第4章ー⑤(クリス視点)

   ◇クリス視点


 いつだって後悔は、取り返しのつかない状況になってからします。

 今回もそう。私がもっと早く決断し、実行していたら違う未来があったかもしれません。

 けど私には出来ませんでした。人の目が怖かったから。


 そんな私たちを、目の前にいるソラは助けてくれました。

 血を流し、乱れた呼吸を見ていると息が止まりそうになります。

 ルリカちゃんの注意が逸れたのを見て、私はソラに近付きました。

 そこでは一体の精霊が、心配そうにソラを見ています。いつもソラの周りを飛んでいた子です。その子は必死になってソラを助けようとするけど、何も出来ません。きっと、まだ幼く、どうすればいいのか分かっていないのでしょう。けど、それは私も同じです。

 思わず声が漏れました。涙が頬を伝っていきます。

 それを聞きつけたルリカちゃんは、ポーションを取り出しソラに振りかけました。

 そんな当たり前のことさえ、私は出来ませんでした。

 すると神聖魔法を使える冒険者の方が来て、ソラに回復魔法を使ってくれました。

 それに反応するように精霊の体が光り輝き、何倍にも効果を増幅させたのを感じました。


 その後ソラは荷馬車に乗せられて、私たちは移動することになります。

 安定した呼吸を繰り返すソラを見ると安心します。

 不思議な人。それがソラと会って思った第一印象。何より驚いたのは、精霊を連れていること。本人には自覚がないようだけど、精霊は滅多なことで人に懐きません。

 モリガンお婆ちゃんもそう言っていたのを、今でも覚えています。

 例外は私たちのような者だけ。もちろん完全に意志の疎通は出来ないけど、今の私なら少しだけお話することが出来ると思う。

 違いますね。今の私では意志の疎通が難しいということ。エリスお姉ちゃんなら、きっと何でもないことのようにこなしてしまうと思う。

 意を決して話し掛けました。私の友達に頼んで。

 その子は最初驚いたようだったけど、少しずつ、所々分からないところもあったけど話してくれました。


「そうなの。だから一緒にいたいのね」


 頷くその子は、ただソラのことを案じている。

 長い時を一人で過ごしていたその子は、初めて自分のことに気付いてくれたソラに興味を持ったようです。

 それが始まり。その後ソラのことを見て、もっと一緒にいたいと思ったこと。

 傷付いて心配したこと。

 美味しいものを食べたこと。

 だけど自分の言葉、伝えたいことが伝えられず困ったこと。


「契約をすれば少しは想いが伝わるかもしれません。けど……」


 人と精霊。それは生きる時間が違い過ぎます。確かに一時は一緒に過ごせるけど、人の死はその子が思っている以上に早く訪れる。だから悠久の時を生きる精霊には、別れは早く感じるかもしれません。


「そう、それでもいいのね」


 覚悟は強いようです。

 ううん、本当は本人にもよく分かっていないのかもしれません。

 なら私がしてあげられることは一つだけ。

 私の口からソラに伝えることは出来ません。

 そういう決まりだから。

 だからその子に教えようと思います。私の友達を介してその方法を。

 正直言って、今のその子を見ていると難しいかもしれません。

 けどそれが出来なければ、その子がソラと並び立ち歩くことは出来ません。

 ああ、けどそんなその子のために出来ることが一つだけありました。少しズルいかもしれませんが、このぐらいなら大丈夫かな?

 相談すると私の友達は少し悩んだ末、頷いてくれました。

 その子たちと話していると、ソラが苦しそうに顔を一度ゆがめ、やがて目を覚ましました。

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