第3章
第3章ー①
「うん、出発日和の良い朝ね」
朝からルリカのテンションが高い。張り切り過ぎて、途中疲れることはないのだろうか?
「お、今日は遠出するのか?」
野営装備を見た門番が声を掛けてくる。
「近頃物騒だ。分かっていると思うが気を付けろよ」
街道沿いに歩いていくので迷うことはないが、進行方向に人の姿がない。
依頼先の村がある方向に、
だから今通った南門は
もっともウルフの群れは森の奥深くの方にいたから、こちらまで来る確率は低いとのこと。基本的に森の中で生活する習性があり、食糧不足か縄張り争いに負けない限りそうそう出てこないらしい。
街道は草原の草を刈り取ったところがそのまま道になっているような感じで、道の両端には草花が咲いている。もちろん現代日本のようにアスファルトなんてことはなく、踏み固められた土の道が地平線の彼方に延びる。風が吹けば草花が揺れ、不思議なメロディーを奏でて耳を楽しませてくれる。草花の上を舞っているのは
しばらく進めばウルフのいると思われる森が見えたが、何事もなく通り過ぎることが出来た。口では大丈夫と言っていたが、ルリカも警戒しながら歩いているようだった。俺の気配察知にも反応はないが、まだレベルが低いから遠くまで探ることが出来ない。
配達依頼や模擬戦をして色々分かったのは、スキルにも色々な種類があるということ。例えば身体強化や剣術は常時発動型で、これは使っていてもSPが減らない。逆に鑑定や気配察知は任意発動型で、使用中はSPを消費していき、SPがゼロになると体に負荷がかかり調子が悪くなる。その状態でさらにスキルを行使すると、意識を失ったりする。これは宿屋で気配察知を使っていて分かったことだ。また複数同時に使用するとその減りも早い。
ただ特筆すべきことは、任意発動型を使っていても、歩いているとSPが減らないということ。これは「どんなに歩いても疲れない」の恩恵を受けているからと思われる。だから今も気配察知は常に使用している。ただし例外があり、他のスキルとの同時使用だと減っていく。
ちなみにSPとは魔法系以外のスキルを使用するのに必要な数値で、なくなると体に負担がかかるところからスタミナが関係しているのかもと勝手に思っている。MPは生活魔法を使ったら減ったから、魔法系のスキルを使うのに必要な数値になるようだ。HPに関しては今のところ減ったのを確認したことがないが、想像通りならゼロにしてはいけないと思っている。
「そろそろ休憩しようか」
二時間ほど歩いた頃、ルリカが言ってきた。
基本的に無理はしないで、何度も休憩を挟みながら歩く。水分補給は大事だし、それにまだ初日。疲れていないからと言って考えなしに歩くと、それは後々響くから注意が必要とは、ルリカ談。あとは体力が比較的ないクリスのことを気遣ってのことのようだ。
「今日はちょっと日差しが強いかな。歩いているだけで汗かくね」
「ルリカちゃん。洗浄魔法いる?」
「ん〜、何があるか分からないしいっかな。クリスは気持ち悪いようなら使っていいよ。私と違って少し厚着だしさ」
「ん? 洗浄魔法がいるのか?」
「そりゃ〜、長時間歩けば汗もかくし疲れるし……って、ソラは汗一つかいてないわね」
そんな信じられないものを見る目で見なくても。
「さすがは配達の依頼を多くこなしていただけあるのね。って、ソラも生活魔法使えたんだったね」
「ああ、良かったら俺が洗浄魔法使おうか?」
その問いかけに、二人が深く頷いたので洗浄魔法をかけた。
「あ〜、やっぱ快適」
「ありがとう」
「
「他の魔法は使えないの?」
「あ、ああ。そもそも魔法ってさ。どうやって覚えるんだ? これは気付いたら使えるようになってた感じだし……」
ポイントを使って習得したわけだが、一般的な習得方法ではないだろう。
「ソラの言う通り、ある日突然覚えることが多いです。使い方もなんとなくだけど分かるのが普通です」
「なら使いたい魔法があっても、運を天に任せるしかない感じか」
「一応魔法書を読んだり、勉強したりすると覚えることがあると聞きます。ただ魔法書は専門的な文字で書かれていて、それを知らないと読めないと思います」
「あとはダンジョンとか遺跡で発見される魔法のスクロールを使うと覚えられるって聞いたことあるかな。高いみたいだけど」
スキルを後天的に覚えることが出来るなら、何故俺は追い出されたんだ? ……職業なし、レベルなし、さらにあのステータスだったからか……?
「あ〜、あとスキルに関してだけど、言いたくないスキルとかは他人に話さない方がいいよ。もちろん話した方が仲間を募る時とか有利になるけどね」
「うん、魔法とかは事前に知っていた方が連携をとれるから言っておいた方がいいかも。私は生活魔法の他は、火と風の魔法が使えます。本当は体力の上がるスキルが欲しかったけど無理でした」
クリスは体力がないことを気にしているようだ。
「私は身体強化系と索敵系のスキルかな」
「……俺は生活魔法と運搬? になるのかな」
運搬という言葉になんか納得された。他のスキルは……正直に言わない方が良いのかな?
休憩を終えて再び歩き出す。二人の荷物が少し俺のバッグに収納されたが文句はない。増えても歩いている間は重さを感じないし。
最初は慣れない女性との旅で不安に思っていたが、二人が色々と気遣ってくれたこともあって、徐々に肩の力が抜けて自然体で接することが出来るようになった。文字通り先輩冒険者として、新米を導いてくれているような感じがして心強い。
それでもクリスは男慣れしていないのか、従来の性格なのか、一歩引いて恥ずかしそうに接してくる時があった。深窓の令嬢を想像させられるような
だからついこちらも意識してしまう時があるというか、なんというか。
ルリカは、私は分かっています、と言うかのようにからかうような表情で意味ありげに頷いてくるし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます