第3章ー⑥

「おいおい、大丈夫か?」


 街に入る時にいつもの門番がいて、まず俺の姿に驚き心配された。


「ソ、ソラさん。大丈夫ですか?」


 次に討伐の報告をしに冒険者ギルドに行ったら、ミカルから心配された。

 頭に包帯を巻いているけど、傷はふさがって治っているんだよな。クリスが心配してまだ巻いてくれたというのもあるけど、ある思惑があってそのままにしていた。


「なかなかの強敵だったよ。一対一なら戦えたけど、複数同時の連戦だとちょっとつらかったかな」


 ゴブリンの数が依頼と違ったことを報告し、討伐部位と魔石を渡す。素材がないから買取カウンターまで行かず精算を済ませる。


「そういえば例のウルフの群れってどうなったの?」


 ルリカがウルフの件で進展があったか聞くと、討伐は無事終了したと教えてくれた。

 予想通り群れを統率していた特殊個体、上位種がいたが、ランクBとランクCの複数パーティーにより、速やかに対処したようだ。本来なら過剰戦力だが、街に近いということもあって多くの冒険者を投入したらしい。

 南門都市方面に行く荷物が運べずに困っていたというのも、多くの冒険者を投入した理由の一つみたいだ。

 ただ森の中の生態系が少し崩れたかもしれないので、森の奥に入るのは今はやめておいた方がいいと言われた。もちろん薬草採取の依頼を受ける場合も、注意してくださいね、と。


 帰る時に何か依頼がないかを確認し、それぞれ別れて泊まっていた宿が空いているか確認に行った。どちらも無事宿泊することが出来た。

 包帯を巻いたまま戻ったら女将さんに驚かれたけど、念のために巻いているだけと説明した。

 部屋に戻るなり包帯を外して触れば、もう傷は完全に塞がっている。

 それを見た白いモコモコ、改め精霊は、しばらく周囲を飛び回っていたが、安心したのか定位置のベッドの枕元に着地すると眠ってしまったのか動かなくなった。


 その姿を眺めていると思い出すのはゴブリン討伐のこと。

 ウルフの時はただ夢中に剣を振るって、いつの間にか終わっていた感じだったが、今回はゴブリンを討伐するというはっきりした意志を持って戦った。

 グッと握った手の中には、確かな手応えが残っているような気がした。

 確かにルリカやクリスと比べてしまえば俺の倒した数は少なかったが、魔物にひるむことなく戦えたのは大きかったと思っている。もちろん二人の存在が大きかったのもある。

 ただこのままでいいかと言えばそうでもない。初めての本格的な魔物との戦い、複数の魔物との連続戦闘。初めて尽くしとはいえ、戦った相手は最弱と言われているゴブリンだ。それを相手に苦戦するようでは駄目だ。負傷して精霊にも心配させたし、いつかはルリカたちと別れる時が来る。

 ならどうすればいいか?

 鍛錬を続けて剣術などのスキルのレベルを上げることもそうだが、歩いてウォーキングのレベルを上げることも必要になってくる。特にウォーキングのレベルが上がればステータスの数値が増えるから、基礎的な能力が上がるだろうし、何よりスキルポイントの取得により新しいスキルを覚えることも可能になる。少し現状を確認しておくか。


――――――――――――――

スキル「ウォーキングLv20」

効果「どんなに歩いても疲れない(一歩歩くごとに経験値1取得)」

経験値カウンター 70002/130000

スキルポイント 8


習得スキル

【鑑定Lv 6】【鑑定阻害Lv 2】【身体強化Lv 6】【魔力操作Lv 4】【生活魔法Lv 4】【気配察知Lv 6】【剣術Lv 4】【空間魔法Lv 2】【並列思考Lv 2】【自然回復向上Lv 2】

――――――――――――――


 新しいスキルを覚えるか迷ったが、新しく三つ覚えたばかりだから少し様子を見ることにした。色々覚えても使いきれないかもと思ったのが一つ、ウォーキングのレベルを上げるのに必要経験値がまた増えたのが一つ。今度は20000増えている。

 けど我慢出来なくて取っちゃうかもしれないな……。

 明日は一日休んで、次の日から依頼を探そうとルリカに言われたけど、明日も配達の依頼を受けにギルドに行くとするか。


   ◇◇◇


 翌日は配達の依頼を受けて一日を過ごし、その次の日にルリカたちと合流して再び依頼を探した。


 初心者用の討伐依頼をルリカが見繕い、それをこなしていく。朝一で出発したら日帰りで戻ってこられるものだけを選んだ。

 基本的に討伐依頼をこなしたら、一日休みを挟んでまた討伐依頼を受ける。

 休みの日はもちろん配達の依頼を受けた。ルリカたちも最初は働き過ぎだと心配してきたが、討伐依頼を問題なくこなすのを見て、途中から何も言わなくなった。


 配達の依頼の日には、精霊が常についてきた。目的は明白だ。

 村でベーコンを食べたことで認識を改めたのか、興味深そうにジッと料理を眺めるようになった。

 グレイ印の肉串にくぐしを買って差し出したら、匂いを確認したのち、ワンブロックが消えた。

 俺も続いて食べたが、数日ぶりに口にした肉串に思わず「美味い」と声が漏れ、それに同意するように精霊がコクコクと頷いた。肉串を差し出せば、今度は躊躇ちゆうちよなく食い付いた。

 その後屋台街の怪と呼ばれるようになるという、ちょっとしたトラブルもあったが、今ではすっかり料理の虜だ。お腹が減るという概念があるかは謎だが、目をキラキラさせてうれしそうに食べる姿は見ていて気持ちがいい。何より誰かと一緒に食べるご飯は美味しかった。

 あと気付いたことは、お城の方に近付くと、すごく嫌がったことか。俺も出来れば近付きたくないが、依頼によっては行かなくてはならない時もある。何度も引き止めるような仕草をしたが、無駄だと分かったのかあきらめて引き返していった。そんな日は、決まって宿屋に戻るとホッと安心したような表情を見せて、俺の周囲を飛び回った。


 討伐の依頼に関しては、色々な魔物を狩った。虫系の大きな魔物を見た時は、背筋がぞわっとした。あれは駄目だ。けど慣れるしかない。一人だったら依頼を受けないな、絶対。

 動物系の魔物は毛皮が重宝されて他と比べて稼ぎが良い。癖があって倒しにくいのもいたけど、冷静に対処すれば問題なかった。肉類も食べられるものが多いので、戦闘よりもむしろ解体の方が大変だった。ルリカだけでなく、クリスも解体する姿を見ると、投げ出すことも出来ず黙々と手を動かした。「解体術」というスキルを取るか、ちょっと、いや、かなり本気で悩んでいる。


 ちょっと遠出して、薬草の採取にも出かけた。鑑定が活躍し驚かれた。もちろん鑑定のことは内緒だから、記憶力には自信があるんだと嘘を言った。

 そもそもモノを鑑定するスキルが存在するか遠回しに尋ねたら、空間魔法よりもさらに使い手の少ない、希少なスキルだとクリスが興奮気味に話してきた。どうやらこれ、俺が思っていた以上にかなりヤバイスキルのようだ。今でこそ魔道具で様々なアイテムの品質の確認が出来るようになったが、その前は鑑定のスキル持ちに一つ一つ確認してもらっていたという歴史があるそうだ。


 一緒に行動していくうちに、最初は嫉妬しつとの視線を送ってきていた男たちも、徐々に生暖かい目を向けて見守るような感じになっていった。ルリカの指導するような姿を見て、まるで弟に教える姉のように見えたようだ。時々、頑張れよ、と声を掛けてくる者もいた。


 色々依頼を受けたことで、懐も温まり、ギルドランクがEからDになった。同時にルリカたちのランクも上がり、Cランクになった。

 それは同時に別れの時でもあったけど、ある考えが浮かんでいた。

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