[回想]1000年前の私へ①

 あーあ

 人類滅びないかなー


 日々得体の知れない何かに追われ続け、インターネットやSNSの普及により他人との距離が近づく一方、それが原因で他人と自分との比較が容易になってしまう結果、自身の矮小さを実感してしまったり、職場に行けばやりたくもない仕事を押し付けられ、下げたくもない頭を下げる羽目になったり、どんなにたくさん頑張っていても何の成果も得られずその過程を誰にも評価してもらえない時……などなどそんな時にふと思ったりはしないだろうか?ちなみに私は常に思ってる。

 ……と、ここまで偉そうに語ってはみたものの先に述べたような体験を残念ながら私はほとんどしたことがない。ではどの口がほざくんだ?と言われてしまうと

 ははは……小娘が生意気にすいませんでした……

 という乾いた笑いと卑屈な謝罪しか出てこない。

 そりゃあ私だって学校通って色々したかったさ、就職していっぱいお金稼いで両親に恩返しとかしたかったさ。

しかし、私が生まれて十数年生きてきて得られたものは何もなかった。


 真っ白な部屋とそこに繋がれた無数のコード


 それが私に見える世界の全てだった。

 ちなみに窓とかもないので外も見れない。

 今日も私はコードに繋がれ、機械の棺で惰眠を貪り、何もない虚空を見つめ続ける。

 いったい私が何歳で、今日が何月何日で、今が何時何分なのか気を抜くとすぐ忘れてしまうのだ。だって私にとっては毎日が日曜日なのだから。

 ちっとも嬉しくない人生の連休だった。


 私は病気だ。それも難治性の。


 それはある日突然始まった。

 最初はふとした時に指先が動かなくなった。しばらく放置しているとすぐに治ったのでその時は特に気にしなかった。

 次第に動かない時間の方が長くなっていった。

 そしてさほど時間をかけず私の四肢は動かなくなってしまった。私の手足は生きている、だが決して動くことは無かった。

 そして今、私は寝たきりの状態で天井を見つめている。

 今はまだ自力で生命維持くらいはできるが、医師の話によるとたとえどれだけ手を尽くしても、いずれは自発的に呼吸もできなくなるようになるらしい。ただでさえ生ける屍状態の私にとってその情報は死体蹴りにも程がある。

 そんな感じで今日も自身の不幸を嘆く悲劇のヒロインごっこを脳内でしていた時だった。


 ドアが開き、誰かが入ってくる気配がした。


 ……看護師さんかな?

 確かにそろそろ床ずれも気になってきたし色々とお世話してもらいたいなーと思っていた頃である。

 にしても仕事とはいえ毎日毎日動かない人間を世話するのも大変だよなぁ……自分のことなのに他人事のように思う。


「こんにちはメイちゃん。今日もお世話させていただきますね。……ただ、その前に少し紹介したい人がいるの」


 澄んだ音色が何もない部屋を満たす。声優さんみたいないい声をしているこの看護師は篠原さんといい、ここに入院してからずっと私の世話をしてくれている。美人で親しみやすく、私のような根暗にも根気よく接してくれるとても良い人だ。このお世話の時間は私が生きていると感じられる数少ない機会なので、向こうには迷惑をかけて申し訳ないのだが実は密かに楽しみにしていたりする。

 というか会わせたい人……?

 自慢ではないが寝たきりになる前でも私の交友関係は狭く、友達もほぼいなかった。そのため面会なんてこれまでほとんどなかったのだ。それが今になって……そしてこんな私に?数少ない記憶を必死に探ってみたものの、心当たりは全くなかった。


「では先生、どうぞ」


 篠原さんに促され、先生と呼ばれた人物が部屋に入ってきた。

 白衣を着た長身の男だった。

 

「初めましてだな。オレの名前はオコノギタツヤ」


ろくにセットもしていないボサボサの髪、強い度が入ってそうな黒縁眼鏡の人影が、私に告げる。


「君に、未来を与えにきた」


この時彼の口から放たれた一言から私は数奇な運命を辿ることとなる。


 1000年前の私へ② につづく

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