小此木シンヤ
世界は闇から始まった。
目覚めてしばらくしてから、どうやら自身が記憶喪失であることに気づいた。
自分は何者で、この先何をすべきなのかわからなかった。
とりあえず歩くことにした。
歩いて、歩いて、歩いて、この世界を見て回った。
無限に広がる荒廃した世界……寂しく、生き物が死に絶えた世界。
……何故だろうか?
そんな世界が、自分には何故だかとても美しく思えた。
その後もひたすら歩く。
不思議と食べ物に飢えることはなかった。
喉も乾くことがなかった。
疲れることもなく、意識が続く限り足を動かし、気絶し、また目を覚まして歩く。
そんな日々を、無限に繰り返した。
それは突然やってきた。
いつものように歩いていた時であった。
荒廃し、時が止まったかのように変化の無い世界……閉ざされた世界に、光が降り注いだ。
その時、ふと思った。
あぁ……ここがボクの旅の終わりなのだと。
一体、何が起きたのか。
シキはしばらくの間、理解ができなかった。
メイの複製品が体勢を崩し、隙ができたところをメイがトドメを刺そうとして、追撃を試みたところまでは理解できている。
だがその瞬間、突如として2人の姿が消えたのだ。
なぜこのようなことが起きたのか?
考えられるその原因は
「どうして……こんな」
その場にいたもう一人の人間……考えられるのは、彼しかいなかった。
「どうして……と、きたか。そいつは簡単さ、邪魔だったからだよ。この先のボクの計画にはね」
そこには、さきほどと変わりない笑顔を浮かべる男の姿があった。
「これからどうするの?」
再びシキは考える。
目の前にいる男の脅威は、一体どのくらいであるのか?
この男はどのような手段を用いたのかはわからないが、一瞬にしてあの2人を消してしまった。
一体メイはどうなったのかということも気になる。
彼女のことだ、そうやすやすとやられたりはしない……と、思いたい。
しかし、もし彼女が今助けが必要なほど追い込まれているとするならば、彼女を助けに行くためにもここで自分もやられてしまうわけにはいかない。
今、自分にできること
それはこの男の真意を探り、メイの無事を確保すること。
「言っただろう?ボクにはこの先やることがあってね……キミにはボクを手伝って欲しいんだ」
「……ぼくをころさないんだ?おじさんはずいぶんと、やさしいんだね」
「へぇ……君は案外冷静なのかと思っていたけど、それなりに感情があったんだね。……いや、取り戻しつつある……と言ったところかな?」
「……なにを」
「もしかして……気づいていないのか?キミが構えているその銃に弾はもう無いよ」
「………!!」
シキは、自身の手元を見る。
彼はその時初めて自身の手が、男から奪った銃の引き金にかかっていることに気づいた。目の前にはメイに危害を加えた男がいる……もしかするとそのことが、彼に冷静さを失わせたのだろうか。
(すこし、おちつこう……)
少年は自身に言い聞かせる。
実際に確認してみるとシキが握っている銃には男の言う通り、もう弾は込められていないようであった。
つまり、残念ながら現時点で少年にできることはもう無い。
「わかったようで何より。とにかく今は時間が惜しい。そろそろ行こうか」
「……わかった。いまは、あなたについていく」
「今は……ね。まぁいいさ、こっちだ。ついてきなさい」
シキは男の後に続く。
できることがない以上、今は彼の言う通りにするしかない。
「なぁ、歩きながらでいいから少し話でもしないか?あんな出会い方をして、ボクらお互いの自己紹介もまだだろう?キミのこと、色々知りたいんだ」
「それはかまわない……けれど、まずはおじさんのことについておしえてほしい」
「人に物を尋ねる時はまず自分から……ね、確かにそうだ。いいよ、何を知りたい?」
「すべて。あなたのなまえから、なにものなのか、そして……いったいなにをかんがえているのか。」
「わかった。目的地までは遠い……少し長くなるかもしれないが、それでも構わないかな?」
シキは無言で頷いた。
不思議な人だ、と少年は思う。
恐らくシキやメイにとって、この男は敵なのだろう。
しかし、今のところこの男が自分に危害を加える気配は微塵もない。
これは本人にその能力……すなわち危害を加えられるほどの戦闘能力がない、ということもあるだろう。
しかし、なんとなくではあるがこの男は自分たちに本気で危害を加えようとしているわけではないのでは……?と、シキは思った。
もちろん先ほどの行動を忘れたわけではなく、今も彼を信用することはできない。
だから、問いただすのだ。
彼が一体何者で、何を考え、そしてこれから何をしようとしているのか。
「……さて、なんせ自己紹介なんて久しぶりだから一体何から話せばいいのやら……そうだなまずは……名前からかな?」
そして男は語る。
「ボクの名前は小此木シンヤ。よろしくね」
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