第41話運命の反転
ラ・ドーフィネ号を命中弾が襲う。
「あっ」
ルイーズが声を上げる間もなく、飛び込んできた敵弾が甲板を貫通した。
伏せていた船員が穴を確認して船長のオスカルに向かって叫ぶ。
「敵弾、抜けました!!」
これにオスカルは安堵の息を吐いた。
「ボロ船の婆さんで助かったな」
「老嬢にそんなことを言ってはいけませんぜ!」
クルーの一人が緊張をほぐそうとしてお道化て見せる。
「違いない」
苦笑を浮かべてオスカルが返したが、砲撃戦は続いている。
気を取り直して次の一斉射を命じた。
直後、別のポルトガル船から火の手が上がる。
しかし、それもこれもただの焼け石に水、ラ・ドーフィネ号が沈む運命は目前だった。
「くっ、ここまでか……」
ルイーズ・ド・モンモランシーは死を覚悟する。
この船は、本来の歴史の流れであればこの海で沈められ、乗組員は全員死ぬ運命にあった。
しかし、歴史の流れに紛れ込んだ異物がその運命を捻じ曲げる。
それが主人公、
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舳先(へさき)に立って前方を見ていた朱儁(しゅしゅん)が声を上げた。
「いくさだ! この先で南蛮船同士がやり合っている!!」
この声に俺はすぐさま反応して駆け寄った。
見れば確かに南蛮船同士で砲を撃ち合っている。
「この辺りはスペイン、ポルトガルの勢力圏のはず。
ということは、やり合っている相手はイングランドか?」
イングランドであれば白地に赤十字のはずだ。
そう思って見てみたものの、それらしい旗は見当たらない。
煙で燻っているのも含めて八隻はポルトガル船だが、包囲されている一隻はどこの船だ?
そうやって見ていると、国籍不明の一隻に命中弾があった。
幸いなことに、砲弾は甲板から舷側に突き抜けて海に落ちたようだが、このままではジリ貧だろう。
……さて、どうするか。
俺たちの目的はポルトガル船の奪取だ。
そのために海域の下調べに出てきているわけで、目の前で行われている海戦はこちらのビジネスとは関係がない。
でも、しかし、気になるんだよな。
青地に金色の三つ又剣ってどこの国旗だっけ?
敵がポルトガル船団なんだから助けてしまってこれからのためにコネを作るべきか……
……う~ん。
そうして考えているうちにポルトガル船が接舷して戦闘が始まってしまったようだ。
よし、助けるか。
俺はお市共々透明化の魔法を掛けて空を飛ぶことにした。
「ひゃっ」
「だまれ」
いきなり後ろから抱きかかえられたお市は悲鳴を上げかけるが、俺の一言で黙った。
俺はそのまま甲板上の野次馬に紛れて物陰から空に飛ぶ。
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ポルトガル船が接舷して渡し板をラ・ドーフィネ号との間にかける。
板の向こうから喚声を上げて敵兵が押し寄せてきた。
ドーフィネ号からの銃火を受けて数人が海に落ちるが、後続が続く。
「戦闘用意!!」
オスカルの号令の下、全員が抜剣する。
ルイーズもレイピアを抜いて構えた。
白兵戦闘に突入する。
接舷戦闘はこの時代の華だ。
目の前の敵と斬り結んで倒す。
聖墳墓騎士団の元騎士であるルイーズも突きからの斬撃を巧みに操って敵と対峙した。
はっきり言って練度はこちらの方が上である。
何しろポルトガルは総人口百万しかないのにあっちの海、こっちの海と手を広げ過ぎた。
おかげで人材の供給が枯渇している。
質が伴っていないのを理由に、頭数を揃えて人数で押そうとするからますます人材が枯渇気味となる。
ポルトガルは自覚の無いまま、すでに凋落の淵に立っていた。
反対の舷にも渡し板が掛けられる。
左右両側から攻め込まれてドーフィネ号の命運が尽きるのは時間の問題だった。
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「まずいな」
俺はつぶやいた。
攻め手は最初右舷のみだったが、今度は左舷にも接舷された。
片舷のみの間はなんとか押し返していたが、左右から挟まれて徐々に動きが鈍ってきている。
ポルトガル船の死傷者は多いがそれを無視しての力攻めとなっていた。
一体、どこの船が攻められているのだろう?
そう思って甲板上を観察してみると、金髪の割合が多いのに気づいた。
所々に赤毛のやつも見える。
そこから察するにスペインポルトガルの内輪揉めではなさそうだ。
俺は甲板上に降り立つと、背後からピンクブロンドの女に襲い掛かろうとしているポルトガル兵を蹴り飛ばして海に落とした。
その音でピンクブロンドの女が振り向いて、俺にレイピアを向ける。
「アントワーヌ!」
背後から誰かが目の前の女に声を掛けた。
フランス語だ!
とっさに俺は現代フランス語で女に話しかける。
「多勢に無勢と見たゆえ、助太刀いたす」
俺の声にピンクブロンドの女は目を見開いた。
「あ、ああ。すまない。恩に着る」
「細かいことはどうでもいい。今は敵を倒すのが先だ」
「あ、ああ」
俺が告げるとアントワーヌと呼ばれた女も同意して敵に剣を向ける。
お市はというと自分に襲い掛かろうとしてくる敵に向かってツーハンデッドソードを振り回して突撃するところだ。
彼女とアントワーヌにバフを掛けると俺は甲板上の敵を掃討して、接舷した敵船に乗り移る。
やるのはポルトガル船を相手に義経の八艘飛びだ。
走りながら黒騎士に変身して敵の銃火をまともに浴びながら、平然と弾幕を突き抜ける。
そしてそのまま剣を振り回して薙ぎ倒す。
甲板上の敵を一掃して船倉を覗き込む。
奴隷が居た。
「ひえっ、お慈悲を」
「なんまんだぶなんまんだぶ……」
俺の姿を見た奴隷たちが日本語で悲鳴を上げる。
それを見て俺はヘルメットを解除して声を掛けた。
「助けに来たぞ」
湧き上がる歓声。
「ほかの船にも連れてこられた日本人はいるか?」
「全部だ。全部の船に乗せられてる」
「わかった。あとでもう一度来るから待ってろ」
質問に答えた男が頷いたので船倉の扉を閉めた。
甲板に出る。
「こちらは片付いた」
「こちらもだ」
ピンクブロンドの女を連れて、女騎士姿のお市が近づいてくる。
「あ、あんたたちは一体……」
「そんなことはいい。まだ終わってないぞ」
俺がぴしゃりと言うと女は黙り込んだ。
「アンジェリカ、あいつらはポルトガルの奴隷船団だ。日本から奴隷を運んできている」
この言葉にお市とピンクブロンドの女の表情が変わった。
お市が近づいてきて俺の腕を取る。
「なら、さっさと助けねばな!」
「あっ、待って!」
ピンクブロンドの女の声を無視して俺はお市の腰を抱き寄せるとフライの魔法を発動させた。
みるみる遠ざかる船。
乗組員たちが唖然として空を見上げる。
そして俺は残りのポルトガル船を掃討した。
「この度は命拾いをした。感謝する」
「なぁに、良いってことよ」
船長が俺に礼を言う。
この船はフランス王国海軍除籍艦のラ・ドーフィネ号で、自分の名前はオスカル=カミーユ・フラマリオンだと船長は名乗った。
ちなみに副長はアンドレアというそうだ。
オスカルとアンドレアって……おい。おい。
そしてピンクブロンドの女が俺の前にずずずいっと進み出る。
よく見るとこの女は釣り目気味の美人で気が強そうだ。
お市とどっこいどっこいかもしれない。
そう思っているとお市が軽く睨んでくる。
「私はアントワーヌ・レグノウ。この船の指揮官だ」
「ラグノウ? なんか菓子屋っぽいな」
「違う!レグノウだ!!」
「ユグノー?」
俺の言葉にフランス人全員が凍り付いた。
……あっちゃあ、図星を突いたか。
「……どうしてわかった?」
震える声でアントワーヌが聞く。
「レグノ―とユグノーで音が似ているからボケてみた!」
俺がそう言うと何故かアントワーヌが脱力した。
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