第4章
第4章ー①
出発の日、朝食を済ませると女将さんに
「寂しくなるねえ」
思えばこの宿で三〇日近く過ごしたことになる。
「また戻ってくるから、その時はよろしく頼みます」
「あいよ。空いていたらまたおいで。空いていたらね!」
宿を出てルリカとクリスと合流したら、
ゴブリン討伐の時は南門から出たが、ラス獣王国方面は西側に向かうので今日は西門が集合場所になっている。
そういえば精霊はどうしたんだろう? 一応昨夜に王都を離れることを伝え、しばらく戻ってこないことは話した。ゴブリンの討伐の時みたいについてくるかと思ったが、朝起きたら姿がなかったんだよな。
約束の時間よりも少し早かったが、既に依頼人である商人のキャラバンは待っていた。
依頼人に挨拶を済ませ、護衛の冒険者と合流して最終確認をする。
今回参加する冒険者は五パーティー。ランクCが三組に、残り二組がランクD。ちなみにランクDのパーティーの片方からは護衛任務が初めてと申告があった。冒険者が一堂に集まるのはこれが初めてだった。
冒険者のリーダーはベテラン冒険者パーティーの「ゴブリンの嘆き」が務めると聞いていた。
その挨拶ということで姿を現した者を見て驚いた。サイフォンだった。サイフォンもこちらに気付いて驚いていた。
一人のDランク冒険者が、何故そんな名前がパーティー名か聞いたら、駆け出しの時に先輩冒険者たちから、からかい半分で命名されたと、何かを
名付けられた理由は、触れてはいけない、本能がそう訴えてきた。
「ソラが参加するとは思わなかった。嬢ちゃんたちの噂は前々から耳にしてたから来るかもとは思ってたんだけどよ。ソラは嬢ちゃんたちと本格的にパーティーを組むことにしたのか?」
「違うよ。最後だから色々と教えてもらおうと思って、無理を言ってついてきた。だから中継都市までのパーティーになる」
「そっか。まぁ何事も初めてはある。危険はないとは言えねえが、俺たちや嬢ちゃんの指示に従いしっかりやんな」
ガシガシと肩を
「それでは皆さん、よろしくお願いします」
キャラバンのリーダーであるダルトンの号令とともに荷馬車が出発した。
七台の荷馬車が列を作って動き出す。
冒険者たちは前もって決められた馬車の近くを歩いていく。街道は馬車が同時に三台ぐらい並んで通れる幅分の範囲が整備されているが、向かい側から来る馬車とすれ違うこともあるため横に並んで進むことが出来ない。どうしても荷馬車の数が多いと縦長になってしまうのだ。
王都から最初の町であるオルカまでは、荷馬車に多くの荷物を積んでいるため、進む速度が遅いこともあって歩くことになっている。
最終目的地は中継都市フェシスではあるが、その道中に寄る町で取引をしないなんてもったいないと思うのが、商売人の
かといって疲れていざという時に動けないと困るため、体力のない魔法職や女性陣は交代で馬車の御者台に座ることが許されている。男は? と聞いたルーキーには気合で頑張れとサイフォンがいい笑顔で言っていたな。まぁ、女性の人数が荷馬車よりも少ないから、空いたら座ってもいいことになっているが、注目されるなか座ることを選ぶ
「なあ、何で汗一つかいてないんだ?」
「俺は足が痛い。自分たちのペースで歩けないのがこんなにつらいとは……」
休憩中には若い冒険者から、信じられないものを見る目を向けられた。
スキルの恩恵で疲れないし、歩くほど経験値が貯まっていく。
むしろご褒美じゃないか! とは言えないので、配達の依頼を受けることを勧めておいた。
ちなみに俺たちが担当したのは三番目の馬車で、先頭の馬車はゴブリンの嘆きが担当している。
出発して四日間は何事もなく進み、無事最初の目的地であるオルカの町に到着した。
ここでも取引があるため、体を休める目的で一泊した。護衛の本番はこれからという意味もある。
オルカまではまだ王都から比較的近いこともあって、盗賊や魔物が出るとすぐ討伐されるため実際に遭遇する確率は
「おう、これから作りに行くのか?」
宿を出ようとしたら、サイフォンに声を掛けられた。
ここ数日の野営でベーコンを振る舞ったところ、冒険者だけでなく、商人からも絶賛された。特にサイフォンからは、
「荷物運びも出来て料理も出来る。なあ、俺んとこのパーティーに来ないか? 戦い方は教えるのが上手いのがいるし、ソラにも利点があると思うぞ」
と、誘われたりもした。
やっぱり美味い食事は、それだけでパーティーの士気が上がる。特に冒険者にとって、移動するだけの日々の楽しみと言えば、寝ることと食事をすることぐらいしかないしな。
今日は本来なら休みだが、ダルトンからベーコンの作成を頼まれたため、それを作りに町の外に出る必要がある。本当は町の中で作れる場所があればいいのだが、どうもこの世界のキッチンは使い方が今一つ分からないため、いつもの方法で作る方が確実だと思ったのだ。他の作り方を知らないとも言うが。
ベーコンを作っていたら、見慣れた白いものが視界に飛び込んできた。
「ついてきてたのか?」
コクコクと頷くと、ジッと燻製されている様子を眺めている。
どうやって来たのか聞くと、馬車の上の方を見ている。どうやら馬車の
もちろんこの後、精霊は味見とでもいう顔でベーコンを食べて満足していた。
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