これで終わり?
気に食わない。
あの女の全てが、気に食わない。
あの女の前ではシキが笑っている。
わたしの前で見せることがなかった笑顔が、そこにはあった。
一体……オリジナルとわたしでは何が違う?
見た目?性格?過ごした時間?
一緒なはずだ……何もかも。
見た目は同じ、性格も同じ、ここまで共に困難を乗り越えてきた記憶も……わたしにはある。
何が……一体……何が……!!
……潰す。
あの女が動けなくなるまで痛めつけ、二度と起き上がれないように、バラバラに引き裂いてやる……!!
そしてわたしが、オリジナルになる。
オリジナルがこちらに向かってくる。
さっきからちょこまかと動き回るせいで、的を絞りづらい……あいつはどうすればこちらがやりにくいのかよく把握している。
だが、最後にこの場に立っているのはわたしの方だ。現状、ヤツの貧弱な武装ではわたしとのスペックの差を埋めるのは困難であり……ましてや覆すことなど到底不可能だ。
……そう、わたしが負けるはずはない。
お互いの距離が縮まる。
数秒後には接触するだろう。
だが、関係ない。
わたしはこのまま、右手を振るうだけだ……!!
チェーンソーの出力をさらに上げる。
わたしは右手を振りかぶり
「わたしの前から……消えて………っ!!!!」
ヤツの顔面に一撃を叩き込む。
次の瞬間、全身に衝撃が走り……気づけばわたしの身体は宙を舞っていた。
「……ぁ………ぇ………?」
間もなく重力に従い、床に叩きつけられる。
一体……何が起きたのかわからない。
さっきまで優位だったのは、間違いなくこちら側であったはずだ。
受け身も取れず、衝撃をモロに受けたせいか身体が動かない。
まずい……早く体勢を立て直さなくては……!!
私は砲撃を避ける。
避けて、避けて、ひたすら避けまくる。
これは、さっきまでの逃避から来る回避では無い。
敵に接近し、打ち倒すために
ただ、ひたすら前に進む……!!
そしていよいよレプリカと接触する時が来た。
右手のチェーンソーが振われる。
「わたしの前から……消えて………っ!!!!」
その瞬間私は手甲から刃を出し、応戦する。
回転する刃がこちらに迫る。
「ッ………!!!」
残念ながら私の貧弱な武装では、ヤツには敵わない……だから、シキの作戦を聞いてから、私は脳内で何度もこの瞬間をシミュレートした。
私はヤツでヤツは私だ
皮肉なことに、そのことがお互いの思考……および行動の予測を可能にしていた。もし、私があいつだったらどうするか?どの角度、どの部位、どの速さでこちらに仕掛けてくるか?完璧ではないけれど、ある程度であれば私には分かる。だから
狙いは一点
「そこ………ッ!!!」
金属片が舞い、快音が響く
「シキッッッ!!!!!!!!」
「よくできました」
続いて砲音が轟き、レプリカの身体が宙を舞う。
「……ぁ………ぇ………?」
作戦は無事成功した。
先ほどシキに告げられたのは
「さきをはじいて」
その一言だった。
……え?それだけ……?と、常人なら思うはずだろう。
だがその発言は、私に言わせればまだまだだねって感じだ。
先を弾く。
この場合、弾く対象はあのチェーンソーしかないだろう。
要はチェーンソーの先端を弾け、とシキは仰っている。
私はあの機械の構造に詳しくは無いので、それが何を意味するのかはわからない。
だが、シキがそう言うのだからそこにはきっと何かある。
なら私にできることは、彼を信じて行動する……ただそれだけだ。
先端を弾く。先端を弾く。先端を弾く。
数秒にも満たない間に、脳内で何度もシミュレートを繰り返す。
失敗は許されない。
私が敗れれば、次はシキがあの刃に切り裂かれる。それは……だめだ。
だから、なんとしても決めなければならなかった。
そしてその時は来た。
目前に迫るチェーンソー
私は、左手の刃を先端に向け振り上げた。
シキは思う。
よくもまぁあれだけ簡潔な指示で……いや、もはや指示とも呼べない一言で、ここまでの結果がだせるものだと。そしてそのことが、彼を奮起させる。
次は自分が彼女の期待に応える番であり、必ずその行動に報いなければならないと。
先ほど、シキが言った「先を弾く」というのは、メイの複製品の装備のチェーンソーに対する攻略手段だ。
チェーンソー
それは、ソーチェーンと呼ばれる小さな刃が付いた鎖を、主にエンジン由来の動力で回転させ、対象を切断する工具だ。
対象となるのは主に木材であるが、中には金属を切断できるものもあるという。それ自体優秀な工具であり、誤った使い方ではあるが、その刃は人に向けられた場合も、相応の威力を発揮する。しかし、そんなチェーンソーにも欠点がある。
それがキックバックという現象だ。
チェーンソーの刃であるソーチェーンは、ガイドバーと呼ばれる先端が円形の金属プレートに装着され、使用される。このガイドバーの先端付近で、対象を切断しようとすると、チェーンソーが使用者向きに急激に跳ね上がり、場合によっては制御が効かなくなる現象……それがキックバックである。
元々、シキはこの知識を持っていなかった。
しかし、彼女の武器を視た瞬間、その特性を把握し、弱点を分析……結果としてそこからこの現象の存在を推定した。シキ自身、そのことを完璧に説明できる自信はなかったが、なんとなく上手くいくという確信があった。
そして、その確信はメイの活躍によって現実となり、ここに大きなチャンスが生まれた。
シキは、先ほど男からひったくった武器を構え、引き金に指をかけた。
照準を定める。
狙いは、ガラ空きになった少女の身体。
砲撃を、放つ。
残念ながら、私の武装はヤツのチェーンソーとの接触により、無残にも破損してしまった。
しかし、その甲斐あってかヤツの体勢を大きく崩すことに成功した。
そしてできた隙にシキがズドンと一発……というわけだ。
さすがにここまで上手く行くとは思っていなかったが、今はそのことを考える余裕はない。あの攻撃をまともに食らったとはいえ、おじさんの手製の武器ではダメージを与えることはできても、完全に無力化することは出来ないみたいだ。
だから
ここは、確実にとどめをさす……!
私は、ヤツが吹き飛ばされた方向に向けて駆ける。
「これで……終わらせる……!!!!」
右手を握りしめ、追撃を仕掛ける。
「……そうだね。これで、終わりだ」
「ぇ……?」
声が聞こえた。
その瞬間、突如として景色が反転し
私は闇に呑まれた。
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