1人じゃダメでも2人なら

 身体が軋む。

 思っていたより今までのダメージが蓄積していたらしい。

 なんだか、体の動きが鈍い気がする。


 足音が近づいてくる。


 まずい、追撃が来る。迎撃しなきゃ

 床に伏せたまま左手を確認する。


 突然だが解説しよう!

 私の左手は人間で言う外側の手根関節の部分から刃が出るように改造が施されている。

 さっきは左手の刃を出した状態でヤツの心臓目掛けて突き刺そうとした結果、いつの間にか握られていた鉈によって防がれてしまったのだ……。

 んだよあの反応速度あんなん無理ゲーじゃん……!!と、言いたくなったが嘆いても仕方ないので今は切り替えよう。

 幸い左手の武器は今も健在だ。

 傷ついた身体のことを考慮してもあと1回くらいの戦闘は大丈夫だろう。

 問題はヤツ相手に無策のまま再度突撃しなければならないということなのだが……まぁ、このまま何もしないで殺されるのはごめんだ。

 とりあえずやれることはやってやろう。


 目の前に誰かの気配がある。

 よーし!じゃあはりきっていってみよう!!!


「死ねぇ!!!!!!!!」


 死んだふりからの二度目の奇襲

 ……が、そこにあったのは


「……しね……?」


 過去最高に私に対してドン引きしている少年の姿があった。その顔はまるで

(なんなんこいつ急に死ねとか……心配して損したわマジで)

 とでも言いたげだった。



「すいませんでしたそんなつもりはなかったんです少年じゃなくてあの女を殺るつもりだったんですマジであははー嫌だなぁ私と少年の仲じゃないですかホント冗談キツいっすよやめてやめてやめてその目やめて本当に悪かったと思っています申し訳ありませんでした今後二度とこのようなことは起こらないようにいたしますので何卒私めに今一度のチャンスをお与えくださいませ」


 私は少年相手に全力の土下座をかましていた。

 私の頭はなんて軽いのだろう。

 死にたい……

 穴があったら侵入して引きこもりたい。

 でもSっ気がある少年もいいな……

 才能あるよ、きっと。


「めい」


「ハィィィィイ!!??」


 つい声が裏返ってしまう。

 ……ヤバい、ついにコンビ解消か?

 やめてこれ以上私のモチベ下げないで!!

 お願いします!!何でもしますから!!!!


「ぶじでよかった」


「え?」


「でもこのままだとあいつにはかてない。だから、ぼくらはせんたくするひつようがある」


「……選択?」


「ひとつはここにのこって、かちめのないたたかいをいどむ、もうひとつは……」


「……まさか」


「ぼくひとりがのこる。れっしゃはまだそうこうちゅうだけれど、めいひとりならがんばればとびおりれるはずだ。だから」


「却下」


「!?……でも」


「どうしたの?少年らしくないじゃん。馬鹿な私でも浮かぶ選択肢がもう一個あるよ」


「……?」


「2人であの女やっつけるんだよ」


「むりだよ」


「無理じゃない。君が作戦考えて、私が実行してあの女を倒す……ね?簡単でしょ?」


「はぁ……かんたんにいってくれるなぁ」


「ところであの女はどこ行ったの?」


「せんとうのほう……たぶん、きかんしつだ」


「きかんしつ?」


「このれっしゃの、うんてんしゅがいるところ。」


「へぇ……何でそんなところに?」


「たぶん……ぺんぎんたちをころしにいったのだとおもう」


「どうやら私がのびちゃってる間に、少年はずいぶんと頑張ってくれたみたいだね。でもそうなるともしかしてこの列車って……やばい?」


 どこかで音がした。

 そして


「なんか……焦げ臭くない?」


「……っ!!めい!!ふせてっ!!!!」


 轟音


 咄嗟に少年を庇いながら床に伏せる。

 その頭上を爆風が駆け抜けた。


「あああああぁあやばいってやばいってこれぇぇえ!!!!」


「くちをとじる!!はいがやられるよ!!」


 なんだろう……私の方がお姉さんのはずなのに、さっきから少年の年上ムーブが止まらない。

 頭上を爆風が吹き抜けていているはずなのに、私の口を塞ぐ少年の手の方がなんだか熱い気がした。

 ……自分で言っててやべぇやつだよな私

 もうまぢむり自重しよ。

 そんな感じで脳内を無駄な思考で埋めることにより半ば現実逃避を果たしていた私であったが、残念ながらそろそろ現実に帰還する時が来たようだった。


 室内は黒い煙で満ち溢れている。


「あは」


 闇が


「うふ」


 這い出る


 


 笑っている。

 破顔わらっている微笑わらっているわらっている。

 炎の中に鬼がいる。

 あれだけの爆発……そして燃え盛る炎の中にいてなお、彼女は無傷でありその微笑みを崩さない。

 何故か、などと問うつもりはない。

 私が思うにあれは……


「……うぐ、めい……くるしい」


 おっと、そういえば少年を下敷きにしたままだった。

 この爆風、そして煙と熱の中で少年の安否が心配だったがなんとか持ち堪えてるようだ。しかし、このままだと危ないことには変わりないだろう……一刻も早くこの怪物を倒し列車から脱出する必要がある。

 経緯はわからないが機関室の破壊により、列車が一時的に停止している。

 そのため、今なら列車からの脱出だけであればそう難しいことではない。

 しかし目の前の脅威は、黙ってここから私たちを逃してくれるほど甘くはないだろう。

 どの道取れる選択肢は一つしかない。


「まずはアンタを倒して、私たちは生きる!!!」


 ここで終わらせる。

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