第4章ー③
ウルフたちを追いかけるように、それも飛び出してきた。
ウルフよりも二回り以上も大きな大型獣。ナイフよりも大きな
まだ距離はあるが速い。このままだとウルフに追いつくスピードだ。
どうやらウルフたちは、タイガーウルフに追われて逃げていたようだ。
「どうする?」
「魔法使いは魔法の準備。もう少しウルフが近付いたらぶっ放せ。他は迎撃準備。タイガーウルフは俺たち嘆きが受け持つ。他は討ち漏らしたウルフを狩れ。また馬車は集結させろ。離れていると防衛しきれないぞ! 距離はまだあるから焦らずに動け!」
サイフォンが大声で指示を出していく。
特にDランク冒険者には、タイガーウルフのいない方に移動するように。相手も自分の力量は分かっているのか素直に従う。二組いるため、片方のパーティーには商人の護衛に付くように指示している。
「私たちもウルフを狩るわよ。タイガーウルフと引き離して、サイフォンさんたちが戦いやすいようにするの」
ルリカが幌から飛び降りて言ってきた。
「お嬢たちも商人の護衛だ。任せたぞ」
しかしサイフォンは商人の護衛をするように言ってきた。
ルリカは一瞬迷いを見せたが、リーダーの指示に従い商人のいる方に向かった。
魔法が発動し、ウルフを襲う。風と水を中心に、速度重視の魔法を選んで攻撃しているようだ。
その間に野営の時のように荷馬車を円の形に並べてもらい、馬が興奮して暴れないように鎮静効果のある薬草を与えた。
ルリカの指示を受けて俺は幌の上にあがる。
魔法の攻撃で混乱するウルフに追いついたタイガーウルフは、大きく口を開くとそのまま喰らいついた。鋭い牙がウルフの体を簡単に貫通し、血しぶきがあがる。
他のウルフたちは悲鳴のような声を上げ、仲間を見捨ててタイガーウルフを中心に左右に割れて逃げた。
それに素早く対応してみせたのはCランク冒険者たち。まるで未来でも読んでいたようにウルフの進行方向を
タイガーウルフがそれを見て獲物を奪われたと思ったのか、
しかし飛び掛かるよりも前に、魔法が襲う。タイミングを外して、二発、三発と魔法が飛来するが、それを何事もなく
その攻撃を軽やかに躱したタイガーウルフは、間合いに入ってきたサイフォンに狙いをつけて飛び掛かる。鋭い爪の攻撃は、盾を構えた冒険者がサイフォンと入れ替わるように前に出て防いだ。
盾特化なのか両手で盾を構えて武器を持っていない。いや、違う。あれはタイガーウルフの攻撃に耐えるために、盾だけを装備している感じだ。ただ時々盾で殴りつけて、注意をひくのも忘れていない。
よろけたところをサイフォンたちの仲間が追撃をかけて、一撃を与えた。血が噴き出たが傷が浅いのか、タイガーウルフの勢いは止まらない。むしろ手傷を負わされて、激高して勢いが増した。
その間に残った冒険者たちがウルフの討伐を行う。Cランク冒険者側は問題なく対処し、一体ずつ確実に仕留めている。
しかしDランク冒険者があたっていたウルフが、すり抜けてこちらに向かってくる。それはタイガーウルフから逃げるためなのか、それとも追い立てられたストレスを解消するための獲物としてこちらが選ばれたのか、それは分からない。本能が非戦闘員の多い集団をかぎ分けたのか、真っすぐ突進してくる。
悲鳴を上げた商人たちの前に、ルリカが立ちはだかり剣を
しかしすり抜けたウルフは一体だけじゃない。
さらに悪いことに、商人の悲鳴によって注意が逸れた一瞬を見逃さず、タイガーウルフが盾士を吹き飛ばし防衛線を抜けてこちらにやってくる。
ヤバイと思った時には
タイガーウルフの向かう先はこちら、ルリカとクリスの姿がある。
サイフォンたちが慌てて追いかけ、魔法使いの魔法や弓による遠距離攻撃で足止めを試みるが、その速度は鈍るどころか勢いを増して速くなっている。
もしタイガーウルフの感情を読むことが出来たなら、それはきっと歓喜の一言に尽きるだろう。
クリスも魔法で応戦するが、先読みでもするように避ける、避ける、避ける。
「クリス、下がりなさい!」
ルリカが声を張り上げるが、その剣先は小刻みに震えている。
そして至近距離まで近付いたタイガーウルフはルリカに襲い掛かる。しかし、その手前で俺の振り下ろした剣がタイガーウルフの伸ばした前脚にヒットし吹き飛ばした。
「ソ、ソラ!」
「ルリカも下がって。その武器じゃ相性が悪いだろう!」
気配遮断を使っての奇襲は成功したが、ヒットする瞬間、爪で斬撃を受け止められた。
その素早さについていくのがやっとだ。剣に伝わる衝撃に、グッと強く歯を食いしばって耐える。並列思考をフル稼動させて、
視界の片隅には、徐々に大きくなるサイフォンの姿が映る。
あと少し、あと少し耐えられたらいい。
そう思い防御に徹していたが、突然体の動きが鈍った。もう一つの意識でステータス画面を見た時、SPの数値がゼロになっていた。
衝撃。
辛うじて剣を差し入れて致命傷を防ぐことは出来たが、それでもローブは斬り裂かれ、痛みが体に広がる。地面に投げ出された体は、まるで自分のものじゃないように自由に動かない。
視界の片隅にクリスが何事か言っている姿が見えたが、その声も聞こえない。
それよりもさらなる追撃をかけるタイガーウルフが、ゆっくりと近付いてくるのが見える。
もう目を開けているのもなんかつらい。最後、真っ白なものが視界を塞いだ。あのモコモコか……俺を守ろうとしてくれているのだろうか?
薄れゆく意識の中、最後に聞こえたのは、甲高い金属音の響く音だった。
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