第4話岡部元信の撤退を支援せよ



尾張へ駆け戻った俺は沓掛城に向かう。

沓掛城には駿河に向けて東走した浅井政敏に代わって元の城主である近藤景春が詰めていた。

取り急ぎとばかりに俺は書状を近藤景春に手渡す。

苦悩を浮かべる近藤景春に俺は声を掛けた。


「義元のおっさんからの伝言だ。生きていれば捲土重来の機会もあると」


「……そうしよう」


義元のおっさんからの伝言を聞いて近藤景春は決断を下した。

それを確認して俺は次へ向かう。

途中で織田の軍勢に幾度か遭遇したがぱっぱと退けて鳴海城までやってきた。

包囲下の城は織田軍の手によって蟻の這い出る隙間もないという感じだったがそこはそれ、難なく場内に忍び込んだ俺は守将の岡部元信に面会した。

岡部元信に書状を渡すと一読した元信は承知したとは言い、その場で軍議がはじまる。

元信から軍議に出てくれと頼まれた俺も話し合いに付き合うことにした。


「問題はどうやって囲みを抜けるかだな」


軍議は続いたが、結局のところ、話し合いのネックはそこだった。

史実だと義元のおっさんの首と引き換えに城を退去したわけだけど、おっさんは健在で曳馬城に居る。

信長の目算としては後詰め決戦に釣り出した義元のおっさんを桶狭間でハメ殺す予定だったのにそれが狂った。

それを考えるとこのまま追撃されずに遠江まで戻れる保障は何もない。


「……それならばこのまま籠城しては?」


なのでそういう意見も出てきてしまう。


「だが、このまま籠城を続けても先は見えている」


これもまたもっともな意見。


「どこかで一戦して叩いておかねばならん」


意見が出尽くした話し合いの最後に元信の大将が言った。

問題は、どうやるかだ。なので俺が名乗り出る。


「じゃあ、その役は俺にやらせてくれ。囲みぐらいは解いてやる」


「安倍殿がか?」


疑わしそうな目で俺を見る元信のおっさん。


「取り敢えず逃げ道を塞いでいる軍勢を吹き飛ばす。

 それで行けそうだったらそのまま曳馬城まで行ってくれ」


「あ、ああ……」


疑わし気な元信のおっさんが見ている前で俺はインベントリから装備を召喚する。


「なんとも怪しげな……」


一瞬で装着された俺の装備は全身に纏う。

ブラックドラゴンの鱗から作られた全身鎧はまさにダークナイト。

ヘルメットのバイザーを上げて俺は元信のおっさんに指示を出した。


「いけると思ったら直ぐに出てくれ。支援する」



「フィリー。聞こえるか」


俺は胸ポケットの中のフィリーに声を掛ける。

するとフィリーはもぞもぞとポケットから這い出して俺の胸に吸い付いた。


「いつでもいいよ。いーっぱい吸っても良いんだね?」


「しかたないさ。お前だけが頼りだ」


「うふふっ。タロウ、もっとわたしに頼ってもいいんだからね……ちゅっ」


言いながらフィリーが胸に口づけをした瞬間、俺の中から何かが吸い出されるのを感じる。

それはフィリーの体の中で魔力へと変換されて現象に干渉するのだ。

怪しげな黒騎士の登場に織田方の兵達は驚きあやしんでいる。

今が好機とばかりに俺は曳馬城の方角へ向けて爆裂魔法を撃つ。


スペシャルEXエクスプロージョン」


包囲に大穴が開いた。

それを見て元信のおっさんが軍勢を進発させる。

混乱する敵陣に向け適宜ファイアーボールを撃ち込んで俺は鳴海城からの撤退を支援した。


俺達は今、包囲を抜けつつある。

殿を勤めようとする若い武将に向かって俺は叫んだ。


「ここは俺が食い止める。お前らは先に行け」


そして俺はこの若武者が騎乗する馬の尻を叩いた。

走り出す馬の上から「すまない」との声が飛ぶ。

その声を聴きながら俺は押し寄せる織田の軍勢に一人向き合った。



「いかせるか!」


包囲軍が半壊するまでフィリーに爆裂魔法を撃ち続けさせる。

敵を無力化した頃になると、俺の胸と頭の芯にはじんじんとする甘い痺れのようなものが染みついてしまっていた。

……いつものことながら変な気分になりそうで困る。


そして、そんな俺を彼方から見つめる偉そうな男が一人。

そいつはすさまじいまでの怒気を籠めた瞳で俺を射るように睨んでいる。


――誰だこいつは?


そう思いつつも次の城に向かわねばならんのでさっさとお暇しよう。

黒騎士のまま走り出すと偉そうな男は大声で叫びだした。


「逃がすな! アレを追え!!」


背後から聞こえてくる男のヒステリックな叫び声に、俺は「まるで女の声だ」という場違いな印象を感じつつ足を速める。

あっという間に敵を引き離すと、背後には目もくれずに俺は大高城を目指した。


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