第4章ー②
次の日は、朝食を早く済ませて開門と同時に出発した。
王都で仕入れた品をここで卸して、空いた場所には少しの食料品と近隣の村で作られたお酒類が補充された。
それでも全体的な総重量が軽くなったため、馬車の速度が上がった。また座るスペースも確保されたことから、ここからは全ての冒険者が荷馬車に乗り込んだ。さすがに歩いてついていける速度じゃないからだ。
各荷馬車には二人から四人の冒険者が乗り込む。そのため俺たちはまとまって、元々担当していた三番目の荷馬車に乗り込んだ。
また奇数番の荷馬車の幌の上には、それぞれ冒険者が上がり周囲の警戒にあたった。
俺は馬車に乗るのが初めてだったため、最初に幌の上に登って警戒にあたったのはルリカだった。初めて馬車に乗る者は酔うことがあるかもしれないので、まずは慣れるように言われた。
確かに地球の自動車と違い、荷馬車の揺れは酷かった。
サスペンションもないし、ダイレクトに振動が伝わってくる。うん、お
幸い、自然回復向上の恩恵ですぐに痛みはひいていき、また痛くなるを繰り返す。これって熟練度が上がりやすくなるのかな?
「これからの旅程。森の近くを通る個所がいくつかある。魔物や盗賊が出没しやすい地形になっているから注意してくれ」
二日目の朝。サイフォンが出発前に注意を促す。主に俺と、護衛任務初心者のランクDのパーティーの面々に。
俺は荷馬車の幌に上がり、気配察知を発動しながら周囲を見渡す。
最初のポイント箇所に到着するのは二日後だけど、それでも油断していい理由にはならない。
途中、他の商人の荷馬車とすれ違ったけど、その時が、今回の護衛任務はじまって一番の緊張が走った場面だった。
向かってくる荷馬車は三台。それを見てこちらの荷馬車は道の脇に逸れて停止。相手の荷馬車が通り過ぎるのを待つ。
御者台には冒険者と思われる者が二人乗っている。商人の姿が見えないのは、馬車の中にいるからか?
この世界の盗賊は、旅商人に
特に荷馬車の場合、中には商品ではなく人が乗っていることもある。
皆が警戒を強める中で、俺はそれほど緊張していなかった。気配察知で、荷馬車の中身が分かっていたから。だけどそれを口にすることなく、警戒している風を同じように装った。ルリカを盗み見ると、肩の力を抜いてリラックスしているように見えた。
その後は何事もなく進み、日が暮れそうになったので街道から離れて野営の準備をする。
俺は商人たちの手伝いで、まず馬の世話をする。食事と水を与え、洗浄の魔法をかけて軽くブラッシングする。気持ちよさげに
この時精霊が、姿を現しては羨ましそうに馬の方を見ていた。羨ましいと思ったのはブラッシングされているのを見てなのか、食事なのかが分からなかったから、とりあえずベーコンの差し入れをしておいた。ブラッシングは触れられないから出来ないしな。
馬の世話を希望したのは、純粋に世話の仕方を知りたかったのと、馬を利用して移動することになった時のための備え。希望が通ったのは生活魔法が使えたのも大きい。
それが終わると、ルリカたちと合流して食事の手伝いをする。商人と冒険者の中で料理が上手い者が集まり、手際よくこなしていく。
残りは周囲を警戒する組とテントを張る組に分かれている。きびきびとした動作に隙はない。早く終わればその分だけ休めることが分かっているからだ。
食事中はいくつかのグループに分かれて食事をする。主に一緒に乗っている荷馬車の商人と食べるけど、ローテーションで変わることもある。食事中は商人や冒険者の苦労話や、回った町の話、将来の夢など多岐にわたっているけど、色々と知らないことが聞けて楽しい一時だ。
「やっぱ冒険者なら、一度はダンジョンに挑戦したいと思うよな」
「あ〜、分かる。俺はそこで大金稼いで、奴隷買うんだ」
「奴隷なのか?」
「……俺は、現実に生きるんだ……」
俺の問いに、何処か遠い目をしていた。
「ソラはいいよな。ルリカさんとクリスさんとパーティー組めて」
「中継都市までだけどな」
ルリカたちのことを知らないようなので、詳しい事情を省いて説明することになった。
「俺だったらついていくね。たとえこいつらと別れてでも!」
「間違いないな」
「ならいっそ僕たちのパーティーにどう?」
「それはいい。伝説作ろうぜ!」
丁重に断っておいた。ノリは良いから楽しそうかも? と思ったけど。
それが終わったら交代で見張りをする。
今日は月が出ているからいつもに比べて明るい気がする。
見上げる空には星が見える。星の海に
明日も何事もなければ良いなと思いながら、交代の時間までテントの中で休んだ。
◇◇◇
オルカを発って四日目。お昼の休憩を済ませて、荷馬車が動き出す。中継都市フェシスには、順調に行けば三日後には到着出来る計算だ。
旅程は順調で、今のところ何も起きていない。嵐の前の静けさか? 右手には森、左手は岩山。そして森の奥深くには……
――――!
気配察知にひっかかる反応が多数あった。
距離的に肉眼で
しかし何故分かったかと問われると、答えるのが難しい。そういうスキルを持っているから分かった、と説明すると余計な
どうする? どうしたらいい?
近付くにつれて反応が大きくなり、自然と武器に手が添えられた。
「おいおい、いきなりどうしたんだ。何か見つけたのか?」
と、それを見ていた御者台の隣に座る商人が声を掛けてきた。
「話に聞いてた場所がもうすぐだから、つい」
だから誤魔化した。
相手も護衛任務が初めてだと知っているから、しょうがないな、と笑った。
ただその笑みを見て自分のしていることが間違いだと気付く。冒険者なら自分の身を守れるかもしれない。けど商人には自衛を出来る能力がない者が多い。
反応は確かにある。視界に森を捉えて改めて気配を探ると、結構森の奥の方にある。移動はしているようだが、こちら側に来る進路ではないかもしれない。
しかし……ここまでの考えに至ってもまだ迷いがあった。自分と他人を
ギュッと一度目をつぶり、開けた視線を森に向けた時、ぶつかった。
それは宙に漂い、ただ黙ってこちらをジッと見ている白い存在。だけどその悲しそうな目が、まるで責めているかのように見えた。
一秒、二秒……覚悟を決めた。少し後ろ向きな方法だが、これが今出来る精一杯だった。
「ルリカ。森の方に何か見えたような気がする。俺じゃ判断出来ないから確認してくれ!」
ルリカに注意を促し、確認してもらうことにした。索敵系のスキルを持っているという話だったし、確実だろう。もし分からないようなら、その時は……。
それからは早かった。すぐに何かを感じ取ったのか警笛を鳴らす。
順に荷馬車が停止する。
それからしばらくして、森の方で大きなざわめきが聞こえてきた。
進路が変わり、ウルフが一斉に森から飛び出してきた。
「ウルフか」
「魔法の準備をしろ」
「待て、何かいる。……タイガーウルフだ!」
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