私の目覚め

 私はあまり夢を見ない。

 夢の正体は諸説あるとされているけれど、その中でも人は眠っている間に記憶の整理をしている……というのが有名だ。

 私の場合、病院のベッドの上で毎日代わり映えのしない日常だったためなのか、気づいたら夢を見ることは無くなった。

 そして今回も

 目覚めは唐突にやってくる



「……あるぇ……?」


 目を開ける。

 私が最初に見たのは薄暗い闇

 トンネルを抜けたらそこは雪国どころか闇の国、お先は真っ暗だった。

 おかしい……ついに私は目も逝ったのか……?

 と、思っていたものの徐々に夜目がきいてきたおかげなのか、少なくとも自身の姿は見えるようになってきた。

 それから詳しい状況を把握するため、右手を使って身体を起こそうとする。


「……あれ?」


 右手……直ってないじゃん……

 そこには列車に乗ってた時と変わらぬボロボロの我がライトアームが

 妙だな……?新品にしてくれるってあのキツネさん言ってたよ。

 ……え?騙された?

 野郎あのキツネ次会ったらぶっ殺してやる……!!

 と、某猫型ロボットよろしく殺意を新たにする。

 右手以外を確認してみると


「てかむしろ……なんか前より汚れてない……?」


 暗がりで少しわかりにくかったけれど、なんだか埃やら砂?やらで身体が妙にざらついている。

 そして立ち上がってから気づいたのだが……なぜか足場が不安定だ。

 いったい私は何の上に立っている……?

 左手で足場を探る。何かを掴んで、引っ張り上げる……それは


「人の……腕?」


 感触は人肌というよりは陶器に近かったが、その形状は人の腕……そして指先からそれが右手であると分かった。

 もしかしてこれが私の右腕の代わり……?とか一瞬思ったりもしたのだが、どうやらそれも違うみたいだった。

 さらに右手を持ち上げるとそこには腕の持ち主がつながっており、そこで


 私とよく似た姿のと目が合った。


「はぇ〜よくできてるなぁこれ」


 私は拾い上げたそれを観察する。

 ……姿形は完璧に私と同じ。

 服……?もちろん着てるよ私はね。

 やだなぁ人を痴女扱いしてくれちゃって。

 流石に人類滅んでようがエチケットは守りますよ。だって女の子なんだもん⭐︎

 ……あ、今年齢のこと言及しようとしたやつ、もれなく死刑だから。


 では気を取り直して

 私が拾い上げたそれは、まさに生まれたままの姿だった……そして右足だけ欠けている。

 あたりを見回りしてみる。

 そこに見えるのは広範囲に及ぶ不安定な足場

 そしてその地層を形成しているのはもしかして


「無数の私……か」


 ここがどこかはわからないが……今いる状況は大体把握できた。

 どうやらは何者かによってこの巨大な空間に廃棄されたらしい。

 この大量に廃棄された私そっくりの物体が何故、どこで、どのようにして作られたのかは分からない……が、当面の目的は決まった。

 まずは一刻も早くここから脱出する。




「シィィィィィキィィィィィイくぅぅぅぅぅんんんんんんんんん!!!!!!!!」


 私はありったけの声量を解き放つ。

 離れ離れになってしまった相棒を探すために。


「………………ぃ…………」


 ……?


「………………ぉぉ………ぃ……」


 耳をすませば

 なぁんか聞こえたような……?

 うーん、気のせいかしらん?


「………………ぁぁぁああ…………」


 ……いるわ。誰かいるわやっぱり。

 聞こえていた声色から残念ながらそれがショタ的なボイスではなく、なんだかそろそろ加齢臭のしそうなであることが推測できた。


「誰かぁぁぁぁ……いるのぉぉぉぉぉお!????」


 だんだん近づいてきてるわこれ。

 さて一体どんなのがでてくるのか


 人がいる。


 今までの経験上、その事実は否が応でも私に不安を抱かせる。

 列車で遭遇した白い女、あの化け物じみたヤツでも生物学上はギリギリ人間であった。

 そしてあの光の柱の出現後に遭遇した人間は、やはりどこか不自然であると言えた。

 ……もちろん全ての人間がおかしいとは断言できない。しかし、やはり警戒はすべきだ。


 影が動いた。

 そして



「いやぁ良かったよかった!!まさか人がいるとか思ってなくてさぁ……まさかキミがこんなゴミ溜めにくるとはねぇ。災難だったな。もう心配はいらない……と言ってあげたいところだったんだけど、残念ながらボクもこっからどう出ていいかわっかんないんだよねぇ!!あははははは!!!」


「うるせぇ」


「ぐへぇぁ!!??」


 おっと、邂逅一番見知らぬオッサンのマシンガントークがウザくてつい反射的に手が出てしまった。

 いけないいけない……私はこう見えて淑女なのだ。

 反省反省。


「うっ……げほっ……ぅぅ……ひどいじゃないか!?いきなりグーパンとか!怖いわ〜最近の若者怖いわ〜」


「殴りやすい顔があったからつい」


「ついで殴っちゃうの?これが若者の人間離れってやつなの??」


「おじさんなんて肉離れ起こして苦しめばいいのに……」


「キミは何で初見のおじさんに、そこまで辛辣になれるの?あと肉離れ舐めないでねアレほんと痛いからね」


 まともに会話が通じる相手が久々だったので、つい会話が弾んでしまう。しかし、今は偏差値が低い会話をしている場合じゃない。無駄話はここまでにしよう。


「……で、おじさん何者?どうやらただの不審者じゃあないみたいだけど」


「ただの不審者ってなんだか不思議な言葉だよな……って、これじゃあ話が進まないな。すまない、話を脱線させるのはボクの悪い癖でね」


「………」


「で、ボクが何者かって話なんだけど……申し訳ないんだが、その質問には答えられない」


「それは……なぜ?」


 よし、返答次第ではぶっ殺すかと左手の調子を確かめる。


「包丁以外の刃物を持つべきじゃないよ。女の子ならね」


「……!!」


 こいつ……気づいて


「何でわかるかって?……まぁこれに関しては実はボクにもよくわかっていない」


「……は?ふざけてんの?」


「ボクさ、実はここに落ちてくるまでの記憶がないんだよ」


「……ふぅん?」


「けど知識はある。こう見えておじさん、機械にはけっこう強かったりする」


 ……なるほど、まぁ今の私は右手は破壊されて中身が剥き出しになってるし、左手の方も知識を持つ人間が見ればわかる……のか?

 欲しいと思っていたところに、必要な人材が降って来た。

 ……これまた私にとって、都合の良い展開となってしまった気がする。

 なんだか誰かの思惑に乗せられているみたいで、あまり気分は良くない……が、ここは大人しく乗せられてやるとする。


「じゃあおじさんさぁ」


 左手を使い足場を造るの一つを取り出しながら


「私の右手、直してよ」


 脱出のため、まずはあの右手を取り戻す。

 考えても仕方ない。使えるものは何でも使わせてもらうとしよう。




「……これで……良いかな。いやぁすっごいねぇ〜見事にぴったりだよ!」


 暗闇の中、おじさんの楽しそうな声だけが響いている。


「そりゃどーも」


 世の中テンションの高いおじさんほど、めんどくさい生き物はいないと思う。この1000年でその生き物も絶滅したかなと思っていたが、どうやらここに生き残りがいたようだ。


「……にしてもおじさん、この辺暗くて見づらいのによく直せたよね」


「いくつか理由はあるよ。まずボクは夜目がきくので、この程度の暗がりは何の障害にもならない。……そしてキミの腕、手首から前腕部にかけての損傷はそれはひどいもんだったが肩関節は無傷だった。ここを丸ごと取り外せばパーツの交換はそう難しくはない、特に今回のようにがあればね」


「器具も持ってたよね?機械工学の知識と技術もあるみたいだし……やっぱりおじさんはこの工場の関係者だったんじゃない?」


「……ま、普通に考えたらそうだよな。問題は何で記憶がないのか、そして以前のボクは何やってたのかってところか……その辺は今考えても仕方ない。それより、今やるべきは」


「ここからの脱出」


「その通り」


「なんか脱出のアイデアとかないわけ?元関係者なんでしょ?しごとして、やくめでしょ」


「う〜んこのクソガキ……まぁ、無くはない……かな」


「へぇ……その心は?」


「……まず、ボクたちは何者かにここに捨てられた、と考えるべきだ。それはここにいる大量のキミらを見ればわかるな?」


「まぁ……そうね」


「で、あるならばどこかに排気孔が存在するはずだ。それもこの数を捨てれるほど巨大なものがね」


「……でも、そんなものどこにもないよ?」


「う〜ん……恐らく一定の期間、もしくはなんらかの条件を満たすと出現するんだろう。きっと今はその時じゃあないんだ。だから、まずはこれからの段取りを確認しよう」


「段取り?」


「そうだ。基本として、次に脱出口が出現した時こそ我々がここから脱出する最後のチャンスと考えるべきだ」


「……と、言うと?」


「ここに廃棄されているのは、工場で生産された不良品だ。上のフロアの生産過程で発生した不良品が一定数溜まると、廃棄孔を通してこの施設へと運ばれる。……ここで問題となるのは、果たしてキミたちの大量生産をこの工場はいつまで行うのか?と言うことだ。もし、もしもだ……規定の生産数に達し、生産ラインが停止してしまった場合……どうなると思う?」


「不良品は作られなくなるね」


「そうだな。だから、そうなると」


「廃棄孔は2度と開かれず、私たちは脱出できない」


「それだけならまだマシかもな。もし、ボクが工場長だったらこれだけの不良品をそのままにはしない……言ってる意味はわかるかな?」


「ま、なんらかの形で処分する……か。なるほど、大体状況は飲み込めたよ。要は次の機会に失敗しないようにちゃんと計画を立ててからいきましょうねって感じか」


「そういうこと、そしてそのためにはこれから時間内にキミをどれだけ改造できるかにかかっている」


「……え?さっきの右手直しただけじゃあまだ足りないわけ???」


「さっき直した時ざっと性能を確認したけど……君のオハコのギミックはロケットパンチ的なやつだろ?確かに脱出には最適なんだが……」


「じゃあ!」


「話は最後まで聞きなよ。射程と強度が明らかに足りてないんだ、今のままだとな。だから、ここにあるもの使えるだけ使って、ギリギリまでキミを強化する」


「脱出口はいつ開くかわからない……果たしてそれまでに私の改造が間に合うのか、一か八かって感じだね」


「結局のところここまでもほとんど推論と勘で構築した段取りだしなぁ……結局最後を決めるのはぶっちゃけ運だね運」


「ちなみに私は運が悪い方だよ。おみくじとか末吉以外見たことない」


「ねぇキミは何でこのタイミングでそんな不安になること言っちゃうの……?まぁ絶対何とかする……とは言えないが、やれることはやるさ」


「じゃあ任せた。時間もないし……さっそく始めてよ」


「任された」

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