第2章ー⑤
「両手に花とは恐れ入る。どこでナンパしたんだ?」
仕事しろよ。門番なら、まずはギルドカードを提示させて入場確認するのが先だろ。
人を見て開口一番出た言葉がそれか。
そりゃ一人で出ていったと思って戻ってきたら、可愛い少女二人と
「あの時の助言が少しは役に立ったよ」
「ん? ……魔物と遭遇したのか?」
「ああ、そこで二人と会ったんだよ」
とはいえ、心配してくれたことを考えて感謝の言葉を言う。
まだ何か聞きたそうだが詳細の説明はしない。下手にウルフのことを話さない方がいいと、ルリカからは止められているからだ。
会話はここまでと黙ってギルドカードを差し出すと、門番の男もそれ以上は何も言わず素直に確認してくれた。カードを何かの道具に近付けている。
そんな俺たちのやりとりを、少女たちは一人が呆れた表情を浮かべ、もう一人が苦笑しながら見ていた。
「とりあえず冒険者ギルドに行こうか。助けてもらったお礼はそのあとね」
揃ってギルドに入ると多くの視線に迎えられた。
アルゴが何か
うん、珍しい組み合わせだったから目立ったんだろうが、そこ、別に何もないから殺気を飛ばすのはやめてもらいたい。アルゴ、お前もだ。
「それじゃあとでね」
特に気にした様子のないルリカの一言で、場の空気がさらに一段階悪くなったような気がする。
「お願いします」
ミカルに採取してきた薬草をそのまま納品する。
単純に一〇枚一組での採取依頼なので、それを複数組納品するとその数だけ依頼をこなしたことになる。
薬草類はポーションの材料になるため、常時依頼として出ているからだ。冒険者や旅をする者にとっての必需品となるため、依頼がなくなることはない。国も定期的に買っているようだし。
仮にウルフを一〇匹討伐するなどの依頼の場合は、三〇匹討伐しても一回分の依頼としてしか処理してくれない。もちろん魔石や素材は、普通に買い取ってくれるからお金にはなるけど。
「それでどうしてあの二人と一緒だったんですか?」
野次馬はここにもいたか。好奇心に
ある意味この場にいる全ての人の代弁者とも言えるかもしれないけど。それでいいのか?
ミカルの言葉にざわめきがなくなり、俺の言葉を何一つ聞き逃さないようにと、ギルド内が静まり返った。
「あ〜。薬草採取で勧められた群生地に行ったんだけど、そこでウルフに追われているのに遭遇して」
「ウルフに追われていたのですか? あの二人の実力なら問題なく狩れると思うのですが……」
俺の言葉にミカルは
それは聞き耳を立てていた冒険者たちも同じのようで、不思議そうな顔でこちらを見てきた。
そしてその疑問に応えるように、突然ギルド内が騒がしくなる。
ルリカたちと話していたギルド職員が奥の方に走っていき、しばらくしたら戻ってきた。後ろに一人の男性を連れて。
それを見た冒険者たちは口を
「もう一度説明をしてもらってもよろしいですか?」
柔らかい物腰だが、その眼光は鋭い。
シンと静まり返ったギルド内に、ルリカの声が響き渡る。
ルリカの話が終わると、一転再びギルド内が騒がしくなる。
距離的にも街に近い森。そこでウルフの群れが発生した。
特に薬草採取などに使われる初心者用の森でもあるため、注意をしないと冒険者に被害が出るかもしれない。
男は素早く指示を出した。
ギルド内で休憩していた何組かのパーティーにも参加要請をしている。
また何人かの職員がギルドの外に向かって走っていった。
これは他のギルドへの注意喚起と門番への連絡のためのようだ。
「あとはギルマスに任せて。ウルフの買い取りをしてもらおっか」
解放されたルリカがやってきて、三人で買取カウンターに向かう。
一緒に歩いていても、もう誰も見てこない。それほどの衝撃が、あの報告にはあったのだろう。誰も彼もが、忙しく動いている。何より一緒にいた理由を知ったのでそれで興味を失ったのだろう。アルゴも真剣な顔で仲間たちと話している。その顔でナンパすればOKがもらえそうなのに、残念ながらナンパ中の顔は……。
買い取りの査定は、予想通り俺の解体した素材の値段だけ悪かったとだけ言っておこう。
最初だからあんなもんさ、という男気のある励ましが胸をうったね。
素材による代金は半分くれた。
三人だから三等分じゃないかと聞いたら、「気にしなくていいよ」と、言われた。
三等分でも多いと思ったのに、駆け出しだから、今はもらえるものはもらっておきなさい、とのこと。
そしてさらにお礼ということで、夜にご飯を
何故そこまでしてくれるのか尋ねたら、それほど二人にとっては危機的状況だったらしい。ウルフを狩り終わったあとに話をした感じ、余裕そうだったのに。
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