第3章ー③

 ルリカが目を覚ましたので休ませてもらう。

 シーツの上に横になると、突然目の前に白いモノが現れた。

 闇夜に浮かぶ真っ白な影! 思わず悲鳴を上げそうになったけど、正体は神出鬼没なあの子だった。


「ど、どうした?」


 二人に聞こえないように小さくささやくと、一度こちらに目を向けたけど、まるでまぶたを閉じるような感じでモコモコの中にひとみが消えていった。

 もう一度声を掛けてみたが、反応がない。耳がペタンと倒れ、その後動かなくなった。寝惚ねぼけていたのか?

 しばらく待っても動きがないから、俺も目を閉じてステータスオープンと唱えた。


――――――――――――――

スキル「ウォーキングLv18」

効果「どんなに歩いても疲れない(一歩歩くごとに経験値1取得)」

経験値カウンター 23371/100000

スキルポイント 9


習得スキル

【鑑定Lv 5】【鑑定阻害Lv 2】【身体強化Lv 5】【魔力操作Lv 3】【生活魔法Lv 3】【気配察知Lv 4】【剣術Lv 3】

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 スキルのレベルが2上がり、使用出来るスキルポイントが9になっている。


――――――――――――――

NEW

【空間魔法Lv 1】【並列思考Lv 1】【自然回復向上Lv 1】

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 今回はスキルポイントを3ポイント使って三つのスキルを覚えた。

 これで残りスキルポイントが6になった。


 空間魔法を覚えたら、話に聞いた通り収納魔法がまず使えるようになった。これは収納空間に物を入れることで熟練度が上がるようだ。俗に言うアイテム袋の魔法版か。

 レベルが低いからか、収納出来る量はまだまだ少ない。熟練度は物の出し入れだけでなく、常に何か物を入れておくだけでも上がるようなので、とりあえず使わないアイテムを入れておいた。


 並列思考は同時に複数のことを考えることが出来るようになる。これは今回野営をするにあたり、眠っていても気配察知を発動させるにはどうすればいいか考えて、並列思考があれば出来るかも? と思い選んだ。ただ寝た状態で使えばSPはどんどん消費されてなくなるので、それ対策で自然回復向上を同時に習得した。


 自然回復向上はHP・MP・SPが回復する速度を上げてくれる優れもの。それ以上でもそれ以下でもないスキルだ。


 と、いうことで並列思考を試しながら寝ることにした。

 並列思考を発動させたら、元々一つだった意識が右と左、二つに切り離されたような感じを受けた。右側は休憩のために意識を休ませ、左側の意識で気配察知を発動させる。なんか不思議な感覚で、一方は完全に休んでいる自分がいるのに、もう一方で微かな反応を感じる自分がいる。

 ただそれも、突然回線が切れたようにブラックアウトして反応が消えた。SPがなくなって強制的にスキルが解除されたみたいだ。

 目を覚ましてステータスを見ると、SPの数値が一桁ひとけたになっていた。スキルのレベルが低いからなと思って熟練度を見たら、物凄ものすごく上がっていた。二つ同時にスキルを使ったからSPが尽きるのが早かったようだ。

 ちなみにポーションの値段の高さから、錬金術を覚えて自作出来るようになったらいいと思ったが、今覚えてもレベルを上げることが出来そうもないから今回はやめておいた。



 寝惚けた顔を生活魔法で洗い(クリスが水を出してくれた)、朝食を済ませると移動を開始した。

 遠くに見えていた山の形は相変わらず同じだ。見通しのいい草原が続くだけなので、歩いていると本当に進んでいるのか不安になってくる。

 ん〜、けどこの草原。見ていると横になりたくなるよな。ふかふかしていて気持ち良さそうだし。服が汚れても洗浄魔法あるし。


「ソラ、変なこと考えてないでしょうね?」


 食い入るように眺めていたらルリカから指摘され、ドキリとした。


「ルリカちゃんも昔、今のソラと同じような顔で見ていたよね」


 クリスの強烈な口撃がルリカにヒットした。

 思わず笑ったら、食後の運動と称してルリカと模擬戦をすることになった。今日の空は快晴で、雲一つない。爆弾を投下したクリスはおとがめなしのようだった。

 夕食後は交代で見張りをして、ルリカからは今まで受けた依頼について、クリスからは魔法についての話を聞いて過ごし、眠る時になると現れる白いモコモコに添い寝されながら過ごした。

 そして三日目の昼過ぎになると、本通りの街道から逸れて脇道に入った先にある、綺麗きれいに手入れされた森へと足を踏み入れた。伸び過ぎた枝が途中で剪定せんていされていて、光が射して暗さがないから安心して歩ける。

 森の中を進んでいったら、突然視界が開けた。

 森を抜けた先にはさくで囲われた建造物群が。ただ柵は所々破壊された跡があり、急造で補修されたような箇所がいくつもある。


「なんだあんたら。この村に何か用か?」

「サイの村よね? ギルドからゴブリン討伐の依頼を受けた冒険者よ」


 警戒する門番に、ルリカがギルドカードを提示して用件を伝えると、人を呼び、交代すると村長の家まで案内してくれた。ただ案内中、どこかその門番は落ち着きがなく、そわそわしていた。


「あとは村長から直接話を聞いてくれ」


 と、村長を呼んでくると逃げるように去っていった。


「冒険者の方ですか……」


 村長の謝罪からはじまった説明によると、ゴブリンの被害によりギルドに依頼した当初は、確認出来ていた数も少なく一〇体ほどと報告していた。

 ただここ最近、村を襲ってくる頻度が増えてきて、その数が予想より多いことが分かったらしい。


「少なくとも二〇体以上はいると?」

「はい。ゴブリンを見つけてから村を囲む柵などを補強したので、なんとか防ぐことは出来ていたのですが……ただ完全に防ぐことが出来ず、危ない時は家畜を放ったりしてどうにか今日まで保つことが出来ました」

「前回はいつ襲われたの?」

「二日前になります。最初は自分たちで倒すことも出来ていたのですが、数が多く、こちらの被害が大きくなると防戦一方に」


 村長が疲れ果てた顔で、ルリカの言葉に丁寧に答えていく。


「そっか。なら今日は先に休ませてもらおうかな。今から森に入ると夜になるし、入るなら朝の方がいい。もし今夜、襲撃されるようなら起こしてくれていいから」


 夜の森はたとえ月明かりが射していても、容易に歩ける場所ではない。それが初見ならなおさらだ。特に舗装された道があるわけではないので、場合によっては木の根に足を引っ掛ける場合だってあるし、戦闘中にそのようなことになったら致命傷になりかねない。


「あ、あの。依頼料の方なのですが……」

「気にしないで、と今回は言っておくけど。依頼料を出し渋ると怒って帰る冒険者もいるから注意してね。こっちも命をかけてるし、場合によっては狩れないと判断する場合だってあるから」

「……はい、ありがとうございます」


 その日の襲撃はなかった。ただ村を遠巻きに見る群れの反応を気配察知が捉えていた。

 もしかしたらゴブリンも新手の存在、俺たちのことを知って警戒を強めたのかもしれない。

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