既知との遭遇 1人目

「私の名前は堀内、といいます。そちらは?」


「私の名前はメイ、こっちの少年は……名前はまだありません」


「……なるほど、失礼ですが私は最初お2人をご兄弟なのかと思っていました……しかし、何か事情がおありのようですね」


「残念ながら……本当残念ながら」


「そ、そうでしたか」


「堀内さんはお1人で旅をしているんですか?」


「……旅……ふふふ……確かに、そうですね」


「……?」


「失礼しました。お気になさらず」


「あのう……良ければなんですけど」


「……はい、なんでしょうか?」


「堀内さんのことについて、色々お聞きしてもいいですか?」


「……ええ、構いませんよ」


「ありがとうございます。……さっそくですけど、この列車にはいつから乗っているんですか?私たちの前には既に乗車していたのだとは思いますが……」


「実は……あまりよく覚えていないんですよ」


「……と、いいますと?」


「ええ、この列車に乗る直前の記憶では私は病院で寝ていたはずなのです」


「……では気づいたらここに、という感じですかね?」


「その表現でよろしいと思います」


「なんだかお話というよりは尋問みたいになってしまい申し訳ないですね」


「ふふふ、確かにまるで刑事ドラマのようですね。他に刑事さんはなにが聞きたいのですか?」


「あはは……では失礼を承知でお伺いしますが、その……左腕はどちらで失くされたのでしょうか?」


「それは……ずいぶんと昔の話になりますね。私はこう見えて従軍経験がありまして……情けないことにそこで失いました」


「情けないだなんてそんな……ありがとうございます。どうしてもお聞きしたかったもので」


「いえいえ……しかし見たところあなたも右腕を失っているご様子ですね。わけをお聞きしても?」


「あー……私の場合は少々特殊で、そもそも人間と呼べるかすら怪しいんですよ」


「……ほう」


「わけあって全身機械仕掛け、わかりやすく言えばサイボーグなんですよ私」


「なんと……最初は義手なのかと思いましたが確かにその右腕を見れば……しかし、少し見ただけでは可愛らしいお嬢さんにしか見えませんな」


「あらあら堀内さんはお上手ですね。きっと若い頃はさぞ周りの女性が放っておかなかったでしょう」


「ふふふ……そんなことはございません。私は最後まで妻一筋でしたよ」


「お仕事は何をなさっていたのでしょうか?やはり……軍人さんですかね?」


「いいえ、軍の方は一時的に徴兵されていただけでしたので……戦争が終わってからはしがない呉服店を営んでいました」


「呉服店って……お洋服屋さんみたいな感じですか?」


「ええ、その認識で大丈夫ですよ。ただ、業績が上がってからは洋服以外も幅広く取り扱っていましたので、百貨店という呼称の方が正しいのかもしれませんね」


「へぇ〜そうなんですね……すみません無知なもので」


「いえいえ、構いませんよ。それにあなた方若者は我々老人も知らないことを数多く知っていると思います。少しわからないことがあったからといって、それは決して無知などではありませんよ」


「えへへ、そうですかね?」


「そうですよ。それにわからないことはこれからわかるようにすればいいのです。何事においても遅すぎるということは無いと思います。このジジイならまだしも特にあなたたちのような未来がある若者ならまさしくそうだと思います」


「何事にも、遅すぎるということはない……」


「ええ、そうですね。色々と遠回りをしてきましたが……この歳になって結局最後に得た答えはそれでしたね」


「……あの、私にも見つかるでしょうか?人生の答え」


「それは……わかりません。ただ、人生に意味はない……と私は思います。意味は与えるのではなく己で見出すもの、そして答えもそうです。もしかしたら死んでも見つからないかもしれませんが……誰かに与えられた答えではなく、自身で見つけた答えだとしたら、きっとそれがあなたの人生の答えとなるのではないでしょうか?」


「…………」


「ふふふ、すみません……年甲斐もなく少しはしゃいでしまいましたね。やはり若者とお話をするのはいくつになっても有意義で楽しいものですから」


「いいえ、私も楽しかったです」


「そうでしょうか?それなら何よりです」


「最後に1つ、お聞きしてよろしいでしょうか?」


「なんなりと」


「……自分の人生に、後悔はありませんか?」


「ふ……ふは……ふふ……ふははははははははは……!!!」


「……!!??……?」


「……はは……はぁ……失礼失礼……そうですな……」


「……はい」



「………」


「死は……突然訪れます。誰しもが当たり前に明日を迎えられるというわけではありません。そして、どんなに後悔しないよう生きていったとしてもそれを無くすことはできません。それに……」


「……?」


「退屈……でしょうね、そのような人生は。もし仮に後悔しない人生……というものを送ることができたなら、そこには苦しみも悲しみも無いのでしょう……とても楽で、順風満帆な人生が送れるとは思います。……しかし果たしてそこに喜びはあるのでしょうか?」


「それは……」


「ふふ……色々語ってはみましたが……結局のところ後悔は死ぬまですると思います。ただ、私から言えることはどうか恐れないでほしい、ということです」


「恐れない……とは」


「もうわかっているはずですよ。あなたには」


「……愚問でしたね」


「……なんだか湿っぽい話になってしまいましたね。私の話ばかりでは退屈でしょうから、良ければあなたのことも教えてもらえませんか?なに、まだまだ時間はあります。老い先短いこのジジイめにあなたから見たこの世界の話を聞かせてくれませんか?」


「……あ……はい。えっと……そうですね。じゃあ」


 そうして、私と堀内さんはお互いのことを語ったのであった。それは彼にとっての目的地に到着するまで続き、そして………



「メイさん……ありがとうございました。あなたのおかげで楽しい旅になりました」


「わたしこそ楽しかったです。……またどこかで」


「ええ、後はお願いします」


 それがどんな意味を持つ一言だったのかこの時の私にはわからなかった。



 列車の旅は続く

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