそれボクだよボク」


「……は?あんたはおじさんでしょ?」


「昔正式名称がオジサンっていう魚がいたけど、ボクはそれじゃないからね。ちゃんと小此木シンヤって名前があるからね」


「……は?小此木?……え、ちょっと待ってもしかしてあんた……あいつの関係者!?」


「タツヤの弟だよ、ボクは。兄がお世話になったね」


「うわぁ……うっそぉ……えぇ……」


「そういえばめいはしんやさんにあったことなかったの?」


「あ〜?ん〜……もしかしたらどこかで会っていたのかもしれないけど……こうしておじさんと話すのはここが初めてだと思う」


「まぁキミの研究はほとんどタツヤしか関与していなかったからねぇ……後は篠原さんくらい?確かにメイくんの言う通りここで初めて会ったと言っても間違いじゃないね。ていうかそんなことより、キミたちこれからどうするんだ?」


「……?どうするって?」


「いや、こうしてキミたちは無事に合流できたし……ハルはどこかに行ってしまったじゃないか。つまり今がここから逃げるチャンスだろう?ここでぐずぐずしている暇はないんじゃないか?」


 あぁそういうことか

 おじさんは(シンヤって呼ぶのは癪なので引き続きおじさんと呼ぶことにする)私たちに覚悟を問うているのだ。

 確かにこのままこの施設を脱出し、他の光の柱の行方を追うのも一つの手ではある。客観的に見ればわざわざ危険に身を投じる必要も無いし、無傷のまま脱出できるに越したことはないだろう。しかし残念ながらもはやそれは出来なくなってしまった。

 だって私はあの地下で彼女と約束したのだ。

 必ずこの施設の主人に報いを受けさせ、この地下に叩き落としてやると

 ……まぁこれはあくまで私個人の事情であり、シキを勝手に巻き込むことは出来ない。ゆえに、ここは彼にも意見を伺わなければならないのだが……。


「めい、ぼくははるのあとをおうけど、めいはどうする?」


 さすがは我が相棒。恐らく理由は違えど気持ちは一つだ。


「私も行く!よーし!!そうと決まればさっそk」


「わかった。しんやさん、あなたは?」


 おっふ

 途中でぶった斬られた……うちの子クール過ぎません?


「流石だなぁキミたちは……申し訳ないが立場上、ボクは直接手を出さない。だからここで見守らせてもらうよ」


「そう……ざんねん。じゃあさいごにひとつだけ、おねがいがあるんだ」


「あー銃のことかな?確かにキミたちの無双のおかげでその辺にいっぱい素材も転がってるし……別にそれくらいなら構わないよ」


「いや、じゅうはもういいんだ。まだいっかいうてるからこれでだいじょうぶ」


「え……いやいや!?それは流石に無謀じゃないか?別に大したことじゃないんだし、それにここで装備を新調しておくに越したことはないだろう?」


「はるとけっちゃくをつけるのは、このいっぱつでじゅうぶんだよ。……それにすこし、いやなよかんがする。できることならなるべくいそいではるをおいたい」


「……そうか、分かったよ。それで頼みたい事って言うのは?」


「いまからいうことは、めいもよくきいておいてほしい」


「……?」


 それから、私とおじさんとシキの作戦会議が始まる。

 どこにハルの監視が届いているかわからない以上、重要な話を聞かれるのはまずいと言うシキの判断で、密着したコソコソ話という形式でここからの作戦が伝えられる。……シキと密着するのはむしろウェルカムなんだけど、おじさんが邪魔だなあと思っていると


「ひゃん!?」


「めい、まじめにきく」


 脇をシキにつねられる。

 やべーびっくりして思わず女の子みたいな声出ちゃったよ。集中集中。


 そうしてシキから伝えられた作戦はなかなかにえげつないものであった。



「ね、ねぇシキ?もしかしてあんた……怒ってる?」


「うん……ぼくはいまとてもおこっているよ。はるはすこしやりすぎた。それに、たぶんかのじょをこのままのぼなしにするとたいへんなことになる……そうだよね?しんやさん」


「あはは……ノーコメントで」


「いや、そこは話してよ。あんたの管轄でしょうが」


「シキくんは全て把握してるから、彼から後で聞きなさい。……言っただろう?ボクは立場上、どちらか一方に肩入れしすぎるわけにはいかないのさ」


「その割にはこの作戦には参加するみたいだけど?」


「ん〜このくらいならギリセーフなんじゃないかな?シキくんも良いとこついてくるなぁって思うよホント」


「とりあえずさくせんはいじょう。じゃあ、しんやさんぼくたちはもういくよ。……あとは、おねがいします」


「ああ!!お安い御用だ!キミたちも気をつけて!」


「言われなくてもそうする。じゃあね、頭皮に気をつけなさい」


「それどこの国の挨拶!?」


 こうして、おじさんを一人モニターまみれの部屋に置き去りにしつつ、私たちはハルの後を追った。


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