第3章ー②

「今日はここまで。野営するなら……あの木の辺りがいいかな」


 少し街道から離れたところにある木の根元まで移動し、野営の準備をする。少人数で移動する場合は、状況にもよるが基本テントは使用しない。もちろん寒冷地に行く時は別だが、過ごしやすい気候の場所だとローブをまとうだけの者が多い。

 それは奇襲をかけられたりした時に、すぐに対処出来るようにするためだ。


「慣れないソラもいるし、今日は二人一組で見張りをして、一人が休むような感じにしよう。本当は一人で見張りをした方が休める時間がとれるけどね」


 今日やってみて、問題なさそうなら明日からは見張りを一人体制にしようという話になった。

 まずは火をおこし、一休み。これはクリスに教えてもらいながら、俺が生活魔法を使った。

 料理は二人とも出来るようで、手際がいい。手伝おうとしたら見ているだけでいいと言われた。かなり必死に。


「野営の時の料理は簡単なスープとパン、あとはあって干し肉かな。基本的に保存食を使って作るんだけど、種類もなくて美味しいものがないのがね。ただ高性能なマジック袋があると、お店で食べる料理をそのまま持ち歩けたりするなんて話を聞いたことはあるかな。本当かどうかは分からないけど」

「いくらぐらいするんだ?」

「基本オークションに出品されるから天井知らずで上がるらしいよ。収納量で変わるみたいだけど」

「持てる量が増えるほど高くなっていくわけか。収納魔法みたいなのはないのか?」

「……空間魔法に、収納魔法というのがあります」

「使い手は滅多にいないけどね。空間魔法を使える人って珍しいのよ。だから戦闘力がなくても、空間魔法持ちってだけで高ランクパーティーに誘われるって話は聞くよ」


 空間魔法か。スキルポイントもあるし便利だから覚えてもいいかもしれない。ただな〜、他にも覚えたいスキルがあるから悩ましい。


「ハイハイ。お話が楽しいのは分かったけど、クリスは先に休もうね。続きは起きてから二人きりでするといいよ。もちろん警戒はしっかりしてね」


 言われて顔を真っ赤にしたクリスは、フードを被ってシーツの上に横になった。


「私以外とあんなに話すクリスは初めて見たよ」

「恥ずかしがり屋って感じがするしな。話すことを苦手とする人もいるし」

「そういうわけじゃないんだけどね。ま〜、取られたみたいで少し寂しい気がするけど、クリスが楽しそうに話すのを見るのは私もうれしいから、積極的に話してくれていいよ。仲良くなることは認めます。けど、傷つけたら一生許さない、かな」


 うん。ちょっとその笑顔は怖いですよ。

 とはいえ話した内容もスキルや魔法のことだったし。普通の会話はハードルが高いだろう。俺も正直日常会話をしようと言われても困る。

 それに、何処まで自分のことを話していいかも分からない。異世界から召喚されたというのも説明しづらい。

 いや、召喚した勇者が魔王を討伐した記録が残っているなら、もしかしたら異世界人のことを知っているかもしれない。今度何気なく聞いてみるか? 危険か?

 ……気配察知を覚えてから、どうも見られているような妙な反応をとらえる時がある。気のせいならいいが、これが勘違いじゃなかった場合は……。仮にそんなことをする輩がいるとしたら、心当たりは一つしかない。俺を召喚した奴らだ。追放していて監視するとか、矛盾している気もするが。

 もちろんただの勘違いの可能性だってある。何が良くて何が悪いかの判断が出来ないため、下手に話してルリカたちを巻き込むぐらいなら、確証が得られるまでは、波風立てないで黙っていた方が良いだろう。

 見張りは初めての経験ということもあって、気が高ぶっていた。ルリカに過去の冒険の話を聞かせてもらったのも原因の一つだろう。

 火は地面を掘っていているため、近くにいる人を辛うじて確認出来る程度の明るさしかない。見えない分聴覚が研ぎ澄まされるのか、息遣いが余計に耳に残った。闇夜で視界が遮られているため、定期的に気配察知を使っては周囲を探った。月が出ていれば違うのだが、生憎と今日は雲に隠れているようだ。


 途中交代してクリスが相手になったら、魔法についてもう少し詳しく聞いてみた。

 どんな魔法が存在し、その属性にはどんな魔法があるかを教えてもらった。


「クリスたちは共和国から帝国を通って王国に来たって話だけど、今までの旅で印象に残ってることってあるか?」


 話題が一段落した時に、ふと他の国のことが知りたくなって尋ねてみた。


「……印象ですか。悪い意味で帝国にある闘技場かな? よく向こうの冒険者の人にルリカちゃんと一緒に誘われたけど、見世物のようで嫌でした」


 声のトーンが変わった。地雷を踏んだかもしれない。わ、話題を変えないと!


「そ、そうなのか。なら冒険者をやってて良かったことは?」

「……依頼人の方から『ありがとう』って、言われた時、かな」

「あ〜、分かる。やっぱ感謝されると、同じ達成感なんだけどちょっと違うんだよな」

「う、うん。嬉しいよ……ね」


 勢い込んで話したのが恥ずかしかったのか、クリスの言葉がしりすぼみになっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る