再び襲い掛かるアレ

 は突然に現れた。


 右腕の改造の最中、私たちは脱出口がどこに出現するのかを予想した。

 順当に考えるなら頭上のどこかに出現するはずだ。だから右腕の射程と強度を伸ばすべく、こうしておじさんも頑張っていたのだが……


「ねぇおじさん……」


「……え!?何!今ちょっと手が離せない!!……ってまさか!?」


「あはは……そのまさかですねぇ……」


 天井……と呼べるのかあれは?

 頭上の闇が口を開き、薄暗い光が僅かにさす。


「おじさん!!あとどのくらい!?」


「今すぐ終わらせる!!頭上の様子を逐一教えてくれ!!」


「……!!やばい!!何か落ちてくる!!」


 不良品の廃棄方法は、空いた穴からの自由落下方式という至ってシンプルな方法であった。

 一回の廃棄量はわからないが、下に積まれているアレらを見たらそれが決して少なくはないだろうという予想くらいはできる。

 そんな圧倒的質量をまともに受けてしまえば、か弱い私とうだつの上がらないおじさんなんぞひとたまりもない。


「おじさん!!!???」


「オッケィ!!!終わった!!じゃ!!あとは任せた!!!!」


「任された!!!」


 頭上から落下してくる大量の私に押し潰されそうになっていたので、とっさに左手でおじさんを抱え回避を試みる。


「いいぞ!まずは廃棄が途絶えるまで避け続けるんだ!」


「わかってるよ!!騒がないで!気が散る!!!」


 落下してくる巨大な質量、あれに向かって右手を発射したところで押し潰されて無駄に終わる。だから流れが途絶えるまで回避し、隙を見て頭上からの脱出を試みる!!


「……!!……っ……!!……よし……よ……っと!!」


「良い調子だ!!落下してくる数が減ってきた……そろそろじゃないか!?」


「おじさん!!しっかり掴まって!!…………………行くよ!!!」


 頭上に向けて右手を構える、スイッチに手をかけタイミングを図り……そして

 炸裂する大量のガスの噴射を利用した右腕が天を駆ける。

 向かうは天井、到達まで残り数十メートル。


「よし……このまま……っ……えっ……!!??」


 まずい……!!

 まだ、廃棄物が残っていた。

 このままいくと右腕の軌道上に落下物が重なる!?


「どうした!?」


「途切れたと思ったのにまだ落下してくる個体がいるの!!どうしよう!?」


「ぶつかる直前に発射スイッチをもう一回押すんだ!!それでなんとかなる!」


 え……そんな魔改造してたの?

 そういやさっきチラッと右手みたけど、なんだか修復前と比べてずいぶんと凶悪な形をしていたような……?


「ええい……ままよ!!」


「それ言う人初めて見たなぁ」


「……死ね……!!」


「ごめんやめて置いてかないでほら上を見て!!」


 そろそろ直撃する……その前に

 私はとりあえずおじさんの言う通り発射スイッチを再度押した。すると


「……加速した!?」


「こんなこともあろうかとってね。これで勢いを殺さず、天井に辿り着けるはずだ!!」


 右腕は開いた天井を追い越し、さらに上の空間へ。


「………!!……引っかかった!!」


「よし……!!引っ張り上げてくれ!!」


「っしゃぁぁあ!!!いっくよぉぉぉぉお!!!!」


 一瞬の浮遊感

 そして巻き取られるワイヤーの音と共に、私たちの身体が天へと迎えられる。


「……!!前のよりすごいパワー……!!」


「…………地獄に垂らされた蜘蛛の糸を登る罪人も、こんな気分だったのかな……」


「?……おじさんなんか言った!?」


「何も。舌噛むから気をつけなよ〜。あ、それとね」


「何?」


「収縮のスイッチもう一回押せば加速するよ」


「そういうこと早く言って!?」


「時間なかったし!!ごめんね!!」


 ……しゃーない、教えてもらった通りにワイヤーの収縮を加速させる。思ったより速くなったよこれ


「……なんか前もこんなことあったような……」


「……え?何!?お嬢さんなんか言った!?」


「……聞きたいことがあるんだけどおじさんさ、この後の展開考えてた?」


「え〜と……とりあえず天井抜けるだろ?それで……それで?あれ?そういやキミの右手今どこあんの?」


「……分かんね」


「……じゃあ……で……出たとこ勝負で……?」


「あ……?」


「ハハッ……」


「あぁぁぁぁぁぁあ!!!まさか!!??このパターンってぇぇぇぇぇえ!!!!!?????」


 天井を抜けた後も私たちの身体はそれでも上昇し続けた。 

 そのまま薄暗い空間を脱出し、ぐんぐん高度を上昇させる。


「お、おいおいおい!!!これどこまで行くんだ!!??」


「あんたが馬鹿みたいに出力魔改造するからこうなってるんでしょうが!!!!」


「へ、へへ……えへえへ……ここは連帯責任ってことでぇ……」


「いやぁぁぁぁぁぁあ!!!!またスカイダイビングさせられりゅぅぅぅう!!!!」


 勢いをつけすぎた私たちの身体は、そのまま空中に投げ出される。

 ……投げ出されすぎてこの工業地帯を見渡せるくらいの高さに達していた。


「うわぁおそらきれい」


「お嬢さんしっかりして!?空じゃなくて現実見て!?」


 無理だった。

 いや高いとこ苦手だって言ったじゃん前回。

 しかも今回は高度もパワーアップした強くてニューゲーム状態だ。……おかしい、果たしていつになったら私TUEEEEできるのか。

 この世界の運営難易度調整ミスってない?

 なんか私に対して当たり強くない?


 などと0.5秒くらい脳内で一通り弱音を吐いてから、諦めて思考を切り替えることにした。人間諦めと切り替えが大事。

 上昇のスピードが緩やかになってきたことで、私は嫌でも察してしまう。

 このまま行くと空中で静止し、が襲ってくる。

 そう、アレ。

 木からリンゴ落ちてきたの見てたまたま閃いた人が発見したアレ。


「おじさんちなみに落下の対策とかは……?」


「…………」


「なんか喋って!?」


「そういやスカイダイビングの死亡率って15万人に1人らしいよ」


「それ今言う!!??」


 上昇が止まり一瞬、身体が静止する。


 空中で無防備な私たちに重力アレが牙を剥く。

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